騎士の覚悟
よろしくお願いします
父上が今度は、曾祖母様達と曾祖父様達に叱られてる間に、俺とシルヴィアは土魔法で鉢植を作り薬草の実験に取り掛かった。
騎士達は俺達には目もくれず、薬草を採取し冒険者達は魔物を見張っている。
クライン達はほぼ徹夜だから、天幕を張って寝かせる事にした。
薬草を採取し終わったら、魔の森を吹き飛ばす事になるから今の内に鉢植に薬草の種を蒔いておかないといけない。
地面では半日で育つとしても、鉢植で育つかわからないからな。
魔の森を吹き飛ばしたら、魔物もこっちに襲撃してくるかもしれないから鉢植を守らないといけないな。
一番安全なのは、公爵家の天幕の前かな?
公爵家の天幕の前なら、冒険者も迂闊には近付かないから、もし薬草の実験に成功しても見られる事もないだろう。
薬草の人工栽培が上手くいけば、冒険者の仕事を減らす事ができる筈だ。
小説とかと同じく、薬草採取は低位冒険者の仕事になっている。
薬草採取が無くなれば、低位冒険者はいきなり魔物討伐が仕事になる。
なんにも教わらずに魔物討伐は、普通の冒険者には無理だ。
一部の才能ある冒険者にしか、出来ない事を普通の才能しか持たない奴らは、最初の頃は鍛練づけになるが安全に戦いの事を教えてくれる殱魔騎士団を選ぶ者が増えるだろう。
殱魔騎士団の人員の確保と同時に、冒険者の数を減らせて、更に冒険者ギルドは収入が減り公爵家は収入が増える。
いい事尽くしだな。
更に、薬草の栽培に魔物の血が必要なら冒険者は公爵家に売りに来る者も増えるだろうが、公爵家には殱魔騎士団があるから魔物の血に苦労はしない。
やっぱり、魔物を運搬する専門の騎士達が必要だな。
後は、多分大丈夫だと思うけど魔物の血で育った薬草を薬にして大丈夫かも調べないとな。
やる事が一杯だな。
まずは、やれる事を一つ一つやるしかないよな?
鉢植に薬草の種を蒔くとしますかね。
その後、父上達を説得して騎士達と薬草採取をしますか。
鉢植に魔の森の土を入れて、種を蒔いてからクライン達が倒したゴブリンの血をなみなみかけて天幕の前に置いてこれでおしまい!
さて、どうやって父上の説教を終わらせるかな?
う〜ん、いや、ちょっと待てよ?
幾ら父上が考えなしで言ったとしても、皆でよってたかって怒る程の事か?
まさか。
「皆、薬草採取がやりたく無くて必要以上に父上を叱ってませんか?」
曾祖母様達皆が動きを止めたよ!
父上をだしにして、薬草採取をサボろうとしてるな?
一番嫌な仕事だと言ってたもんな!
「シルバー様、皆様がサボろうとなどしている訳がありませんわ。皆様は公爵家で第二の王家と言われる程の方達ですわ。絶対にありえませんわ!そうですわよね皆様!」
シルヴィアの言葉に曾祖父様がメッチャ目を逸らしてるだけど!
サボろうとしてたよな絶対!
はぁ〜、まぁ中腰で淡々と薬草を採取するのは辛いだろうけど、頑張って貰う為に発破をかけるか。
「そうだよね、シルヴィアの言うとおりだね。サボろうなんてしないよな、帰ってミラに曾祖父様達が仕事をサボって大変だったなんて言われたくないもんな!」
「アルフレッドの説教はこのくらいでいいだろう!さぁ!薬草採取をするぞ!騎士達に遅れを取る訳にはいかないぞ!」
分かりやすく態度が変わったな!
公爵家のアイドルであるミラにかっこ悪いと思われたくないもんな。
昨日も今日も、本当はミラを皆連れてきたかった。
でも、ミラはまだ4歳だから本邸から外に出す訳にはいかないし、王太子はまだ婚約者がいない。
愛し子で公爵家のミラは格好の獲物だ。
しかも、王太子の婚約者になれば後に王家に入る事になる。
王家に入ってしまえば、どれだけ虐げても我々公爵家は文句が言えなくなる。
婚約者と言う名の人質だからな。
ミラの存在は、公爵家のアイドルであると同時に王家からは絶対に隠さなきゃいけない存在になった。
まぁ、ミラは俺と同じで体だけ子供で頭の中は大人だから王太子に靡く事は絶対にないからそこは安心だけどな。
曾祖父様達が我先に薬草を採取していくが、なぜか騎士達もスピードを上げている。
まだ騎士達は一部の屋敷の中を警備する者しか、ミラの事は知らない筈だ。
なら、ただ単に曾祖父様達に負けない様に頑張っているのか?
でも、なんか騎士達がやたら必死に見えるのは気のせいか?
「なんで騎士達はあの様に、必死になっているのですか?」
「それは昔、ヴァンクロードが俺達より少ない者は鍛練五倍だ!って言われましてね?だから鍛練五倍が嫌な騎士達が頑張っているのですよ。」
殱魔騎士団騎士団長のロールがいつの間にか後ろに来ていた。
びっくりした、まさか空間把握の隙間を縫って来るとは思わなかったよ!
