ラブコメをやりたい!そう言って俺は幼なじみをデートに誘った。
「理想のヒロインとは何だろうか」
放課後、文芸部の部室で俺は幼なじみの雪見雪菜に問いかける。
「何いってんのあんたは」
「いや、これだ」
そう言って、俺はPCを雪菜に見せた。
小説を書こう
「要するに素人参加の小説投稿サイトだな」
「あんたはそれに投稿する、やればいいじゃない普段書いてるエロSSでもなんでも」
「それじゃあ駄目だ、あれは版権物だからいろいろまずい」
大体俺の好むのは電撃的な電撃姫がデレたりとか、
すげー口の悪い髪長貧乳がぽんこつになって非常にデレたりする奴とか
あと延々と主人公とヒロインが会話させたりする感じの奴。
「これは一応、オリジナルじゃないとまずいのだ。なんか訴えられたら負けるし」
「そうなの、わからないけど」
雪菜は耳にかかった髪を払いながら答える。
「じゃあ、普段書いてる奴を少し設定変えてやればいいんじゃないの?」
「それもいいけど、やっぱりリアリティがほしくてな、協力してほしいのだ」
俺は目の前の雪菜に頭を下げる。
「協力?どんな?」
ジト目で俺をにらみつける雪菜。
「ラブコメをやりたい!だから俺とデートしてほしいんだ!」
俺、桐谷和哉は目の前できょとんとしている雪菜にそう言った。
時間は変わって日曜日。
和哉は雪菜を待つこと20分、駅前でコーヒーを飲みながらライトノベルをむさぼり読んでいた。
「……、もしかして、遅刻?」
「いや、10分前だ」
割とラフな格好をしている雪菜の質問に和哉は答えた。
「へぇー、ってことは、楽しみにしてたんだ。デート」
いたずらっぽい表情で話しかける雪菜。
「……、まあ、取材だし、楽しみといったら楽しみだ」
そう、和哉がデートといった目的は小説の取材である。
「実際、恋愛小説を書くのに、何か参考になればと思ってな」
「ふーん」
無関心そうに雪菜は答える。
和哉はライトノベルをバッグにしまい、バス停前に向かい指を指す。
二人は底に向かい歩きながら話す。
「まあ、金はおごるから、損はさせないつもりだ」
「へえ、やさしいじゃん」
「付き合い長いしな」
とりとめない話をしているうちに、バスが止まる。
バス停に向かって走る。
二人はバスに乗る。
「大型ショッピングモールに行けばデートっぽいと思うんだがどうだ?」
「うーん、まあ、定番といったら定番だと思うけど」
バスの行き先は”ファボール”、県でも3指に入るショッピングモールだ。
映画館もあれば、服屋もあるし、ゲーセンもある。そしてゲームショップもあれば本屋もあって飲食店も多い。
いろいろ回るだけでも楽しめるような感じのところだ。
「で、さあ、そこに向かって何をしたいの、和哉は」
和哉はスマホを開き、リストアップした代物を確認し、言った。
「ランジェリーショップで下着を一緒に選ぼうと思ってな」
「却下」
即座に断る雪菜に怪訝な表情をする和哉。
「何故だ」
「当たり前でしょ、なんでそんなところに男子といかないといけないの」
ひょっとして、私の下着の趣味を知りたいの変態、って表情をする雪菜。
「女子と一緒に、下着を選んでドギマギするのがラブコメラノベの鉄則で取材をしたいのだが……」
「一人で行きなさいよ!」
「一人で行ったら、店員ににらまれた」
「当たり前」
「大体、女というのはどう言うものをベースに下着を選ぶのか、
非常に興味あるのにだな、それを執拗に質問すると、非常に嫌悪感を持たれながら罵られるのだ」
「いや、それだけ聞くと、あんた真面目に変態だからね」
「そうか……、度しがたい」
和哉は少し考えて、雪菜に提案する。
「じゃあ、俺の下着を選んでくれ」
「馬鹿か!」
雪菜の裏拳が和哉の胸に、炸裂する。
そして、くすくす、声が聞こえる。
和哉と雪菜の様子見て、微笑ましい、カップルと思われたらしい。
和哉は整った服装。
雪菜は白を基調としたブラウスに青のスカート、そして、黒のハイソックスに決めていた。
年頃の高校1年ぐらいの男女が戯れてたらどうしてもそういう視線に見えてしまうものらしい。
「次、ファボール前、ファボール前」
「ついたみたいだな」
「そうね、降りましょう」
二人はバスを降りる。
こうしてデートが始まった。
