成長と殱魔騎士団
よろしくお願いします
「いいか、シルバー!魔の森の魔物は他の場所の魔物とは違う!確実に息の根を止めろ!魔物を倒しても油断するな!ここの魔物は兎に角しぶとい、首を斬り落として初めて殺したと思え!」
魔の森に接している砦の中で、曾祖父様の注意事項を聞く。
これから魔の森で実戦を経験するために。
空間把握を覚えてから5年。
スキルを覚え、鍛え、とうとう初めての魔物との戦闘だな。
妹のミラは愛し子だった。
同じ親から愛し子が産まれるのは初代国王以来だ。
ミラは前世の記憶を覚えいた。
ちゃんと話せるようになってから前世の事を聞くと、両親に殺されたと言っていた。
あの兄が事業に失敗して金が必要になり、妹に金の無心をしたそうだ。
妹は当然拒否した為に逆上した両親に殺されたらしい。
死後の世界でユナ様に出会い、俺の元に送られたと言っていた。
赤ちゃんの時に記憶があるか、確認したら記憶がある事がわかったから魔力操作や魔力量の増やし方を教えた。
公爵家のアイドルとかしている。
今年で4歳だ。
シルヴィアの秘密の事も話してあるから、シルヴィアとも本当の姉妹の様に仲がいい。
そのシルヴィアは今から俺と魔の森に入る。
シルヴィアは戦闘経験豊富だから、俺の失敗もすぐにフォローしてくれるだろうな。
5年が経って、殱魔騎士団の最初の部隊が共に魔の森に入る。
騎士団長は公爵家の騎士団から選ばれたが、副騎士団長は元孤児の子供だ。
あと5年したら、騎士団長になり殱魔騎士団を正式に指揮する様になるために、騎士団長に教えを乞うている。
俺は、曾祖父様の話を聞きながら装備をチェックくしていく。
メイン武器は刀だ。
7歳の時、初代公爵が使っていた夫婦剣を見せられた。
「シルバー、これは我が家の家宝の夫婦剣だよ。初代公爵が使っていたんだ。公爵家の血を引く者が触ると剣が光るんだよ。」
そう言いながら、父上が剣を持つと刀身が光る。
眩しくはないが、強い光だった。
「公爵家の者で、必要としている者が持つと形が変わるのじゃ。曾祖父様は大剣じゃったよ。本来一本は、妻に渡すのじゃが曾祖母様が亡くなられてからは、曾祖父様が二本の大剣を一人で振り回しておったよ。フォフォフォ。」
俺が剣に触ると、光輝いて刀に形が変わっていた。
そういえば、ジークフリートも刀を使っていたな。
夫婦剣は伊弉諾と伊奘冉という名前だ。
元々この夫婦剣は前世の世界の儀式剣で、ユナ様が貰ったらしい。
儀式を行う者がいなくなったかららしい。
この世界に来た時持つものによって形が変わる様になったらしい。
ユナ様がダンジョンに置いておいたら、初代公爵が手に入れたそうだ。
神託でそう言われた。
伊弉諾は俺が使い、伊奘冉はシルヴィアが使っている。
シルヴィアが伊奘冉を持つと、細剣に形が変わった。
父上達は羨ましそうにしていたが無視して喜んだのが懐かしいな。
伊弉諾も伊奘冉も、体が成長すると刀身が長くなった。
まだまだ本来の長さではないらしく、今も少しづつ伸びている。
「シルバー様、準備は出来ましたか?」
「ああ、問題ないよ。殱魔騎士団の方はどうだ?そっちも初めての実戦だろう?」
彼は副騎士団長のクラインだ。
クラインが副騎士団長に選ばれたのは、シルヴィアの推薦だ。
5年後の王都の大会で圧倒的強さで優勝したらしい。
その時は、魔法があまり得意ではないと、剣だけで優勝したらしい。
今は曾祖母様の鍛練で魔術師に近い魔法使いだ。
指揮も上手いから誰も反対せずに騎士団長になる副騎士団長に選ばれた。
シルヴィアはもう魔術師になっていた。
俺はまだ魔法使いなのに。
でも、剣の腕は俺の方が上だ!
