婚約者とのこれから
よろしくお願いします
誕生日パーティは、婚約パーティに変わり盟友達に祝福されて一応終わりを迎えた。
俺は、家族と侯爵、シルヴィアと一緒にダンスホールを出てサロンに移動する。
サロンについてそれぞれソファーに座ると
「いや〜、あんな事になるとはのぉ。想像もしておらんかったのぉ。」
「わっはっは!全部の出来事を傍から見てると面白かったがな!」
「旦那様、笑い事ではありませんよ。子爵夫人は足を怪我し、伯爵はグラスの破片で手の甲を切ってたわ。」
「でも、流石伯爵ね。手の甲を切って血が出てるのに、子供達がパニックになっているのを見てすぐに、ポケットに手を入れて隠してたわよ。」
「はい、昔からそうゆうフォローが出来る人でしたから。子供の頃はよく助けて貰いましたし、学園でも孤立しないですみました。少し粗野ですから誤解されがちですが。」
「ああ、マリーの幼馴染だったね。領地が海側じゃないから、よく家族で遊びに来てたんだっけ?彼が次期当主じゃなかったら、私の側近にしたかったよ。」
「子爵夫人は、しっかり者で有名なのに今日は、派手に転けてたな。クックック。」
「お父様、人の不幸を笑ってはいけませんわ!それでは、王家と王家の取り巻きと同じになってしまいますわ!」
「おっと、それは死ぬほど嫌だな。子爵夫人には落馬した時によく効く軟膏を送っておこう。」
「私達は、伯爵に切り傷よく効く軟膏を送ろうか。彼が手をすぐに隠してくれたから、あの程度で騒ぎが済んでその後の、婚約発表にも悪い印象が出来なかったからね。」
「あの父上?本当に俺とシルヴィア嬢は婚約するのですか?」
「おや、僕の娘との婚約は嫌なのか?」
一瞬で侯爵の雰囲気が剣呑になった。
これはヤバイ。
一瞬、魔圧で対抗しそうになった。それ程の剣呑さだ。
急いで誤解を解かないと。
「違いますよ侯爵様。俺は見ての通り『白』に限りなく近い『白銀』です。そして、シルヴィア嬢も俺程ではなくてもお祖母様よりは『白』に近い『白銀』です。王家が黙っていないと、思ったのです。それに王家の事です。ドラゴナイツ侯爵家に第一王子と同じ歳の令嬢が産まれたら、間違いなく二人を婚約させて、ドラゴナイツ侯爵家とドラクル公爵家の仲を乱そうとするでしょ?王家の横槍で婚約が出来ないのでないか?と言う意味です。」
侯爵とシルヴィアが目を見開いて驚いていた。
侯爵はシルヴィアはこの子本当に5歳か?と驚いているのだろう。
特にシルヴィアの驚きは凄い筈だ。
シルヴィアは何度も人生をやり直しているからこそ5歳でも普通に大人と話せると、自覚があるのだから。
「ガッハッハ!どうだアスベル坊!うちのシルバーは凄かろう!これでまだまだ、控えめのほうだ。シルバーが本気なら、王家を黙らせる策を話している筈だ。」
「ええ、驚いた。僕の雰囲気にも飲まれてないし、この歳で王家の策略を完璧に見抜いている。うちのシルヴィアも優秀たが、ここまで『白』に近いとこうも違いが出るのか。」
いやいや、多分政治に関しては俺はシルヴィアの足元にも及ばない筈だ。
何度も死なないように、政争を繰り返して来てる筈だ。
影響力が無ければ女王になっていても不思議じゃないだろ。
「愛し子の事も婚約の事も、問題ないよシルバー。あれだけの貴族の前でキスをしたんだ。それなのにシルヴィア嬢を王子妃にするなんて、絶対に王家は受け入れられない。」
うん?人前でのキスが王家にとってそんなに大事なのか?
貞操が大事なのは解るがキスと処女は大分違うと思うが?
