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3話

 三峯霊能事務所は、住居兼事務所の造りになっている。1階には事務所とキッチン、お風呂、トイレがあり、2階は襖を開くと1部屋になる広い和室がある。

 その2階の和室を、襖で仕切った1室が蓮子の部屋で、もう1部屋は、今は亡き徳子の部屋だ。

 

 蓮子は布団の中で、今日1日の出来事を反芻しながら、にんまりしてきた。

 蓮子は、念願の新規顧客が訪ねて来たことが嬉しくてたまらなかった。

 ライブ配信での宣伝効果はバッチリだ、次はどこで配信しようか、なんて考えながら目を瞑っていると、あっという間に眠ってしまった。

 

 チク…チク…チク…

 徳子の部屋にある大きな柱時計が、時を刻んでいく。

 

 そして時計の針が午前2時25分を指した頃、安らかだった蓮子の寝顔が、苦悶の表情に変化した。

 

 (身体が重い……気持ちわるい……)

 あまりの寝苦しさに、蓮子は目を覚ます。

 すると、

 

 「グオオオオオ…」

 

 黒いモヤのかかった人型の化物が、蓮子にのしかかっていた!

 そしてその手は今まさに、蓮子の首を絞めようと伸ばしている。

 

(なに!?強盗…!?いや、人間じゃない…!?)

 その化物は、人でいうところの右目と心臓部分が赤黒く光り、さらに心臓部分はドクンドクンと鼓動していた。


 蓮子は、あまりの恐ろしさに悲鳴を上げそうになるが、声が出ない。それどころか身体が全く動かなかった。

 

 化物はそのまま蓮子の首に手をかけると、ゆっくりと力を込めていった。

 蓮子は声にもならない掠れた吐息を漏らし、顔がみるみる赤くなっていく。

(苦しい…息が出来ない…私はこのまま死ぬの…?)

 目がチカチカする、意識が遠のく、蓮子はもう限界だった。

 

 と、その時。

 

 蓮子のミサンガがブチリと千切れ、部屋中に青白い光が瞬いた!

 そして、

「ふぁ〜、よく寝たぜぃ。蓮子もやっと目覚めたようだな」

 見知らぬ白い小狐が現れ、気の抜けた声で蓮子に話しかけてきた。

 

(何なの?また変なのが出てきたわ…)

 蓮子は呆気に取られたが、化物も同じようで、首を絞める手が緩んだ。

(……息ができる!身体も動きそうだわ!)

 蓮子は、すぐさま身体を捻って布団から飛び出し、化物から距離を取った。

「…どうやら、呑気に自己紹介する感じじゃなさそうだな」

 小狐は状況を理解した様子で、徳子の部屋を前脚で差すと、

「蓮子!徳子の部屋に行け!その"祟り"を払うには武器がいる!」

と、叫んだ。

 蓮子は小狐のことをまるで知らなかったが、自分を助けようとしていることは伝わったので、素直に従うことにした。

 

 蓮子は襖に体当たりして、徳子の部屋に倒れ込むと、小狐に食い気味に訊ねる。

「それで武器ってなに!?」

「刀があるはずだ!」

「刀…?徳子ばあちゃんの葬式のときに部屋の整理をしたけど、そんなものは見つからなかったわよ?」

「柱時計の中は見たか?」

「それは見てない」

「振り子の裏が二重構造になってる!そこに

 霊剣"冥来刀(めいらいとう)"がある!」

 んなところ見るか!、と蓮子は苛立ちつつも、柱時計の前まで走った。

「柱時計の扉、開かないんだけど!?」

「随分、古いからな。錆びちゃってるかも…」

「ああ!もう!」

 蓮子が柱時計の扉をガチャガチャ開けようとしていると、

「蓮子!危ない!」

と、小狐が叫んだ。

 蓮子が振り向くと、化物はすぐ目の前。蓮子に思い切り、殴りかかるところだった!

「くっ…!」

 蓮子は咄嗟に横に飛んで、攻撃を回避する。

 

 ガシャァァァン!!

 

 化物の大振りな攻撃は、柱時計をバラバラに破壊した!

 と、同時に中から、全長25センチ程の、鍔のない懐刀が飛び出して、そのまま蓮子の目の前に落ちた。

「蓮子!それだ!その刀が冥来刀だ!」

 小狐が言うと、蓮子はその懐刀を手に取り、鞘を抜いた。

 懐刀の刀身は、文字のような模様が刻まれ、そこから淡い光を放っていた。

「それで私はどうすればいいの?」

「決まってる!その刀で"祟り"を直接切るんだよ」

「私にあんな化物に立ち向かえっていうの!?」

 蓮子は憤慨した。

「しょうがねぇだろ。おいら、蓮子の霊力じゃ"実体化"出来ないし…」

「えー!あんた全然役に立たないじゃない!?」

「なんだと!誰がここまで導いてやったと思ってるんだ!」

 蓮子と小狐がやいのやいのと言い争っている間も、化物は待ってはくれない。

「ガアアアア!!」と唸り声を上げながら、蓮子たちを目掛けて、突進してきた。

「くそう!やるしかないか!」

 蓮子は腹を括った。

「蓮子、狙いは胸の赤黒い光の部分だぞ!」

「さらに難易度が上がったんだけど!」

 蓮子の決心は早くも揺らいだ。

 

 しかし蓮子は、冥来刀を逆手に持つと、落ち着いた様子で、突っ込んでくる化物をギリギリまで引きつけた。そして、紙一重で突進を躱しつつ、化物の裏に回り込み、そのまま、思い切り刀を化物の胸の光に突き刺した!

 

「グギャァァァァァ!!!」

 

 化物は断末魔を上げると、そのまま霧のように散ってしまった。

 

 この様子を見ていた小狐は呆気に取られていたが、

「……見事だぞ!蓮子!正直、あまりに良い身のこなしで驚いた!」

と、蓮子を誉めた。

「どうも…でも腰が抜けちゃって、もう動けないわ…」

 そう言いながら、蓮子はその場でペタリと座った。

「何がなんだか分からないんだけど、取り敢えずもう終わったって考えていいの?」

 蓮子がぐったりしながら訊ねるが、小狐は首を横に振った。

「いや、あの化物は"祟り"だった。祟りって言うのは、現象であって、祟りの原因を解決しないと、また現れるかもしれない」

「そんな…もう2度とあんなのと戦うなんて御免だわ」

 愕然としている蓮子に、小狐は訊ねる。

「なあ、何かに祟られる心当たりは無いか?」

「祟られるって、神様に罰当たりなことをしたり、人に恨みを買ったりする類いのこと?」

「まあそんなところだな」

「ないなぁ…私、品行方正で非の打ち所がないパーフェクト美少女だし」

と、8割本気の冗談を言いながらも、蓮子はあることを思い出していた。

「ねぇ、私のスマホ取ってきてよ」

 蓮子のスマホは、蓮子の布団の真横にあった。

「おいら、物に触れられないから無理だぜ」

 なんて役立たずな小狐なんだ、と改めて思いながら、蓮子は身体をずるずると引きずって、何とか自分の布団に戻った。

 そしてスマホを開くと、林尾トンネルでの除霊配信を小狐に観せた。

 

 30分間の除霊配信をまじまじと小狐は見続けた後、

「お前はこれを持って、よく心当たりがないなんて言えたな」

と、呆れた様子で蓮子に言ったが、当の蓮子は疲れ切って、既にすやすやと眠っていた。

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