ロールは意外と隠密系のスキルが高いから、空間把握で慢心しない様に時々こうして後ろを取りにくる。
後ろを取られたら、俺達は死んでいるって事だ。
油断大敵だよマジで。
「それよりなぜ、私にも殱魔騎士団の強さを隠していたのですか?部下の正確な強さは把握しておかないと危険なのですが?」
「敵を騙すにはまず味方からだ。本当は今回バラすつもりじゃ無かった。曾祖父様も「一年」と言っていたのに、活性化は半年で起きたから仕方なかっただけだ。」
「殱魔騎士団を本気にしなかったら、死傷者が出ていましたわ。後半年したら報告して、活性化した時に冒険者に依頼しないで殱魔騎士団だけであたるつもりでしたのよ。」
「準備が間に合わなかっただけさ。ワザとではないよ。」
「冒険者潰しの一環だったのですね。それはすみませんでした。」
「いや、謝罪はいらないさ。それよりも、聞きたい事がある様に見えるけどなんだ?」
「私や公爵家の騎士団も、同じ鍛練をしたらクライン達と同じ強さが獲られるのですか?」
「う〜ん、それはやってみないとわからないな。」
「そうなのですか?クライン達は強くなったのですから、ロール達も強くなるのではないのですか?」
「いきなり鍛えて上げたスキルをオフにしたら、凄い怪我をしそうなんだよ。もしかしたら、鍛練で二度と剣が持てない怪我をするかもしれない。」
「剣を持っている時間は、クライン達より長いので鍛練で怪我はしないと思いますが?」
「違う違う。スキルをオンにしている時と同じに体を動かそうとして、グキッってなるって事だ。」
「あぁ、なるほど。長く剣を持っているからこその危険があるという事ですか。確かにスキルをオフにするなんて事はしたことがありません。」
「俺達は、ほぼ素人だからこそあれだけ強くなったんだと思っている。だから、剣を持っている時間が長い騎士達には、最初恐ろしく地味な鍛練になるぞ?」
「そんなに地味な鍛練なんですか?剣を型通り振るのではないのですか?」
「多分それは一番やっちゃ駄目だな。怪我の元になりそうだし、下手したら剣がすっぽ抜けて周りの人も危険だな。」
「では、何をするのですか?剣を振らない剣の鍛練?」
「ちょっとやってみるか?ロール剣術のスキルをオフにしてみろ。」
ロールは言われた通り剣術のスキルをオフにして、すぐに剣を抜こうとしたから慌てて止めた。
これからやる鍛練は、はっきり言って騎士達を馬鹿にしている鍛練だ。
「剣をゆっくり抜いて、構えて、剣を鞘に収める。これをやってみろ。理由はやれば多分わかる。剣を長年持っているからこそわかる難しさだ。」
ロールは言われた通りにして、深く息を吐いて首を振って項垂れている。
「これは、騎士としての自信が無くなりますね。私は、スキルを使わないとこんなにも剣が下手くそだったのですね……。」
「やっぱりわかるか?剣を振らないで良かっただろ?」
「はい、抜くのにこんなに戸惑い、構えてはぶかったこうにも程があり、剣を鞘に収めるのに戸惑う。こんな状態では剣を振るう自信はありません。」
「ハハハ、俺達はそのいきに達してないから、いきなり剣を振って地面を叩いて腕が痺れたり、剣がすっぽ抜けて大変だったさ。」
「スキルをオンにして、百回の素振りが十分なのにスキルをオフにしたら、1時間掛かりましたものね。」
「私達はどれぐらいかかのでしょうか?剣を抜く事すら覚束ないのですが?」
「殱魔騎士団みたいになるには、一年から二年って所じゃないか?でも、やり遂げれば確実に強くなるぞ。」
「そうですわね。地味でもやらなければ強くはなれませんわ。」
「やってみせますとも。公爵家の為に、民の為に、強くなれて魔の森からの脅威を少しでも減らせるなら、どれだけ地味でも、どれだけ自信を無くそうと、やってみせます!」
いつの間にか、周りには騎士達が集まっていた。
誰も彼もが目をギラギラさせて、頷き手を握り締めている。
ハハハ、公爵家の騎士達は最高だな。
ロールを見ていたなら、解っている筈だ。
ロール程剣を愚直に、基礎を鍛練している騎士はいない。
そのロールが、あれだけ下手くそに剣を抜いていたんだ。
自分達はもっと下手くそだと解っていながら、それでも民の為にスキルをオフにして鍛練する事にどれだけの覚悟が必要なのか、俺にはわからない。
俺は強ければそれでいいと考える。
でも、騎士は誇りで剣を抜き、誇りで敵を倒し、誇りで民を守る。
だからこそ、公爵家の騎士は今まで魔の森から公爵領を守れてきたんだろうしな。
その騎士達が、不格好で剣もまともに振ることが出来なくても、強くなる為にスキルをオフにして鍛練のやり直しを決意したんだ。
素直にカッコいいじゃないか。
俺もこいつ等みたいに、いつか誇りで剣を振るい誇りで民を守る事が出来るんだろうか?
シルヴィアを助けられた後、俺はこいつ等に誇られる当主になれるのか?
まだまだ先の事だと思っていたけど、今から俺も覚悟と信念を持てる様に心構えをしておかないとな。
シルヴィアの方を向いて、俺はそんな事を思っていた。
いつか、シルヴィアを本当に愛する妻として共に暮らし、共に喜び共に悲しみ罪悪感からではなく、愛しているから夫婦になった時に今の自分じゃ恥ずかしい気がした。
シルヴィアの夫として恥ずかしくない自分になってみせるよ俺は!
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