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7話

 都内の住宅街の中にあるその神社は、階段を49歩登った先にある。大きな御神木のあるその神社は、深夜2時になると言うのに、人影がひとつ合った。

 

「見つけたわよ、伊狩きらら!いや、動画配信者キラリン!」

 境内の茂みに隠れていた蓮子と冬一が姿を現した!

「まさか私の呪いを受けて生きているなんてね…唯のハッタリ女だと思っていたけど、マジで霊能力者だったとは…」

「人を見かけで判断しないことね」

「いや、マジのハッタリ女だったぞ」

「余計なことを言わなくていいの!冬一!」

 2人を前にしても、きららの余裕そうな表情は崩れない。

「ま、別にいいけどね。どうせ今夜死ぬことに変わりはないんだし」

「あんた、私を殺したいほど恨みがあるっていうの!?」

「恨みならあるわ。私の二番煎じのくせに、バズりやがって…!顔だけがいいクソ女が!」

 きららは鬼の形相になって言った。

「二番煎じ…?あんたがやってた配信って心霊スポットでヤラセの心霊現象を流してただけじゃない!」

 そう、きららも動画配信者で、心霊スポットを中心に活動していたのだ。

 しかし、内容は蓮子と違い、ヤラセの怪奇現象を起こして、驚かせるというもの。

 

 

 蓮子は林尾トンネルを出た後、最近あったもうひとつの出来事、伊狩きらりについて調べた。

 SNSで名前を検索すると、すぐに動画配信者キラリンと結び付いた。

 彼女が心霊スポットで動画配信していること、2年前から続けていること、しかし、登録者数は3,000人で蓮子より低かったこと、

 そして、ここ"釘堂神社"での配信を最後に、更新が途絶えていたことなど、様々な情報が浮き出てきた。

 

 

「逆恨みが過ぎるんじゃない?あんたの登録者数が低いのは、自分に実力がなかっただけでしょ?」

「あ゛あ゛ん!?運が良かっただけで、調子乗ってんじゃないわよ!ぶっ殺してやるわ!!」

 そう叫ぶと、きららは手に持っていた"黒い藁人形"を御神木に叩きつけた!

「それ、あんたの最後の動画で出てきたやつね。それだけはヤラセじゃ無かったんだ?」

「そうよ…これは釘堂神社で見つけた藁人形。木箱の中に一緒に入っていた紙には使い方が書いてあったわ。呪いたい奴の髪や爪を藁人形に詰めて、午前2時に釘を打ち付ける…まあ、一般的に知られる『丑の刻参り』と同じものね」

 丑の刻参り…丑の刻(午前1時から午前3時くらい)に神社の御神木に憎い相手に見立てた藁人形を釘で打ち付けるという、呪いの一種だ。

「ぶっちゃけ信じてなかったけど、ムカつく上司の抜け毛で試したら、そいつマジで死んだのよ!ウケるでしょ!」

 きららは腹を抱えて笑った。

「それからは高校の時に私を苛めてきたやつら、理不尽な顧客、鬱陶しい親戚、ムカつく奴は皆殺してやったわ!最高よ!こんなに気分がスカッとすることなんて、今までなかったわ!」

 きららの笑顔は醜く歪んでいる。蓮子と冬一に寒気が走った。

「そして、あんたもそいつらと同じ運命を辿る…どうやって生き延びたか知らないけど、今度は昨夜の様にはいかないわよ…」

 そう言うと、きららは藁人形に4発、思い切り釘を叩き込んだ!

 

「来るぞ!気を引き締めろ、蓮子!」

「ええ!」

 釘を叩きつけられた藁人形は、黒い人形の化物を4体作り出した。昨夜、蓮子を襲ったものと同じやつだ。

「1体で仕留めきれなくても、4体同時ならどうかしら!?」

 4体の化物は蓮子たちに襲い掛かる!


「どうしよう、冬一?冥来刀に残る霊力は3体払える分しか残ってないんでしょ?残り1体倒せないよ」

 蓮子は小声で、冬一に話した。しかし冬一も冷や汗をかいている。

「方法はあるにはあるんだけど…」

「どんな?…ってうわ!」

 化物はもう蓮子の目の前に迫って、殴りかかってきた!蓮子は何とかそれを右に躱した。しかし、その右手にも化物がいた。

「くそ!しょうがない!」

 蓮子は右手にいた化物の胸に冥来刀を突き刺した!