「シルバー、王家はこの国でも、私の母国でも一緒よ。王家に嫁ぐ者は、全てを国に王家に捧げて当然!という考え方なのよ。だから、性的な事は婚約者の王子以外となんて以ての外なのよ。」
「令嬢を、馬鹿にしている風習よ。令嬢は人ではなく、物だ。王家の一員になるのだから光栄に思うがいいって事よ。だから、お母様は王妹でありながら王家が死ぬほど嫌いだったのよ。」
うぉう。王家の傲慢は世界共通なのか。
まさかお祖母様の母国もそうだとは。
でもこれで、シルヴィアが王太子の婚約者には絶対ならないな。
公爵家の盟友達だけしか見ていないが全員を買収や脅しで黙らせるのは、不可能だ。
「シルバーブレッドは、私との婚約はお嫌ですか?随分お悩みの様ですけれど。」
「違うよ。シルヴィア嬢が嫌なんじゃないよ。どこまで王家が横槍を入れて来るか、考えてたんだ。今の王は公爵家が死ぬほど嫌いだし、王太子は公爵家と仲良くしたいなんて言っても過去の清算を何一つしてない。王家をあらゆる意味で信用しないだけだよ。お祖母様達が言っている事は事実なんだろうけど、それさえも覆して公爵家を攻めて来そうだと思ったんだ。」
俺の言葉に大人達もシルヴィアも、考え込んだ。
ときより「いや」とは「まさかな」とか「あり得るか?」とか「無いとは言い切れ無い?」とか言っている。
やっぱりそう思うよな。
公爵家が出来てから攻撃されて無い時代がないんだからな。
「いや、流石に大丈夫だ。それに王家が構わないと言ってきても、公爵家と侯爵家が婚約は絶対にする、と言えば王家が横槍を入れる隙間がない。シルバーブレッド様は愛し子だしな。」
「そうじゃな。もし愛し子同士の婚約を認めないなんて言った所で、儂とエステリーゼの結婚がある。儂等の結婚は、そもそも今の王のせいじゃ。いや、お陰かのぉ。」
「そうね、今の王が、王太子時代に浮気をしなければ、浮気相手の今の王妃を妊娠させなければ私達は愛し子同士の結婚はしてないものね。」
こうやって全員で、王家のやりそうな事、やられたらどう対処するかを決めておけば、いざという時致命的に出遅れる事も出来るだけ無くせるだろう。
俺と言う影響力もどこまで前の世界の影響力に通用するか解らないからな。
「よし、王家の事はなんとかなりそうだな。そろそろ俺達は、待たせている盟友達に人を集めている理由を教えに行って来る。残るのはアルフレッドとアナスタシアでいいな?残りたい者はいるか?」
曾祖母様と祖父母は首を横に振って立ち上がった。
「現当主夫婦の私達が行かなければいけないのにすみません。そちらの事よろしくお願いします。お祖父様、お祖母様、父上、母上。」
曾祖父母も祖父母も、「気にするな!シルバーの婚約のほうが大事だ」と言って出て行った。
俺は頭を下げて見送った。
「そういえば、かなりの数の人を集めていたな。謀反でも起こすのか?流石に謀反を起こすなら、婚約は勝つまで待ちたいんだが。」
「ハハハ、謀反なんて起こさないよ。そうたね、婚約の話の前に話しておこうか。」
父上が冒険者や冒険者ギルドに対する、公爵家の見解を告げる。
そして、冒険者潰しの十年計画を話していく。
侯爵とシルヴィアは話が進むにつれ、驚いたり考え込んだりしていた。
侯爵領も絶壁があるとはいえ、魔の森から漏れ出た魔力のせいで魔物の発生率が高い森も多い。
森を全部伐採して仕舞えばいいと思うかも知れないけど、森が無ければ燃料も無くなる。
家具も作れないし、槍、弓矢、杖、盾の様な武具も作れなくなる。
生活が成り立たない。
だから、日用品の魔道具は安くても大量に売れて利益が出る。
逆に高値で売っても貴族と富裕層にしか売れず、全員が買い終えれば利益が長期的には出ない。
壊れなければ買わなくなるからだ。
それはともかく、侯爵は俺達と同じ考えになったが、シルヴィアが何故か浮かない顔をして考え込んでいる。
多分、やり直した人生の中で何かあったのだろう。今は聞けないな。
「人を集めている理由は、解った。冒険者ギルドか。俺も若い時は何度か衝突したな。そして、いつも民を人質に取られる様に、出て行ってもいい、と言われ諦めてきた。話を聞くまで忘れていた。それが当然と。」
やはり、冒険者ギルドに関して影響力が働いてるな。
盟友達の方も、こんな状況なのかな?いや、人が多いい分もっと大変かな?
