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第14話 空手と美少年 ‐杉浦完児‐

逃げた女性を男性が追いかけるという展開の割には話が腐っています。

ご了承下さい。


「二人はそのままチェックポイントに向かってくれっ。オレも百合香をとっ捕まえたらそのまま向かう!」

 二人の返事を待たず、全速力で走り始める。

 少し不安も残るが、義高がいればとりあえず平気だろう。というより、全員で追うのは優勝を目指す一点から論外だとしても、あの二人に百合香を捕まえることは不可能だ。魔物と化した今のアイツに言葉なんか届きゃしない。

 オレですら、返り討ちを覚悟する必要がある。

 一体誰だ。アイツに空手なんて教えやがったのはっ。

「……あれ?」

 それってオレじゃね?

 確か小学五年生くらいの頃だったか、当時の百合香はぬいぐるみとかお人形とか、そういう物をこよなく愛する普通の女の子だった。いや、今でも基本的な趣味や嗜好に変わりはない。ただ、人や熊を素手で殴ったりするようなことはなかった。

 一方当時のオレといえば、親から無理矢理させられている剣道から逃げて、代わりにという条件で始めた空手を渋々こなしているような感じだった。

 どうやっても武道から逃げられないオレは、武門三家の跡取りでありながら何もせずにいる百合香に対して、不公平だと感じていた。身勝手な理屈だとは思うけど、そう思うことで自分の境遇を不当なものだと納得したかったのかもしれない。

 だからオレは、アイツにこっそり空手を教えることにした。

 もちろん百合香はイヤがった。でも無理矢理やらせた。

 その結果、魔物が生まれてしまった。

 今のアイツは、単純な実力で言うならオレより遥かに強い。同学年で異種格闘技戦をすれば、三本の指に入ることは確実だ。むしろ本命だろう。

 特にここ最近、無駄に身体が発育して筋力が増すと共に、その破壊力は更に磨きがかかっている。昔なら笑顔で受けるなり避けるなりできたツッコミが、最近は見えないことも多い。時々、オレはツッコミで死ぬんじゃないかと真剣に思うこともある。

 ホント、やれやれな女だ。

「おい、百合香っ、いい加減止まれよっ」

 この白霧はくむの森は、村の周囲を囲む普通の森とは明らかに様子が違っている。アイツみたいにオカルトなんぞ信じちゃいないけど、他の森と違うってことは認めるしかない。

 足場が時々ぬかるんでいたり苔に覆われていたりっていうのは、湿気が多いからってことで済むだろうが、何だって地面がこんなにボコボコしているんだろうか。しかも、その合間を縫うように不規則な形をした根っこが這い回っているものだから、更に足元が危なっかしい。

 それに、危険なのは足元ばかりじゃない。霧のせいで発育でも悪いのか、生えている木は全体的に低く、そればかりかクネクネと折れ曲がっていることが多かった。下草が少ないのが唯一の救いだけど、足元から頭上まで、気を付けなければならないポイントが多すぎる。

 なのにアイツときたら。

「くそっ、相変わらずデタラメな反射神経しやがって」

 背中が近付かない。

 可能な限りの全速力、頭の後ろを使うような感覚の画像処理と先読み、オレの持つ能力をフル活用しての追跡にもかかわらず、距離は全く縮まなかった。

 足の速さだけなら、オレの方が少しだけ上だ。

 つまり、オレの先読みを利用した的確な進路選択を、アイツの野生的な反射神経が凌駕しているということになる。

 以前その辺りを何となく聞いてみたことがあったのだが、アイツは実際に拳を交えている時、少なくとも攻防の一瞬において、頭の中は真っ白なんだそうだ。何となく目標や戦術を考えてはいるそうだが、その時に実際動いているのは『自動』という感覚らしい。

 思った時にはすでに身体が動いている、とも言ってたか。

 師範でもある藤嶋のオジサンも驚いてた。まぁ、自分の娘にそれだけの才覚があるとわかっていたら、もっと早くに空手をやらせていただろう。

 いや、あるいは絶対にやらせていなかったか。

 オレとしては失敗だったと反省している。当時に戻ることができたとしたら、絶対に空手なんぞやらせはしない。そうすれば激しいツッコミもなくなるし、まさしく理想的な幼馴染みになること請け合いだ。

「って、んなこと考えてる場合じゃねー!」

 とにかく今は、何としてもアイツの足を止めることを考えることが最優先だ。

 だが、どうやって?

