夏のホラー2022|『ヨミのラジオ』~あなたにも聞こえる時がくるかもしれない~
「アニメを見てるならお前も見た方が良い」食堂で聞こえてきた彼らの会話は、俺も今ハマっているアニメのことだった。だからつい聞き耳を立ててしまった。しかし聞いていくうちにその内容が、俺の予想とズレていく。
「アニメを見てるならお前も見た方が良い」それは原作漫画のことを言っているのかと思っていた。だがどうやらそうではない。彼がその友人に推しているのは、ラジオのようだ。出演声優が進行役で、作品関係者がゲストとして参加するその手のラジオは最近多い。だが俺はまずラジオそのものを聞いたことがない。たとえアニメのラジオといえ、それはアニメではないし・・・。
正直、そこまでの興味や熱意がない──と思っていたのだがつい、彼らの話を聞きすぎてしまった。誰かに誘われることもなく帰宅した金曜日の夜、BGM代わりに例のラジオを流していた。しかし俺がハマったのはいつの間にか流れていた名前も知らないラジオ。そう、例のアニメのラジオは終わっていて、気を利かしたパソコンが別のラジオを流していたのだ。
余計なお世話だと普段なら関連ものは見ない俺だが、そのラジオの司会者の声は耳に馴染む。食器を片付けてテレビを消して、スマホを置いて聞き入った。それを聞いている間は、何も変わらないワンルームの壁ですら見続けることができる。
そのラジオはお悩み相談に答えたり、日常のニュースに対して私見を述べたりするもので、俺の好みではない。しかし、その司会者の話が面白くて最後まで聞いてしまった。というより寝落ちしていた。
「人の声でほんとうに寝れるんだな」
パソコンの電源も落ちている。相変わらず気遣いのできるやつだ。
それから俺は家にいる間ラジオを流すのが習慣になった。でも、全部のラジオを聞いているわけではない。どれもながらだが、例のラジオだけはスマホを置いて聞く。まるで映画を見る様に、壁を見つめるんだ。
「ヨミの夜まで読みますラジオ! 今日も10時から深夜までよろしくね!」
────ワンルーム、男が1人。鍵を開けて数名の男たちが入って来た。彼らは警察官。彼らはそれを見ると、腕時計を見た。
「10時21分・・・発見と同時に死亡を確認」
「自殺でしょうか」
「こんな状況じゃ分からんな。ひどい臭いだ。窓開けてくれ」
「良いんですか?近隣へ迷惑が」
「閉じていても通報が来たんだから変わんねえよ」
「ここまでなるまで、誰にも気がつかれないなんて、今どきあります?大学生なのに」
部屋を見渡した彼らはすぐそこに落ちていたスマートフォンと、起きたままのパソコンに気がついた。
「おい、そのパソコンの履歴なんかあるか?」
「・・・最後に見たのはアニメのようです。11話までは履歴に残っています」
「アニメを見ながら死んだのか?」
「まあ、良い。持って帰れば消した履歴も分かる」
男はそう言ってパソコンを抱えた。
〝ヨミの夜まで読みますラジオ! 今日も10時から深夜までよろしくね!〟
「なんだ!?」
「どうしました先輩」
「何か言ったか!?」
「い、いえ・・・何も」
「これだ。このパソコンから流れている!」
男はその場に置いてキーボードを押すが、パソコンは応答しない。真っ暗な画面を見ながら男は「黙れ!」と吠えていた。