基本的に盟友達の領は、王都から遠く魔物も多い。だからこそ、最も危険な魔の森を領地に持つドラクル公爵家は尊敬される。
もともと、ドラゴンを討伐した初代の公爵家だしな。
「そうゆう事だよ。謀反は関係ないよ。」
「理解した。上手くいったら、ノウハウを教えてくれ。言い方は悪いが孤児は毎年、国全体で多くでる。少しでも、不幸な子供が幸せになれる可能性が増えるならいい事だ。」
「それに、孤児を引き取って騎士が増えれば、領民は安全になり子供が増えます。孤児達だって騎士になり結婚し、子供を作ります。そうしたら領民が増え、街や村を大きくしなければなりません。侯爵家が行う公共事業も増え、領地の経済が回りますわお父様。」
まるで、知っているかの様にシルヴィアが話に加わった。
これは、前の人生でやった事があるか、やろうとした事があるな?
もしかしたら、やった事があって、影響力のせいで失敗したのか?
だから、あの顔をしていたのか?シルヴィアとの話し合いで教えて貰おう。
失敗したのなら、失敗をどうしたら成功するか今のうちから考えたほうがいい。
「ハハハ、うちのシルバーより優秀じゃないと言っていたけど、シルヴィア嬢も充分優秀じゃないか。今の話を聞いて、十年後をしっかりと視えているよ。」
シルヴィアは少し顔を歪めた。
なるほど、優秀ではある程度に抑えていたのか。
前の人生で、転生物の小説の主人公よろしく、大天才になった事があるな?
やり直してたのだから未来も知っているしな。
男の俺は、大天才でも問題はあまり無いが、女のシルヴィアでは、婚約や「女は政治に口を出すな」的な無能が足を引っ張られたりするだろう。
これは、出来る限りシルヴィアが何か提案しても俺が矢面にたった方がいいな。
「エド、そろそろ婚約の話をしましょう?脇にそれ過ぎよ?」
「そうだね、この話はまた今度に詳しくしよう。」
「分かった。まずは、二人の婚約を王家に報告が必要だな。僕が王都に行ってもいいんだが、今は妻が妊娠しているし、王家には元々シルヴィアは狙われていた。すまないが、僕は王都にいけない。」
「私達も王都には行けないし、ここは王が苦手な母上かお祖母様に行って貰おうかな?」
「確かに、お義母様は昔の事があるし、隣国の元王女で現王姉ですものね。お義祖母は元王妹の娘で年上ですから、年上が苦手なあの王は苦手にしてましたね。」
「クックック、年上が苦手なのもあるが、ヴァイオレット様は昔から優秀で、親戚であるあの王は一度も勝てなかったそうだ。だから、苦手なのだろう。無能のプライドほど厄介な物もない。」
「父上、曾祖母様は無理ですよ?魔法使い達の訓練がで忙しい筈です。予想以上に魔法使いの練度が低かったらしく、学園と魔法師団に激怒してました。」
あの時の曾祖母様は怖かった。魔圧を撒き散らしながら
「魔力が低すぎる。魔力操作は子供並。魔法属性の知識は中途半端。体力もなく、接近戦も出来ない!!これで魔法属性が多い方が魔術師に相応しい等よく言えた物ね!!魔術師を舐めるんじゃないわよ!!」
近くにいた、使用人も魔法使いのまとめ役に選ばれた者達も気絶した。
気絶しなかったのは家族とそれぞれの専属侍女、専属執事、専属騎士だけだった。
それでも専属の者達は震えていた。俺は魔圧で守ったよ、怖いもん。
あの曾祖母様に、魔法使い達を放って置いて王都に行けとはとても言えない。
「そうだね、無理だね。魔法使い達が毎日泣いて鍛錬してるもんね。でも、3ヶ月休みなしだからそろそろ休ませて上げたいんだよね。」
「お義祖母様は一流の指導者でもあるから、その辺りは大丈夫よ。それに、魔法使いに怒っていても怒りで大事な物を間違えたりはしないわ。曾孫の婚約の方が大事だもの。」
母上もお祖母様も曾祖母の弟子だ。
お祖母様は元王女だ。
自国の学園を卒業してはいたが、平均的な魔法使いだった。母上は学園を次席で卒業した才女と言われていた。
それでも、魔法使いだった。
その二人を僅か四年で魔術師に育て上げた。