 言葉が届かない以上は実力行使しか残っていないが、それは追いつけなければやりようもない。正直、完全にお手上げだ。どんな偶然であるにしても、アイツの足が止められることに期待するしかない。

 とはいえ、完全に暴走したアイツを止めるなんて出来る奴がいるんだろうか。正直、最強の使徒と名高いゼル○ルにだって難しそうだ。

 仮にオレが正面に回ったところで、アイツを止められるかどうかはわからない。

 と、対峙した時の対策を三つくらい発想した瞬間、何かがアイツの前に飛び出してくる。オレは正直、青くなった。今の百合香はブレーキの利かないトラックみたいなものだ。その鼻先に飛び出すなど、自殺行為でしかない。

 オレの先読みは、惨劇を予感した。

 しかし、幸いにも読みは外れる。それどころか、トラックの方が相手を避けた。百合香は木を蹴り飛ばすようにして強引に急停止すると、続けざまに繰り出される掌底を弾いた。

 片や流れるような、片や爆発するような対照的な動きだ。

 攻防がなされる度に長い黒髪が大きく跳ね、二つの大きな母性が揺れる。

 何というか、これはスゲー。

 と、絶景に感心するオレの左側から、茂みを割ってもう一人が現れる。奴は木刀を下段に構え、最後の一歩を踏み出すと同時に鋭く切り上げた。

 視界の右端で何かが唸り、逃げ遅れた髪の毛が宙を舞った。



 今のはヤバかった。

 その軌道が見覚えのあるものじゃなかったら、下手をすれば顎を叩き割られていたかもしれない。

「あれ、完児かよ」

 思い切り振り抜いてから、まとっていた刺々しさが消える。

 というか、もっと早く気付けっ。

「驚かすんじゃねーよ、アホ広樹」

「さては、お前偽者だな」

 ニヤリと笑って、お嬢の小間使いその一は木刀を構えなおす。さすがにこの局面で無意味な試合を楽しめるほど、オレはサイヤ人じゃない。

「スマン。広樹は取り消す」

「アホを取り消せよっ」

「え、それじゃ何も残らないじゃん」

「いや、木刀とか残るだろ」

 さすがは同じ釜の飯を食った仲、これほど息の合う相手はそうそういない。敵にしておくにはホントに惜しい男だ。

「つーかさ……」

 互いに現実を見たくはないのだろうが、このままじゃ優勝もへったくれもない。

「アレ、何とかしてくれよ」

 とりあえず頼んでみる。

 もちろん、少し先で未だに攻防を繰り返している化け物二人のことだ。百合香一人だけでも厄介だってのに、そこにお嬢まで加わったんじゃ手の出しようがない。

「無茶言うな。俺はまだ死にたくない」

「オレだって死にたくない」

 オレ達は図らずも、意見の一致を見た。

 故にオレ達は固く握手を交わした後、二人並んで事態の収束を待つことにした。怪獣大決戦に一般人の入り込む余地などない。つまりはそういうことだ。

 改めて見ると、攻防は次の段階へ入っているようだった。

 不意をつかれて当初は防戦一方だった百合香だが、今はむしろしている。流れるような連続攻撃を得意としているお嬢としては、あまり思わしくない局面だ。

「どっちが勝つと見る?」

「……最終的には藤嶋だろうな、やっぱり」

 広樹は少しだけ考えてから、冷静な回答をよこした。チームメイトだろうが友人だろうが、冷静な戦力判断ができるのは広樹のいいところだ。

「お前こそどう思うんだよ?」

「希望的観測からするとお嬢に勝って欲しいところだな」

 あの暴走した化け物を止めるのは、さすがに避けたい。

「おいおい、味方を応援してやれよ」

「お前こそ敵の勝利を予想するな」

「俺のは冷静な分析なの。心情的にはお嬢を応援してるさ。というか、どうして藤嶋を応援しない?」

「見てわからんか。現在絶賛暴走中だ」

「……なるほど」

 納得したらしい。こいつも百合香の怖がりを知る一人だ。そしておそらく、暴走モンスターの恐ろしさもわかっている。あの二人の立場が逆なら、それほど怖くもなかったのかもしれないが、百合香の資質と暴走のコラボは最悪の組み合わせだった。

