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背伸びなkiss

大好きな男の子は、年下の幼馴染。

まだ私より子供だし背も低いし、兄弟みたいな関係だけど、いつかはきっと…。

(ほのぼの/甘々)

---------


興味を持って下さってありがとうございます。少しでも読んで下さった方の心に残れば嬉しいです。


大好きな幼馴染は年下で…。

無邪気な故に残酷で…。

純真無垢な笑顔に惹かれるの…。










「…はい、出来たわよ」


その日、私は乗馬の最中に慣れない馬から転落。


…つまり、情けない事に落馬…ってやつだ。


落馬の際、腰を強く打った私は動けなくなり、一緒に乗馬をしていた幼馴染のヨナに救急室まで運んで貰い、乗馬クラブの看護師さんに手当てをして貰っていた。


酷い怪我は無くて、転落した時に出来た痣や、擦り傷だけだったけど…。

どうにも腰が痛い。


「ありがとうございました…」


私がお礼を言って立ち上がると、看護師さんはニッコリと微笑む。


「もう…、ここあさんは女の子なんだから…無理しちゃ駄目よ?」


「はぁ…、私ってば、乗馬の才能無いみたいです」


馬が好きで乗馬クラブに入ったは良いが、なかなか上手くならない。

毎回怪我ばかりで、クラブの看護師さんとも仲良くなってしまったくらいだ。

溜め息混じりに返事をすると、目の前の看護師さんじゃなく、後ろから声がする。


「ホントだよな。まさか、何も無い場所で落ちるとは思わなかったな~」


振り向かなくても声で分かる。

…ヨナだ。


私が黙っていると、看護師さんが苦笑した。


「素直じゃないですねヨナ君…。真っ青な顔したここあさんを運んで来たヨナ君も、負けないくらいに真っ青だったわよ?…ここあさんが心配だったんでしょう?」


「な…何言ってるんですか!!」


焦るヨナを無視し、看護師さんは私に微笑んだ。


「さ、立っても大丈夫よ。腰を痛めてるみたいだから、余り重たい物は持たない様にね」


私は心配そうな看護師さんに再びお礼を言って、部屋を出た。








部屋を出ると、後ろからヨナが付いて来る。


「お前…ダッセェな~。乗馬も満足に出来ないのかよ」


「…うるさいな、ホントにチビのくせに生意気なんだから…」


「何だよ!お前だって、オレとそんなに変わらないだろ!?」


ヨナはそう言うが、二人で並べば身長差は歴然だった。

…ヨナの頭は、せいぜい私の肩辺り。

つまり、頭一個分は違う。


…ヨナはそんなに変わらない。と言うけど…。

私は、この頭一個分の差が気になっていた。


…気にもするだろう。


好きな男の子の身長が、自分よりも小さいなんて…

私はヨナに気付かれない様に小さく溜め息を吐いた。


「そういえば、明日はおじさんが出張から帰って来るんだって?」


自分から話を振っておいてなんだけど…

これ以上、身長の話を続けたくなかった私は話題を変える事にした。

ヨナは、誰より尊敬する父親の話に喜んで食い付いて来る。


「そうなんだよ!早く親父と乗馬に出掛けたいな~、ここあと違って、すげー上手なんだぜ!」


…比べる方が間違ってるだろう。

私は、父親の事になると途端に上機嫌になるヨナが好きだった。


私と話してる時は、つまらなそうだから、楽しそうなヨナを見たくて、いつも父親の話題を出す。


「親父が帰って来るとなると、明日の食事は豪華だろうな~」


「そうだね、私も食べに行こうかなー。おばさんに聞いてみてよ」


「お袋ならダメとは言わねーだろ、来れば良いじゃん」


こんな他愛ない会話。


それでも、こうしてヨナと一緒にいられる時間は、私にとっては何にも変えがたい幸福な時間だった。


ヨナが、もう少し大人だったら…。

好きになった人が違う人だったら…。

もっと色気のある会話が出来たんだろうか…。


(…考えても仕方ないか…)


結局、私はヨナとの距離を縮める事も出来ないまま、くだらない会話に花を咲かせるしか出来なかった。










その夜、中々寝付けなかった私は部屋で、ぼんやりと夜空を見上げていた。


考える事はヨナの事だ。


(…重症だな…)


最近は、寝ても覚めてもヨナの事ばかり。

今朝の落馬も、本当はヨナに見とれていたせいだった。


元気なヨナ、明るいヨナ。

見ていて、私も元気になる。

そんなヨナが好きだった。


(ヨナは、私の事どう思ってるかな…。おばさんは脈ありだって言ってたけど…、きっとヨナはただの幼馴染としか思ってない…)


私は、いい加減考えるのは止めようと、枕元にある本に手を伸ばした。


だけど…。


「ここあ…、いるか?」


「!?」


ヨナだ!

