6話
「…では、私を祟ってはいないんですか?」
「うむ…じゃから、もう目に指を突っ込むのはやめろ…」
蓮子は失神から目覚めたとき、大蛇の姿を見て絶叫し、また気絶しそうになった。
かと思ったら、今度は自分の目をくり抜こうと、手を思いきり眼球に突っ込んだので、慌てて大蛇が蓮子の手を振り払ったのだった。
「むにゃむにゃ…………はっ!蓮子!?無事か!ってぎゃーーーーーー!宝林大蛇様!?」
冬一も気が付いたが、大蛇の姿を見た途端、叫んだ。
そして、急にスン…となったかと思ったら、前足を思いきり自分の眼球に突っ込んだ!
「やめい!お主ら、打ち合わせでもしとったのか!?」
冬一は小さかったので、大蛇は冬一ごと尻尾で叩いた。
「ふぎゃーー!一体どうなってるんだ!?」
吹き飛ばされる冬一を、蓮子は見事キャッチした。
抱き抱えられた冬一は、蓮子の真っ赤な右目を見た後、大蛇からの敵意の無さを感じて、何となく状況を察した。
「やっぱり…宝林大蛇様が祟りの原因では無かったのか?」
「やっぱりって、冬一は気づいてたの?」
「気づいてたってわけじゃないけど、違和感は感じてたんだ。蓮子は供養をしてたから」
「供養…?」
「蓮子はトンネルの掃除をしただろ?あれが供養。お盆にお墓を掃除したりするけど、そう言う行為は、霊や神様の気持ちを慰めるんだ。」
「その通り。我は蓮子に怒ってなどおらん。まあ、最初のふざけた舞をした時は、祟ってやろうと思ったがな…」
「やっぱり、来る人を祟ることもあるんですか?」
蓮子は恐る恐る大蛇に聞いた。
「無論あるとも。来るだけなら別に構わんが、ごみを捨てたり、落書きをしていく輩には頭痛を起こしたり、悪夢を見せたりする。まあ、噂のように祟り殺すことまではせんが…」
まじで祟りってあるんだ、と蓮子は改めて自分の行いの無謀さを実感した。
「だか、お前が舞の後、長い時間をかけて、丁寧に掃除をしていったので、祟るのはやめた。それに、お前はここに訪れて苦しむ人がいたらその解決になれば、と本気で願っていたから、祟っていた輩への呪いも解除してやったぞ。」
「あ、ありがとうございます!」
蓮子は深々と頭を下げて、大蛇に礼を述べた。
「蓮子!すごいな!お前は偶然とはいえ、多くの人の"解呪"に、ある意味では成功していたわけだ!」
冬一はえらく喜んでいたが、蓮子は首を傾げた。
「解呪?また、訳のわからん言葉が出てきたわね…」
「解呪は霊や神様の魂を慰めたり、悩みを解消して、霊障を無くす除霊方法だ!昨夜の祟りにやったのは"斬呪"と言って、強い霊力なんかで、強制的に除霊するやり方。どっちも除霊には違いないけど、解呪の方が、霊の心に寄り添って、自発的に霊障をなくすから、最も王道で尊い除霊とされているんだ。」
なるほど…もしかして私ってすごい?、と蓮子はにやけ始めた。
「あ!でも、調子に乗るなよ!今回はたまたま宝林大蛇様が寛大で慈悲深かっただけだ!他の神や霊相手で、こう上手くいくと思うなよ!」
「まあ、そうじゃな…他の心霊スポットで同じことをするのはおすすめせぬ。そもそも、落書きもごみも、どんな意味があるか分からんからな。強力な怨霊が封じられている事だってある。『触らぬ神に祟りなし』とはよく言ったものじゃ…」
冬一の注意に、大蛇も補足した。
確かにそうか、じゃあ次の配信はどうやろう…と、蓮子は懲りもせず考え始めた。
「あの…そしたら、どうしてお会いした時は、あんな殺気を立てていらしたのですか?」
蓮子の問いに、大蛇はくすくす笑いながら答えた。
「何か勘違いして、ここに来たようだったから、つい揶揄いたくなった。そしたら、2人の反応が随分面白くてな…興が乗ってしまった。戯れじゃ、許せ」
「ええ〜」
蓮子は不満げだが、神様に許せと言われてしまっては、返す言葉もなかった。
「蓮子は祟りにあっているのか?」
「はい。原因は分からないんですけど…」
神様に祟られてはいなかったが、結局問題は解決していない…蓮子は振り出しに戻ってしまった。
悩む蓮子に、大蛇は告げる。
「物事には全て因果がある。それが最もな理由のこともあれば、理不尽なこともある。しかし『理』は間違いなく存在する。蓮子が最近祟られたのなら、『理』はごく最近の事ではないか?」
最近…林尾トンネルでの除霊のほかに最近あったことといえば…
「何か別の心当たりがあるようじゃな。ならば、急いだ方が良いだろう。その刀、今度は肌身離さず持つ事じゃ」
大蛇は冥来刀を鞘に入れて、蓮子に返してくれた。
蓮子は改めて大蛇にお礼を言うと、冬一と共に急いでトンネルを出た。
「騒がしかったが、面白い2人だったな…偶にはこう言うのも悪くない…」
大蛇はかつての昔、自分が村で祀られて、人々と関わり合っていたことを思い出していた。
そして少し感傷的な気分になりながらも、再び眠りについた。