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desire

戦の最中、城内へと、忍び込んで来た賊の男。

臣下と城から脱出しようとしていた和香わかは、運悪くその男に出会ってしまう。

戦に負けたとは言え、礼を尽くせと言う和香に、男は嘲笑って刀を突き出して…。

そして欲望と言う名の檻に繋がれた和香は、やがて来る死だけを待ち望む。

(悲劇/シリアス/戦国/バッドエンド)

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興味を持って下さってありがとうございます。少しでも読んで下さった方の心に残れば嬉しいです。


自国を攻められ、信頼出来る配下と逃げようとしていた和香わかは、周囲に響くときの声の中、身体の芯まで凍り付く様な気配を感じて足を止めた。


「…姫様?」


心配そうに名前を呼ぶ臣下に片手を上げ、周囲に視線を走らせると、締め切られた襖に一筋の閃光が走る。


「姫様ッ…!こちらへ…!」


閃光に見えたのは、襖を二つに切り捨てた剣筋けんすじで、崩れた襖の奥から長い髪をした男が現れる。


血に濡れた刀を持ったその人影は、顔が隠れる程に長い髪の間から背筋が凍り付きそうな程に冷たい視線を和香に投げ掛けた。


(さっきの気配はこの男だ、間違いない…)


身の毛が総毛立つ様な雰囲気と、肉食獣の様な雰囲気を併せ持った男は、和香を見ると慇懃無礼いんぎんぶれいな態度で頭を下げる。


「おやおや、つまらない戦だと思っていたら…面白い獲物を見つけました…」


「無礼者!名を名乗っ…」


「五月蝿いですねぇ…」


異様な雰囲気に、配下の数人が和香を守ろうと立ちはだかるが、長髪の男は邪魔くさそうに刀を振り上げる。


それと同時に目の前にいた配下の首が飛び、和香は声にならない悲鳴をあげた。


「姫様…!」


震えた声で名前を呼び、両脇にしがみ付く女中を後ろに隠す様に一歩前に出ると、和香は凛とした立ち振舞いで男を見つめる。


「…素晴らしい、その怯えを見せぬ態度…是非にでも貴女の泣き叫ぶ姿が見たくなりました」


唇を舐め上げながらそう言うと、男は刀を見せびらかすように和香に近付く。


「貴女の国は滅びましたよ、貴女はどうしますか?」


一歩一歩ゆっくりと近付く男から、和香は同じく一歩一歩離れる。


(この家紋…、七戸しちのへか)


「この場で私に殺されますか?それとも兵達の慰み物になりますか?」


「…!!無礼な!」


「貴女はご自分の立場が分かっていない様だ…、貴女は戦に負けたのです」


「貴様…礼儀を知らぬのか!例え負けたのだろうと、相手に対して礼を尽くすのが道理であろう」


「ほぅ…」


「以前貴様の国と争った折り、貴様の国の人間を捕虜として預かった際、我が国は礼を尽くし、丁重に扱ったぞ」


「ふ…ははは、貴女は何か勘違いをしてる様ですね」


「何?」


「此処へ攻めて来たのは、戦ではありませんよ?…単なる私個人の暇潰しです」


「…ッ!!?」


「攻めた事を上に報告するつもりも、貴女を主人に献上するつもりもありません。何故なら…今宵の殺戮は、山賊が近隣の村を襲っているのと同じ価値しかないからですよ」


「私を…どうするつもりだ」


「そうですね…、貴女はどうしたいですか?」


そう言って低い声で笑い、両手を広げた男の姿は、巣を張った蜘蛛の様に見える。


ゆっくり…、ゆっくりと首元へ近付いて来る朱に染まった刀を見た和香は、自分の最期を覚悟し目を閉じる。


「兵達の慰み物にするには惜しい器量の持ち主だ…、私が持ち帰るとしましょうか…」


そう呟いた言葉は、容赦なく腹部に叩き込まれた拳で意識を失った和香には聞こえていなかった。






蜘蛛の巣に捕らえられた蝶か蛾の様に。

自由を奪われ、真綿で優しく首を締める様に。

欲望と言う名の檻に繋がれて。

やがて来る死だけを待ち望む。

最後まで読んで下さってありがとうございました。

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