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ハンサム・ガール

人生初のデートの相手は、なんとモデル顔負けの美女。

だけど、背が高くボーイッシュな彼女は、よく男に間違えられる。

そんな美形と待ち合わせた武俊は、誰より格好良い彼女の本当の姿を知る事になる。


(日常/ほのぼの/甘々/男目線/現代/ハッピーエンド)

---------


興味を持って下さってありがとうございます。少しでも読んで下さった方の心に残れば嬉しいです。


武俊たけとしは今、人生で初めてのデートをする為に待ち合わせ場所へ向かっている。


待ち合わせ場所へ向かう途中、何度か立ち止まり自分の姿を見直す。


(やっぱり子供っぽいかな…)


高校生という年齢を考えれば子供っぽいのは仕方ないが、年齢を差し引いても、自分の子供っぽさを気にする理由が武俊にはあった。


それは、今待ち合わせている相手のアキである。

武俊よりも五つ年上のアキは、実際の年齢以上に大人びて見える。


しかもスラリと背が高く、一見すると男性にしか見えない。

何度勘違いした女性に一目惚ひとめぼれされたか分からない、というくらいの美形である。


その日も、待ち合わせ場所へ到着した武俊が見たのは、通りすがる女性に羨望せんぼうと憧れの目で見られているアキの姿だった。


「今の人見た?超かっこいいんだけど!」


「見た見た!モデルかなぁ?」


「ずっといるよね、待ち合わせ?」


「声掛けてみる?」


キャアキャアと甲高かんだかい声を上げながら通りすがる女性達を横目で眺めた武俊は、改めて待ち合わせ場所に立っているアキに視線を動かす。


「…うわ」


そこには、そんじょそこらの男では太刀打たちうち出来ない程に整ったルックスの長身の美形が立っている。


(アキさん…すごいな)


こうして遠くから見ていると、テレビか雑誌の撮影でもしているのかと思ってしまう程の雰囲気。


武俊は、もう一度自身の姿を見下ろすと溜め息を吐いた。


(オレ…話し掛けても良いのか?)


あまりの雰囲気に逡巡しゅんじゅんし、近寄れなくなった武俊はその場に立ち尽くしてしまう。


だが、そんな武俊の迷いには気付かず、武俊の姿を見付けたアキは大きく手を振りながら近付いて来た。


「武俊!」


アキが名前を呼んだ瞬間。

辺りを歩いていた通行人達は、興味津々に武俊に視線を投げ掛けて来る。


(…って!アキさん声デカ!!)


同じ場所にずっといたアキを見ていた数人は、武俊を見て弟と思ったのか安心した様に溜め息を吐く者や、明らかな嫉妬を込めてにらむ者など様々(さまざま)だ。


(アキさん…オレすっげー睨まれてるんですけど!)


身体中に感じる視線に身震いしながらアキに近付くと、武俊は周りの通行人にも聞こえる様に大声を出した。


「アキさん、ごめん!遅くなって!」


この人は女性なんだと名前で周りにアピールしながら、武俊は頭を下げる。


「…どうしたの?変な武俊」


黒のライダースジャケットに、スリムなブラックジーン。


ワンレングスの黒髪をオールバックにして、首筋で一つにまとめている姿は、本当に男性モデルの様である。


「いや…」


穏やかに微笑ほほえむアキに照れた様に頭をくと、武俊は改めて自分より頭一つ分背の高いアキを見上げた。


「それよりアキさん、今日はどうしたの?」


「あぁ、ごめんね?急に呼び出して…」


「いや、大丈夫だけど」


「実は私、機械が駄目でさ」


「機械?」


「そう、仕事で使う新しいパソコンを買ったんだけど起動しなくて…」


「え…え?それはつまり…オレに…」


「うん、設定をしてもらおうかと思ったんだ。男の子って、そういうの得意でしょ?」


耳を疑う。

何故よりによって自分に頼むのか。

自慢じゃないが、機械の類は大の苦手である。


隣を歩くアキを見上げると、やってもらえると信じきっている様に見え、武俊は焦ったように足を止めた。


「ちょ…待って待って…オレ、パソコンの設定なんか…」


「ん?」


あせりの為に気が気でないが、アキの笑顔に今さら出来ないと言える雰囲気ではなく、武俊は笑ってその場をにごす。


内心の焦りを気付かれぬように気を付けながら、他愛たあいもない会話を続けている内、いつの間にかアキの家に到着してしまう。


(困ったな…何て断ろう)