「とりあえずお嬢が何とか止めてくれることを期待したいとこだが……そっちは大丈夫なんだよな?」

「何がだ?」

「だから、暴走してないよな?」

 いきなりの不意打ちで現れたことが少し不安になって、確かめてみる。もしこちらと同じ状況で鉢合わせしたのなら、あまりに痛々しい事態だ。

「暴走はしてないと思う。ただ、ちょっとブツブツ言ってたから、冷静じゃなかったかもしれん」

「何だよ、そりゃ」

 ちょっと怖えーぞ。

「というか、お前らがお嬢に付きまとってたんじゃないのか?」

「は?」

「いや、誰かに見られてる、みたいなこと言ってたからさ」

「知らねーって。というか、ついさっき暴走して走ってきたんだ。付きまとってるハズがねーだろ」

「そっか……まぁ、そりゃそうだな」

 何というか、話が微妙に噛み合っていない。

 つーか、お嬢がどうしていきなり百合香を襲ったのか、その理由がサッパリだ。リタイアを誘うための妨害工作だっとしても、タイミングが悪すぎるだろう。ズル賢いお嬢らしくもない判断だ。

 ただまぁ、こうなった以上は何が原因だろうが関係ない。

 ケリがつくのを待つしかなかった。

 とはいえ、このまま指をくわえて見ていたら、百合香に軍配が上がることは目に見えているだろう。

 何かオレに出来ることはないかと思いつつ、二人の攻防を真剣に見詰める。

 しかしその瞬間、オレは諦める。

 うん、無理。やっぱ死ぬ。

 改めて戦っている姿を見るが、二人とも立派に化け物だ。百合香はまだ見慣れているが、常日頃感じている鋭さとパワーに、圧されているとはいえ対処しているお嬢も、とんでもない女だってことは間違いない。

 百合香の武器は、止めるにも苦労する鋭い拳が的確に死角から飛び込んでくるところだ。本来の型としては攻防の移行に一拍あるんだが、持ち前の反射神経がそれを打ち消して余りある。そのため戦う相手は息つくヒマのない連続攻撃にさらされ、防戦一方に追い込まれる。

 しかも、その破壊力は一発当たったらアウトという凶悪ぶりだ。

 事実お嬢の髪をかすった一撃が枝葉を払い、それを付け根から削ぎ落とす。しかも勢いは止まらず、むしろ舞い上がる枝葉を盾にして死角を作り、ぶち抜くように右の拳を突き出す。

 その思惑を読んでいなかったとしたら、確実にケリはついているところだ。

 だがお嬢は、その繰り出された拳を手の平で流し、そのまま同じ盾をぶち破るようにして肘を打ち込みにかかる。わずかに引いてからの攻勢とは思えないほど、体重移動はスムーズだ。まるで、最初からその動きが決まっていたかのような、そんな印象すら受ける。

 だが、その肘は百合香を捉えない。

 奴はすでに回り込み、お嬢の背後をとっていた。

 何なんだ、その身体能力は。

 とはいえ、さすがにこの体勢はマズい。肝心のお嬢は肘を打ち終えた姿勢のままだ。アイツの鋭い拳をかわすにしても受けるにしても、十分じゃない。

 が、どうやらオレは見くびっていたらしい。

 お嬢は踏み出した方――右足のつま先をわずかに持ち上げると、軽く蹴って重心を左足へ戻し、背中へと放たれた一撃を逃れた。しかもその時の勢いを利用して身体を半回転させ、肘の形を変えることなく強烈なフックを打ち込みにかかる。

 それは有効打にこそならなかったが、とっさの対応が遅れた百合香は大きくバックステップをして難を逃れるしかなかった。

 まったく、何て連中だよ。

 正直、感心させられる。

 特にお嬢だ。奴は力やスピードではなく、流れるような型の連続によって攻防を形作るタイプだと言える。もちろん、それは単に教科書通りの型ではなく、それを臨機応変に組み合わせているからこそ実戦でも使えているワケだが、そのチョイスとアレンジの仕方が天才的だった。