同時使用の模擬戦では勝てないがな……。
「クライン、あと一年もすれば魔の森が活性化する。今日から、魔の森の事を少しづつ学んでいけ。決して無理はするな。死ぬだけだ!」
騎士団長がクラインに指導をしている。
この騎士団長ロールは公爵家の騎士団で副騎士団長をずっとしていた。
騎士達は万年副騎士団長と馬鹿にしたりしない。
騎士団長になる機会はあったが、
「私は副騎士団長でいい。若い者が騎士団長になり、それを支えていく。」
と言い、騎士団長を育てる副騎士団長と呼ばれ尊敬されている。
もういい歳なので、逆に副騎士団長を騎士団長に育てて欲しい、と頼んだら引き受けてくれた。
「よし、出発するぞ!まずは、そんなに遠くには行かない。一番弱いとされているゴブリンでさえ、魔の森にいるゴブリンは強い。」
「ゴブリンは馬鹿で、移動する時も4〜5匹程度で移動するが、魔の森のゴブリンは、頭が良く移動する時も10〜11匹で移動するし、後ろに2、3匹隠れている事も多い。」
「だから、ゴブリンを見ても油断するな!数も、質も、そのへんのゴブリンと同じに思うとすぐ死ぬぞ!」
曾祖父様と騎士団長が、交互に説明する。
説明しながら周りを警戒している。
まだ魔の森の中ではないにも関わらずだ。
この二人がここまで警戒するのか。
今日は、浅い所にしか行かないのに。
魔の森はそんなに危険なのか。
俺の顔を見て曾祖父様が
「浅い場所でも、ゴブリンしか出ない訳ではない。弱い魔物が、間違えて中層まで入り怪我をして浅い場所まで運良く逃げて来ると、それを追って中層の魔物も浅い場所に来るのだ。」
「だから、砦から出た瞬間から周囲を警戒するのですよシルバー様。魔の森はダンジョンとは違いすべてが繋がっていますからね。」
「ダンジョンは階層によって魔物が決まってますが、森や海は違うのです。安全地帯から出た瞬間、警戒し続けなければいけませんわよ。シルバー様。」
シルヴィアも小声で俺に話しかけてくる。
なるほど、ゲームではミニマップがあるけど、現実にはそんな便利なもの無いもんな。
アイテムボックスもないから、携帯食料も持って行かないといけないし荷物が多く疲れも溜まりやすい。
なかなか大変だな魔物討伐も。
「よし、ここから魔の森に入る。森の中は木の幹や草で視界が悪くなる。更に木の根や石で歩きにくいし踏ん張りにくい。注意しろ。」
「魔物と戦う時は周りも注意しろよ。新人は魔物を斬ろうとして、木の幹を斬って剣が抜けなくなって怪我をする奴が一定数いるからな。」
「班を2つに分ける。シルバーとシルヴィアは俺と一緒だ。ロール、クラインを頼んだぞ。」
騎士団長は頷き、副騎士団長と25人の団員を連れて左の道を進んで行く。
曾祖父様は俺達を連れて右に進む。
緊張するな。
一歩進むごとに緊張が増す。
周りがちゃんと見えないってこんなに怖いのか。
日本の山は熊かイノシシ位しか気にする動物がいない。
でもここは違う。俺達に出会ったら喜んで襲ってくる生き物が沢山いる。
深呼吸する俺に、シルヴィアが背中を撫でてくれる。
一人じゃないと。
皆がいると。
大丈夫だと。
あぁ、シルヴィアがいてくれて良かった。俺はシルヴィアに笑顔で頷く。
少し落ち着いたら、意外と周りが見える事に気が付いた。
確かに、見えづらい、けど全く見えない訳じゃない。
大丈夫だ、しっかりと周りを見ろ、変な所がないか感じるんだ。
「止まれ。あっちに何か生き物がいるぞ。」
曾祖父様が指を指す方を見たが、わからない。
周りを見ても、わかったのはシルヴィアだけの様だ。
次の瞬間、鳥が木から一斉に飛び上がった。
来る。そう思った瞬間、見ている方の草はこちらに向かって揺れて来る。
落ち着いて周りを見て、木の幹から少し離れる。
「ゴブリンだ!数は十!自分から相手に向かって行くな!迎え討て!ゴブリンが選んだ者だけ戦い、残りはフォローにまわれ!」
動かず待っていると、俺にゴブリンが一匹飛びきってきた。
おいおい、ゴブリン武器持ってるじゃん!