にこやかに入室を促すアキに軽く頭を下げて部屋に入った武俊は、部屋内を見回して溜め息を吐いた。


(アキさんらしい部屋だな…)


とても女性の部屋とは思えない殺風景さっぷうけいな室内には、化粧台もぬいぐるみもドレッサーすらない。


あるのはくだんのパソコンや机。

ベッドとテレビ、あとは飾り気のないタンスくらいのものだ。


(…あれか)


電源の入っていないパソコンに近付き、慣れない手付きで電源を入れると、アキが後ろから覗き込んでくる。


「ありがとう、少し待ってて。お茶いれてくる」


「うん」


アキが部屋を出て行った後、武俊はパソコンの取り扱い説明書を求めて辺りを見回した。


(とりあえず説明書…、もしかしたらオレ以上に機械音痴なだけかも知れないし…)


説明書と言えば机の引き出しの中だろうか。


何気無しに机に近付いた武俊は、半開きになったタンスに気付き、思わず手を伸ばした。


(…?ちゃんと閉まってないや)


特に中を見ようと思った訳ではない。


ただ何となくタンスの戸を開けると、無理矢理に詰め込まれていたのか、中に入っていた洋服が雪崩なだれのように落ちてくる。


「ヤバ…!」


焦って元に戻そうと手を伸ばした武俊は、洋服を手に取り身体を硬直させる。


(え…これ…、アキさんの服…だよな?)


手にした服は、普段のアキからは考えられない程に可愛らしい物だ。


ヒラヒラのレーススカートや、ミニスカートもある。


「え…え!?」


思わずタンスの中を覗き込むと、中にはぬいぐるみや人形などが詰め込まれている。


訪ねてきた部屋を間違えたのではないかと言うくらいに場違いなその光景に、武俊は呆気にとられて呆然ぼうぜんと手元のスカートを見つめる。


(見ちゃいけない物だ…!アキさんが戻る前に片付けないと…)


我に返り、焦って崩れ落ちた服をき集めた時、部屋のドアが開く。


「武俊、お待た…、…ッ!?」


「うわッ!アキさん!!」


振り返ると、紅茶らしき飲み物を乗せたトレーを手に、真っ青な顔をしたアキが立っている。


その顔は見る見る内に真っ赤に染まってゆき、武俊は慌てた様に首を振った。


「違っ…見ようとしたんじゃなくて…」


「……」


(ヤバい…めちゃくちゃ怒ってる!?)