 以前、その動きのどれくらいが計画的なのかと聞いたことがあって、それに対するお嬢の回答は『全て』だったんだが、まんざら見栄を張ったというワケでもないのかもしれない。

「攻撃そのものは単純なんだけどな……」

 広樹の呟きが耳に入る。

 そうだ。今の百合香には隙がある。アイツは今、目の前にある出来事に反応しているだけなんだ。だからこそ反射がいつもより鋭くもあるが、予測していない分、後手に回る可能性は高い。

「何か、揺さぶりをかけることでもできればいいんだが」

 口には出すものの、そのための具体的な策など思いつかない。

 しかも、当事者であるお嬢には、そんなことを考えていられるだけの余裕すらないように見えた。

 いや、事実あるハズがない。

 百合香の攻勢は更に激しくなり、何とか対応しているお嬢も少しずつ表情が険しくなる。攻守の交代はあっても互角に見えていた二人の一戦は、ここにきて傾き始めていた。

「マズいな……」

 広樹も気付いたか。

 一見すると万能なお嬢だが、一つだけ致命的な欠点がある。

 それはスタミナの不足だ。

 とはいっても、普通の女子として考えれば、特別劣るというワケでもない。むしろ並より少し上だろう。ただ、奴の実力を支えるには、やはり足りなすぎる。

 お嬢の息が荒い。足も止まり始めた。

 さすがにここまでか。

 もちろん、ここを逃すほど百合香は甘い相手じゃない。しかもアイツのスタミナはオレと互角か、それ以上ときている。男子に混じったとしても、トップクラスであることは間違いない。

 この化け物め。

 そしてついに、百合香の拳がお嬢の左肩を捉えた。

『あっ!』

 オレと広樹は同時に叫ぶ。

 その声に反応するように、お嬢は踏ん張って構え直した。

 まだ浅かったらしい。けど、このままでは間違いなくやられる。それは誰の目から見たって、戦っている本人にしたってわかりきったことに思えた。

 仕方がない。こうなったら、加勢して強引にでも百合香を止めるか。

 そう思いながら足を踏み出しかけたところで、不意に声が上がる。

「本棚の三段目、図鑑の裏っ!」

 声の主は、お嬢だった。

 百合香が、暴走して目の前の障害を取り除くことにのみ執心していた百合香が、ここで初めて人間らしい反応を見せた。色を失っていた眼差しは景色を反射し、緩んでいた表情筋に電気信号がはしる。

 それがお嬢の言葉を皮切りにしていたのは明確だ。

 だが、まだ押しが足りない。

 正気に戻ったと言うには不足していた。

「二段目の引き出し、文具ケースの奥っ!」

 重くなったとはいえ、未だに歩みを止めない百合香に、お嬢が追い討ちをかける。

 今度はどうだ?

 反応を確認する。

 百合香は……俯いていた。呆然とした表情で波打つ根っこを見詰めていた。下唇を噛み締めて、肩を震わせていた。あれだけ大きく感じた威圧感は鳴りを潜め、場の支配がいつの間にか解かれている。

 気づけば、木々のざわめきと鳥のさえずりが戻っていた。

「タンスの一番上、下着――」

「もう言うなーっ!」

 判断に迷った末の更なる追い討ちを、百合香の叫びがかき消す。

 同時に止まっていた足が再び踏み出され、一気に間を詰めた。開いたまま振り上げられた右手が、真っ直ぐにお嬢の顔へと向かっていく。

 対するお嬢は、それを鋭く左にステップしてかわす。

 当然だ。あんな大振りが当たるハズはなかった。ついさっきまでとは、別人のような動きと言っていい。

「……どういうことだ?」

 急に攻防の趣が変わったことに戸惑ったのか、隣で様子を見ていた広樹が呟く。

 まぁ、事情を知らなけりゃ何だかわからんわな。

「おい完児、藤嶋に何が起きた? お嬢が言ったのは何だよ。呪文か?」

 呪文ねぇ。言い得て妙ってのは、こういう時に使う言葉なのか。

「あれは隠し場所だよ」

「隠し場所?」

「あぁ、百合香の秘蔵コレクションのな」

「秘蔵って……何だそりゃ。まさか、エロいのかっ?」

「知らん。見たことないし」

 というのはウソだ。興味半分で、コッソリ見たことがある。

 内容はまぁ、俗にいうヤオイっぽい奴だ。ただ、思っていたほど過激じゃなかった。もっとも、用心深い百合香のことだ。本命は絶対に見つからない場所に隠してある可能性も高い。