すぐ隣の家に住んでいるヨナの部屋は、私の部屋のすぐ隣で、部屋の窓を使って行き来が出来る。


私は本に伸ばした手を引っ込めた。


「…いる…けど、何?」


しばしの沈黙。

窓閉めちゃったかな?と思ったけど、気配はまだカーテンの向こうにある。

辛抱強く返事を待つと、再びヨナの声が聞こえた。


「なぁ…、ちょっと外に出ないか?」


「…腰痛いんだけど」


何でこんな事しか言えないんだろう…。

怒っちゃうかな?と思ったヨナは、意外にも優しい言葉を掛けて来る。


「俺が肩貸してやるから、少しだけだって!」


「…?」


いつもと様子の違うヨナに、私は窓をゆっくりと開いた。


「…もう、7時過ぎてるよ?何処に行くの?」


「すぐ近くだよ。ほら、手ぇ貸せよ」


おずおずと差し出されるヨナの手。

綺麗な月夜のせいなのか…

私はからかう事なく、その手に掴まった。










ヨナに連れられて歩いていると、意外にもゆっくり歩いてくれている事が分かる。


いつも生意気なのに、今夜はずいぶん優しいな…。

そんな事を考えていると、ヨナが足を止める。


「…ヨナ?」


「あそこだよ」


そう言って、ヨナが指差す方向には、街が管理している近所の大きな公園。

こんな時間に公園に何の用なんだ…と思いながらヨナの後をついて行くと、池があった。


「…池がどうし…」


「しっ!」


問い掛け様とする私の唇を押さえる様に人差し指を出すヨナ。


…今気がついた。

ヨナの顔が至近距離にある。


「……」


ドクン。と心臓が高鳴る。

ヨナの人差し指も、私の唇に触れそうだ。


だが、ヨナは平然とした表情で「池を見てみろ」と、私に促した。

私が不思議に思いながらも、池に視線を向けると…。


「あ…」


真っ暗な水面を、青い様な、緑の様な…。

そんな無数の淡い光達が池の周りを飛んでいる。


私は正体も分からないまま、その幻想的な光景に目を奪われた。


「…蛍だよ」


「…蛍。初めて見た…」


「俺もだよ、たまたま回覧板で蛍の里運動とかって記事を見てさ。どうせ眠れなかったし、ここあを誘って行ってみようと思って…」


「…眠れなかった?」


私は、蛍に釘付けになっていた視線をヨナへ向けた。


「うん…、お前さ、馬から落ちた時に…」


「…?」


「やっぱ、良いや…」


そう言って苦笑いするヨナに、私は首を傾げる。


「何?呼び出しておいて、言わないのは狡いよ」


「何でもないって!うるせーな!」


「うるさいとは何よ!心配事があるなら、お姉さんに話してみなよ!」


「身長の次は年かよ!そんなに変わらないだろ!!俺をガキ扱いすんなよ!」


「…ごめん…そんなつもりじゃないんだけど…」


私が素直に謝ると、ヨナは困った様に頭を掻いた。


「あのさ…」


「…うん?」


「…ごめん」


「…へ?」


急に謝るヨナに私は素頓狂な声を上げる。


「今日の乗馬クラブの時、俺も一緒にいたのに、助けてやれなかったから…」


「何それ!気にしてないよ!それにヨナのせいじゃ…」


「ここあは!」


私の言葉を途中で遮る様に声を荒げるヨナ。

私は茫然とヨナを見つめた。


「…ここあは、俺のせいじゃないって言うけど…、俺は嫌なんだ」


「…何が」


言っている事が支離滅裂なヨナに、私は苛立った様に短く返す。


「…色々だよ」


「だから、色々って?」


「…お前が目の前で怪我するのも、お前にガキ扱いされるのも、身長の事でからかわれるのもだよ!」


「……」


私は呆気にとられた。

確かにからかえば、言い返して来る。

言われるのは嫌なんだろう。


でも、こんなに悩む程に嫌だった…?

私には、あんな他愛ない会話ですら、幸せな一時なのに…。


私が落ち込んだのに気がついたんだろう。

ヨナは私の顔を覗き込む。


「何でここあがそんな顔するんだよ。傷ついてるのは俺だっつーの!」


「私だって傷付くよ…、私にとってはヨナと話してる時間は、どんな内容だって幸せな時間なのに…嫌がられてたなんて…」


泣きそうになる私の頬を、ヨナは焦った様につねった。


「な…!」


「嫌がってる訳じゃねぇの!鈍い奴だな!」


「…何よ~…」


つねられた頬の痛みに涙ぐむと…。


「泣くなよ!好きな女に、ガキ扱いされたり、チビとか言われる俺の方がずっと可哀相だろ!?」


「…は?」


私は、ヨナの言った事が理解出来ずに、再び素頓狂すっとんきょうな声を上げる。

今…、好きな女って聞こえたけど…。

私の事…?

私が涙の溜まった目でヨナを見つめると、ヨナは顔を赤くして目を逸した。


「そ…そんな目で見るなよ!いくら年下でも…俺だって男だぞ!!」


そう言って私から離れ様とするヨナに、私は夢中で抱き付いた。


「…ッ!?おい…!!」


「ヨナ…私の事好きなの?」


「あ…あのなぁ!何度も同じ事を…」


「答えて!聞かせて…」


「……す…好きだよ…俺は、ここあが好きだよ!!」


「嬉しい…嫌われてると思ってた…。こんな…ヨナより年上で、背だって大きくて…、そんな風に見てもらえないかと思ってた…」


いつの間にか、抱き付く私の背中にヨナの腕が回されている。

その腕は、あまり強くなくて、頼りなげな感じがするけど、私に絶対の安心感を与える。


「そんな事言うなよ、年は仕方ないけど…身長なら…俺はこれからどんどん大きくなる!!ここあなんか、直ぐに追い越してやる!!」


今はまだ、抱き締め合っていても、私が抱えている様な形になるヨナ。


それでも、私が大きなヨナの胸に抱き締めて貰える様になるのは、そう遠い事ではない気がする。


「それに…、下手に身長差があるより、こういう事がしやすいよな」


そう言うと、ヨナはちょっとだけ背伸びをして私の頬にキスをした。


「唇は…、俺がここあの身長を抜かしてからだ」


「え~っ!?じゃあ、ほっぺたにもう一回!」


「調子に乗るなよな!」


顔を逸すヨナに、顔を近付ける私。

貴方が私の背を追い越す前に…。

もう一度だけ、背伸びなキスを。


最後まで読んで下さってありがとうございました。

作品を気に入って頂けましたら、ブクマや広告の下にある感想や評価など頂けましたら次回作への励みになります。

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