「グギャァァァァァ!!」

 1体の化物は霧散した。

「なるほどね…その刀で昨夜は助かったのか。でも、残り3体…そう上手くいくかしら?」

 きららは余裕そうに蓮子たちを眺めている。

 

(確かにそう上手くいくとは思えない…そもそも最初から3体だったとしても、1発1発を確実に急所に突かなければならないんだ…こんなのただの女の子に出来ることじゃない…)

 冬一は現状に絶望していた。

「ねえ!1体分霊力使っちゃった!まだその『方法』って出来る?」

 蓮子は3体の化物から距離を置いて、冬一に話しかけた。

「ああ…まだ出来る。だけど…」

「勿体ぶらずに早く言って!」

「1発で纏めて弱点を貫くんだ!そうすれば、1体分の霊力で複数を払える!だけど、無理だ!そんなの現実的じゃない!」

 冬一は悲痛に叫んだ。しかし、

「なんだ、そう言うことだったの。分かりやすくて助かったわ」

 蓮子は涼しげな顔でそう言った。

「え…?」

 蓮子の言葉に、冬一は呆気にとられた。

 

 そう話しているうちに、蓮子は3体の化物に囲まれてしまった。

「やれぇ!呪い共!その生意気な小娘を八つ裂きにしろ!!」

 きららの咆哮にこだまする様に、化物は呻き声を上げ、同時に襲い掛かった!

 

「3体同時は無理ね…だって刀身が短過ぎるもの」

 蓮子は後ろから殴りかかる化物の拳を、体を横にずらして躱し、そのままバックステップして心臓部をひと突き。その後、左右から襲ってくる化物の足を払って転ばせると、2体の化物は重なり合う様に倒れ、蓮子はすかさず、2体の心臓部を冥来刀で貫いた!

 

「「「あぎゃあああああーー!!」」」

 

 殆ど、一瞬の出来事だった。

 蓮子は3体の化物を、あっという間倒すと、冥来刀をチャキリと鞘に納めた。

 

「一流の霊能力者を相手に、2度も同じ手は通用しないのよ」

 呆然と立ち尽くすきららに対し、蓮子は堂々と言い放った。

「すごいすごいすごい!!お前一体何者なんだ!?昨夜の時もそうだったけど、身のこなしが素人じゃない!」

 冬一は興奮しながら、蓮子に訊ねた。

「何者って冬一は、私を昔から知ってるんでしょ?"元"インチキ霊能力者の清水蓮子よ」

 蓮子はそう言い、またきららを睨めつけた。

「もう分かったでしょ。力の差は歴然。諦めて、その藁人形を置いて立ち去りなさい。そうすれば見逃してあげるわ。」

(と言うか、もう冥来刀に霊力残ってないから、ここで引いてよ!)

 蓮子は強気な表情だったが、内心結構焦っていた。

(大丈夫。あの女の霊力はもうない。元々かなり高い霊力を持っていた様だけど、1日じゃ4体が限界だ。)

 一方、冬一はきららの限界を悟り、安心していた。

 しかし、

「クソ!クソクソクソクソクソクソ!!クソガァァァァァァ!!」

 きららは地団駄を踏んで叫びまくった。

「絶対に許さない!!お前は絶対に絶対に絶対に!殺してやらなきゃ気が済まない!!」

 きららは怒りのまま、藁人形を叩きまくった。

 すると、きららの体から金色の光が漏れ出し、藁人形に力が宿った!

 

「何かやばい!蓮子、あの女を止めるぞ!」

「言われなくても分かってる!」

 蓮子は冥来刀を抜いて、急いできららの元に走る。だが、間に合わなかった。

 

「グオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 社の屋根をゆうに超える、これまでよりもさらに巨大で強靭な化物が、蓮子の目の前に現れた!

 

「その小娘をぶっ潰せぇ!!!」

 きららの声に従う様に、化物は拳を握り締め、蓮子に叩き下ろした!

 蓮子は咄嗟に後ろに下がったが、

 

 ドゴシャャャャャャ!!

 

 凄まじい衝撃が辺り一面を走り、蓮子は階段近くまで吹き飛ばされた!

「ぐは!」

 蓮子は身体を地面に強く打ち付け、血反吐を吐いて倒れた。

「蓮子!意識はあるか!」

「………何とか」

 冬一の呼びかけに、蓮子は息絶え絶えに答えた。

「このまま逃げよう!何とか階段を降りるんだ!」

「そんなこと、あの女が許すと思う?それに、今の私、立つ事もままならないわ…」

「……くそぉ〜!おいらが実体化出来れば、蓮子を乗せて逃げられるのに…!」

 冬一は心底悔しがっていた。

「冬一、これ見て」

 蓮子は冬一に冥来刀を見せた。

「あれ?刀身が光ってる?」

「うん、さっきあの女に近づく時に、私も気付いたの。多分、宝林大蛇様が霊力を込めてくれたんじゃないかな?」

 冥来刀は初めて蓮子が手にした時より、さらに強く光り輝いていた。

「これなら…いける!蓮子!あの化物を倒せるぞ!」

 冬一の瞳に力が宿った。

 

 

 

「何をこそこそ話している?遺言の準備か?」

 きららは不気味に笑っている。

「死ぬ準備は出来たか?ならば散れ!!」

 きららの言葉と同時に、化物は蓮子たちに殴りかかった!

 しかしその瞬間、蓮子を中心に青白い光が瞬いた!!

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