どこで手に入れたんだよ。
ゲームでは木の棒だったろ!
伊弉諾を抜きゴブリンの剣がを受け止める。
高速思考でゴブリンの動きの予想をして、並列思考でゴブリンの足元に土魔法で土の針山を作る。
ゴブリンが針山を踏んで、痛みで動きを止めた一瞬でゴブリンの左肩から右脇に斬りつける。
「ギャウ!!」
ゴブリンは悲鳴を上げて地面に倒れるが、俺はすぐに空間把握を使いゴブリンの心臓が止まったか確認し、すぐゴブリンに近付き首を撥ねた。
シルヴィアは、ゴブリンの両足を突き刺し動けなくしてから、顎の下から頭を突き刺し手首を捻り細剣を抜いてゴブリンを蹴りつけていた。
綺麗な戦い方だな。
俺は魔法を使ったのに、シルヴィアは細剣だけで倒すのか。
これが経験の差か、実感するな。
曾祖父様は自分に来たゴブリンを避けて、後ろの騎士に擦り付けた様だ。
周りの騎士は必死にゴブリンと斬り合っている。
あれ?
俺って結構簡単にゴブリン倒したんだな?
戦ってた時は必死で判らなかったけど、シルヴィアより速く倒せたんだな。
徐々にゴブリン達が、倒されていく。
最後の騎士がゴブリンを斬り捨て騎士達は一息付いていたが、何匹かまだ生きている。
俺は、自分の近くでまだ生きているゴブリンの頭に刀を突き刺した。
シルヴィアも曾祖父様も自分の武器を突き刺していた。
騎士達は俺達の事に気付いていなかった。
「ぎぎぁぁゔ!」
「うわぁ〜!いってぇぇ!!」
騎士の一人がゴブリンに足を噛まれた。
凄いなあのゴブリン、上半身と下半身別れてるのに騎士の足を噛んでるぞ。
絶対に助からないのに、あそこまでするのか。
近付いて、噛んでいるゴブリンの首を斬り落として、ゴブリンの下顎を斬る。
無理に引っ張ると足の肉がエグレそうだからな。
「だから、言っただろう。ゴブリンの息の根を確実に止めるまで油断するなと。俺達も必死だが、ゴブリン達も必死なんだ。魔物を甘く見るな!」
必死、必死か。
確かに死にたくは無いよな。
ゴブリンだからあの程度ですんだけど、魔物が強くなればなるほど最後の最後の攻撃は強くなるよな。
相打ちはゴメンだな。
「シルバーは、魔法を使って確実に倒していたが、ゴブリン程度に魔法を使っては魔の森では生き残れない。次は剣、いや刀だけできっちり殺せ。」
「はい、曾祖父様。シルヴィアが細剣だけで倒しているのを見て、自分でも失敗したと思いました。次は刀だけで殺します。」
「うむ、シルヴィアは文句の付けようがないが、足を狙うなら突き刺した後引き抜くのでは無く横に斬り裂く様にしろ。」
「はい、わかりましたわ。伊奘冉は折れないのを忘れていましたわ。」
曾祖父様は戦った皆に、一言、一言声をかけていい所と悪かった所を伝えていく。
シルヴィアの戦い方は完璧だと思ったが、細かい所は幾らでもあるものだな。
「さて、これからゴブリンを解体して魔石を取り出す。ゴブリンは他に使える所がない。魔石を取り出したらすぐに離れる。血の匂いで魔物が集まって来るからな。」
「もし、この場所から離れられない場合は、どうするのですか?火魔法で燃やすのですか?土魔法で埋めるのですか?」