「でも意外だな。彼女が人に見せられないような物を隠してるなんてさ。そんなイメージないだろ」

「ま、外面は綺麗を装ってるからな、百合香は」

「実情は違うのか?」

 普段のアイツを知っていると、学校でのアイツは滑稽ですらある。

「というか、お前がどんなイメージを持ってるのか知らんけど、アイツは可愛い男の子とか綺麗な男の子とか虐められる男の子とか大好きだぞ」

「マジかよっ」

「一度ノックを忘れて部屋に入った時に、モニターの前で『レンきゅ~ん』とか言いながら悶えていたことがあってな。さすがにアレはちょっと引いた」

 もちろん、その後ボコられたことは言うまでもない。

 ついでに言うと、誰にも言うなと口止めされた。

 今思い出したけど。

「とにかく、アイツの趣味はヤオイでショタだ」

 そんな断言をした瞬間、空気が動いた。

 衝撃が、視界の急激な変動とともにやってくる。

 自分がみぞおちへの一撃によって弾き飛ばされたと気付いたのは、視界が地面スレスレに見えてからだった。

 気配より早く一撃を放つとは、変なとこだけ腕を上げやがって。



「で?」

 オレはみぞおちを擦りながら並んでいる二人を交互に見やる。

 くそ、メチャクチャ痛ぇ。

「何が見えたから逃げ出したんだって?」

 二人から大まかな事情を聞くと、どうやら何かおかしな幻を見たから逃げ出したそうだ。それがここに来て鉢合わせをして、相手が自分を驚かしたと思った、ということらしい。

『だからコイツが――』

 ハモりつつ互いに相手を指差す二人。

「それはつまり、お互いを見てお互いに驚いたってことじゃねーの?」

 間の抜けた話だが、つじつまは合う。

「違うって! ワザワザ白い着物なんて着てたんだよ。絶対に要の嫌がらせだよっ」

「それはこっちの台詞。アンタこそ適当な嘘を並べないで」

「その長い髪だって見覚えあるもんっ」

「ワタシが見たのはオカッパだったっての!」

 話が進まん。

「完児だって見たよね。ホントは見たんだよね。私を怖がらせるために嘘をついてただけなんだよねっ」

「いや、だからホントに見てねーって」

 髪の長い白装束の女なんぞが森に立ってたら、いくら霧が深くてもさすがに気付くだろ。

「ホラ見なさい。増田くん、アナタからも言ってやりなさい。百合香に間違いなかったでしょ?」

「えっと……オレは見てないけど」

 女性二人が連続で固まる。

 どうやら、この二人が見たという何者かは、お互いのことじゃないらしい。少なくとも、百合香は白い着物なんぞ着ていないし、そんな余裕なんぞなかった。

 そもそも、他人を驚かすなどという発想ができる状況にもなかったしな。

 とはいえ、お嬢がこんな安っぽいウソをつくというのも変な話だ。第一、もし百合香を驚かしたのがお嬢だったとして、どうやってオレ達より先回りできたんだろうか。

 錯乱してたから進路は何度か折れただろうが、それにしたって正面から突然現れるというのは出来すぎだ。

 というより、ぶっちゃけ無理だ。

「つーことはアレだ。本物が出たってことじゃね?」

「なるほどー」

 オレの明快な結論に広樹が同意する。

 だが、女子二人は納得していないようで、激しく首を横に振りながら悲鳴をハモらせていた。さっきまで男勝りの勝負を繰り広げていたとは、とても思えない惨状だ。

 この二人がオレを怖がるとか、あり得るんだろうか。

 何つーか、ちょっと羨ましいぞ、幽霊め。


メインジャンルが冒険である割に、ここへ来て初めて冒険物らしいアクションをお見せしたような気がします。

とはいえ微妙ですけど(笑)

いえ、最後まで読んだら冒険物っぽい作風に見えますよ、きっと。

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