その曾祖母様のシゴキを3ヶ月休みなく受けている。
体力や杖術や魔力量はすぐには身に付かないが、魔力操作は今の魔法師団の平均になっているらしい。
まぁ、それでも昔の魔法師団から見たら下の方らしいが。
それでも少しは曾祖母様がいなくても大丈夫だろう。
お祖母様は孤児院の子供達の健康診断や教師の手配などに忙しい。
子供達は年齢がバラバラでどう部屋割りをしたら、小さい子供が安心するか。
教師になる引退した冒険者が脳筋すぎず、頭でっかちすぎないかの確認など殱魔騎士団の今後最も大事な事柄を一人で担当している。
曾祖父様は魔の森の騎士団の統括と、冒険者達が魔の森のどこで魔物刈りをしているかなど、冒険者がいなくなった後問題がでないように秘密裏に調べている。
お祖父様は影を使って冒険者ギルドが毎月、毎年、どれだけの利益があるか、冒険者がどれだけ街に金を落としているかなどを調べている。
父上と母上は王家との問題で王都には行けない。
本当は行けない事はないのだが、王都に行けば王太子がすぐに接触しようとしてきて、それを止めようとする王が出張ってきてややっこしい事になるらしい。
今、公爵領を離れられるのは曾祖母様だけだ。
本当に王家と公爵家の問題は面倒くさい。
でもそれが、シルヴィアを守る盾にもなる。正式に婚約してしまえば王家がなにかしてくる事もなくなるからな。
いや、してきてもなんとかなると言ったほうがいいかもな。
「婚約の報告はそれいいが、王家の横槍が心配だな。貴族の婚約は王家の承認が必要だ。王家との、婚約が出来なくても我々の家同士の婚約は認めないかも知れない。」
「そこで、提案なんだけどシルヴィア嬢を2ヶ月我で生活させないかい?」
「いや、2ヶ月では足りないな。それに公爵家に嫁ぐなら戦える様になる必要がある。これから結婚するまで、2ヶ月公爵家、1ヶ月我が家、の順番で生活させる。」
「いいのかい?シルヴィア嬢の成長を側で見られる時間が、減ってしまうよ?それに奥方に相談しないで決めたら、怒られるよ?」
「2ヶ月程度なら妻も怒らぬよ。それに、新しく子供も産まれる。男の子なら次期当主だ、5歳になるまではそちらに掛かり切りになる。シルヴィアも寂しいだろう。公爵家ならシルヴィアの成長に悪い事一つもない。だから、なにも問題ない。」
「私達は歓迎するけど、シルヴィア嬢はそれでいいの?親御さんから離れて、寂しくないの?それに5歳の誕生日パーティもあるし、お姉様になるのだから弟君か妹君にも会いたいたでしょう?」
「私なら、大丈夫です。公爵家の事はお父様とお母様に話を沢山聞きましたが、実際に見た事は今日が初めてです。婚約したのですかいずれここが私の守る地になります。子供の時から長くいれば色々なことを学べます。」
俺が家族の事を考えてる間に、なんかシルヴィア嬢がうちに住む事になってる!
実家より長くうちにいる事で既成事実を作ろうとしているのか?
婚約者の家に子供の頃から住んでいれば、既成事実としては充分だろう。
「そろそろ子供は寝る時間ね。アスベル様、今日は泊まっていって下さい。宿に使用人がいるとはいえ、令嬢一人でいるのは危ないわ。」
「まだ他の者達も話し合いをしているだろうから、私達もそちらに移ろう。シルヴィア嬢はアスベルの隣の客間に泊まるといいだろう。」
手早くエドワードに指示をだし、侯爵と父上達は立ち上がった。
さて、俺はどうしようかな?
選択肢は二つ、一つはなにもしないで寝る。
二つ目は部屋を抜け出してシルヴィアの部屋に行き、やり直している事を知っていると話し今後の事を話し合うかだ。
どっちにするかな?
部屋に帰りベッドに座りながら考えていると信託があった。
『私から話をするので今日は部屋で休んで下さい。パーティもあったので、想像以上に貴方は疲れています。今は子供なのだからゆっくり休んで下さい。』
ユナ様から話してくれるなら、シルヴィアも信じやすいだろう。言われた通り寝るか。
読んで下さりありがとうございます