これはきっと、アキにとって自分だけの秘密であり、ひそやかな楽しみだったのだろう。


「あ…あの…」


「言わないで!!」


「え!?」


何を言ったら良いのか分からないが、それでも何かを伝えようと口を開いた武俊は、アキの必死な声に黙り込む。


「…分かってるの…似合わないって!でも…本当はそういうの好きで…我慢してて…」


烈火れっかごとく怒り出すかと思っていたアキは、意外にも恥ずかしそうに顔を染めており、怒っている訳ではないと気付いた武俊は、安心したように息を吐いた。


「どうして…きっと似合うのに…」


「嘘!」


「嘘じゃないよ、アキさんは美形だから…きっと何でも似合うよ」


「…こんな身長…こんな外見で?私気付いてるよ、男にしか見えないって…」


「それは…違うよ」


「え?」


「きっとアキさんは、何でも着こなせるよ。今まで着てなかったから、違和感で似合わないと勘違いしてるんじゃないかな」


「で…でも…」


お世辞やなぐはめとしかとらえていないのか、アキは迷った様にうつむく。


「んー、じゃあ着てみてよ」


「…えッ!?」


「そうだな…このワンピース」


「む…無理無理!それは観賞用に買ったの!見るだけのつもりで…」


「もったいないよ、オレ外にいるから着てみてよ。着替えが終わったら呼んで」


そう言って無理矢理にアキの手にワンピースを預けると、武俊は部屋を出る。


ゆっくりとドアを閉め、耳を澄まして中の様子をうかがっていると、ガサゴソと着替え始める音が響いた。


それでもやはり迷っているのか、中から声は掛からず、武俊は控えめにドアをノックする。


「…アキさん?」


返事はない。


(どうしよう…やり過ぎたのかな…)


不安になりながらも、再び部屋をノックしようと手を上げると、消え入りそうな声が中から響いた。


「着替えた…よ」


その声を合図にドアを開くと、武俊の前に見た事がないくらいの美少女が立っていた。


(うわッ…!!可愛いすぎ…!)


髪を下ろしているせいか、印象が違う。


たけの短いスカートからはスラリと長い足が伸びている。


「やっぱり…似合わない…よね」


あまりの変貌へんぼうぶりに言葉を失った武俊に不安を抱いたのか、アキは気まずい様子で背中を向ける。


「ちッ…違うよ!似合う!あまりに可愛い過ぎて…!むしろ、他のヤツには見せたくないって言うか…いや、何言ってんだオレ…!」


今度は武俊が真っ赤になる番だった。

目の前の女性が良く知るアキだとは思えず、緊張してしまう。


「似…合う?本当!?」


よほど嬉しかったのか、眩しいくらいの笑顔で武俊を振り返ると、アキは武俊の手を握る。



「嬉しい!私でも似合うんだ…!絶対…似合わないと思ってた…」


「うわわわ…」


握られた手からアキの温もりをじかに感じ、武俊はどぎまぎとその手を振りほどく。


「ととと…とにかく似合うから!これからは、その格好で… 」


「うぅん」


「?」


今回の事で自信がついたと思われたアキは、武俊の言葉を否定する様に首を横に振る。


「な…なんで…、すっごく似合うのに!」


「似合うって分かっても…、これは私らしくない」


「そんな事…」


「良いんだ、…ありがとう武俊」


「でも…オレは女の子らしい格好のアキさんが見たいよ」


「え?」


思わず口をついで出た言葉に焦ってしまう。

とんでもない事を言った気がする。


お互いに気まずくなり、微妙な沈黙が場を支配してしまい、武俊は頭を掻いた。


すると、アキがぽそっと口を開く。


「さっき言ってくれた…他のヤツには見せたくない…って言うのは…」


「あ…あれは…その…!!ごめん…」


こんな自分が何て事を言ってしまったんだと両手を振ると、アキは嬉しそうに首を振った。


「うぅん、嬉しかったの。だから…この格好をするのは…、武俊と二人きりだけの時にする」


「えぇ!?そ…それはつまり…」


まさかと言う思いで見つめると、アキはいたずらっ子の様に片目を閉じる。


(ヤバいって…!勘違いしちゃうよ…!)


女の子らしい姿のアキを脳内から追い払おうと頭を振るが、結局それは出来ず、武俊はアキを見つめる。


「武俊」


「…え?」


「とりあえず…パソコン」


「あぁ…ッ!そうだった!!」


アキの秘密にばかり気を取られ、部屋に来た目的を忘れていた武俊は、慌ててパソコンの前に座り込んだ。


「…出来そう?」


「分からないけど…、やってみる」


無理と答えて逃げ出してしまいたかったが、何故かそれが出来ず、武俊は諦めた様に溜め息を吐いた。


説明書もないまま、どうやってパソコンの設定をしよう…。

でもこのワンピース姿のアキと、もう少し一緒にいたい。


そんな事を考えながら…。

最後まで読んで下さってありがとうございました。

作品を気に入って頂けましたら、ブクマや広告の下にある感想や評価など頂けましたら次回作への励みになります。

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