「離れられない場合は、スライムを探して死体に置いておく。何故かスライムが食べた、あるいは食べている魔物は他の魔物に狙われず帰っていくんだ。血も匂いも死体も無くなるから丁度いい。」
魔石は魔物の右胸に出来る。
右胸を背中まで斬り裂き、刀の鞘で魔石を押し出す。鞘を振って血を落とし、出した魔石を拾う。
周りは、解体用のナイフで右胸を斬り裂き手を突っ込んでいた。
いやいや、手をどうやって洗う気だお前ら。
それに気付いた騎士が、慌てていて面白かった。
「手を突っ込んで魔石を出そうとするな!血が手について大変だろう。魔物の魔石は死んだ後なら、魔力に引き寄せられるから手に魔力を集めるんだ。」
これも経験なんだろうが、先に言って欲しかったよ曾祖父様。
鞘に血がついたじゃないか。
「とりあえずお前ら、手を出せ水を出してやるから洗え。」
「曾祖父様、水筒の魔道具が出来ていたんですか?俺は知らなかったのですが?」
「ああ、忘れていた。魔の森に入る前に、シルバーとシルヴィアには言っておく様に言われていたんだったな。悪いな!ガッハッハ。」
魔道具は俺とシルヴィアが6歳から作り始めた事業だ。
最初は俺は見ているだけだったけど、シルヴィアを手伝いだしたら魔道具製作のスキルを覚えたから、二人で作り始めた。
水筒の魔道具もその一つだ。
水魔法の水球より少ない魔力量で、水球の3倍水が出る便利な魔道具だ。
今回のゴブリンの様な低位の魔物の魔石で動かす事が出来るのも売りの一つだ。
手を洗い終わり、また魔の森を歩いていくと、すぐにゴブリンと出会った。
よし、刀だけで倒すぞ。
落ち着いて冷静に。
ゴブリンの剣を上から下に刀身で受け流し、そのまま下を向いている剣先をゴブリンの膝の少し上に突き刺す。
引き抜くと同時に、左前に二歩進みながらゴブリンの首を斬り裂く。
そのまま少し進み、ゴブリンの血を避ける。
丁度後ろにゴブリンがいて、騎士がゴブリンを斬ろうとしていたから、後ろ手にゴブリンを突き刺す。
ゴブリンの背中に剣先が少し刺さって、ゴブリンが痛みで止まったすきに騎士がゴブリンを斬り伏せた。
首から血を噴き出して倒れたゴブリンに、ゆっくり近付き止めをさす。
後ろの騎士もゴブリンをちゃんと倒せた様だな。
高速思考と空間把握を使えば、自分の周りを正確に把握出来るから冷静でいれば大丈夫だな。
2時間魔の森でゴブリンを探し、十回以上の戦闘が出来た。
なんとか無傷で終わったけど、肉体的にも精神的にも疲れたな。
曾祖父様とシルヴィアは元気だが、騎士達は大なり小なり怪我をしている。
殱魔騎士団の完全稼働までは、後2、3年はやっぱりかかるな。
砦には、別の班も帰っていていた。
こちらの班の方が怪我が多いな。途中から自分も戦いながら、騎士達をフォローしていた俺とシルヴィアがいなかったからか。
「これで分かっただろう。魔物を甘く見るな!特にここは魔の森だ。これからの鍛練は今日の事を意識して行え!以上、解散。」
曾祖父様の締めも終わり、シルヴィアと一緒に別邸に帰る。
明日は本邸に帰るから、この街にいれるのは今日までだな。
なら、明日帰る途中であそこに行くか。
喜んで貰えるといいんだけどな。
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