「で、何で俺の服を選ぶことになるわけ」
怪訝な顔で質問する和哉。
「あんた、ロクな服装してないからよ」
ぴしゃりと返す雪菜。
「服屋は苦手だ……」
「女の子と、一緒に店に入る体験がしたいんでしょ、なら私の言うことぐらい聞きなさいよ」
あーでもないこーでもないと言いながら服を選んでは和哉に持たせる雪菜。
服の値段に困惑する和哉。
「5000円、6500円、7500円……服ってそんなに高いのか……」
「女の子の服はそんなもんじゃないからね、
あんたにはこれ全部買ってほしいけど最低でも1セット買って貰うわよ。予算はいくら?」
「今、12000円持ってる……」
「ええ、それだけしかないの?」
「ああ……」
「しょうがないなあ、じゃあ、あんたそのトレーナーに合わせたジーンズで決める、いいわね」
そう言って、ジーンズを差し出して、試着室で試着する。
足の丈があってないので補正して貰うことにして、購入することにした。
「次は、映画ね……」
「ああ、映画だ」
そう言って、和哉達が向かったのはアニメ映画だった。
なんかおっさんが転生して養女になって戦争する旨の内容だが、
その養女がとても凶悪で非常にやばい、という内容だった。
「描写がすげえヤバかったな、あの、敵国の殺した将校の娘が復讐に来るところとか、
マジで主人公、死ぬんじゃねーかって感じだったし」
「あのさあ、女の子をデート誘って選択する映画じゃないでしょ」
基本的に内容が血みどろの戦争映画だ。
到底ラブロマンスが発生しづらい。
そして、和哉は雪菜の反応を無視して、映画の感想をあれでもかこれでもかとまくし立てる。
「大体、転生チートとか異世界召喚ものとかテンプレとか言うけど
実際作ろうとすると結構大変なんだよ。
やってみたら一から異世界を想像するんだぜ。
現代の文化と異世界の文化の違いを描写するって、今の文化について知らないとわからないわけで、
そこにゲームなりファンタジーのエッセンスを入れるって、やってみると難しいんだよ」
「ふーん、そうなの」
和哉の異世界トークに適当に返事をする雪菜。
「どこまでやったらご都合で、ご都合だと思わせないようにどうするか
あいつらは基本何に困ってて、それでチート力でどうするか、
いや、チートじゃなくて主人公の創意工夫でどうにかするにしても、
結局、作者の知識がどれだけカバーできるかって話になるからやっぱり大変なんだよ。
なんだかんだ言って俺ってアホだからさあ……、難しいぜ……」
息が絶え絶えで、それでも早口でしゃべる和哉。鼻息まで激しい。
そんな、和哉に雪菜は答えた。
「それでも、あんたの情熱はすごいと思う。
何かを作るのに試行錯誤している和哉は、私は尊敬できる」
「お、おう……」
和哉は素直に答えた。
「最後にゲーセンだな」
和哉はそう答えると、無言でついてくる雪菜。
さっきの雪菜の台詞は非常に照れた和哉に、自分も照れてる雪菜。
正直、めちゃくちゃ、気まずい。
和哉はうわずった声で雪菜に言う。
「あー、えっと、クレーンゲームでぬいぐるみ渡すわ」
クレーンゲームを始める和哉。
500円を投入する。6プレイ。
全滅、500円投入、全滅。
500円投入、全滅。
500円投入。
「私がやるわよ」
雪菜にバトンタッチする和哉。
雪菜は3回ぐらいでくまのぬいぐるみをゲットした。
「ありがとう、和哉、大切にするね」
「これ、俺がとれれば良かったんだが」
「お金を出したのは和哉だから実質和哉からのプレゼントだよ」
「そうか……」
なにか納得いかない感じで雪菜を見る和哉。
「そろそろ、時間だし、帰ろうか」
雪菜は言う。
バスに乗る二人。
そして、疲れから眠る二人。
和哉の肩に頭をもたれかかる雪菜。
バスの心地いい揺れにうとうとする。
だが、それもやがて終わる。
「駅前、終点、駅前です」
終点のコールが鳴り、二人は起きる。
「ついたよ、降りよう」
「あ」
和哉は声を上げる。
「どうしたの?」
「すまん、金貸してくれないか、使いすぎてなくなった」
「ええ……」
雪菜は困惑し、そして、答える。
「いいよ、バス代は私が出してあげる」
「マジで、ありがてえ」
「いろいろ出して貰ったし、これぐらいいいわよ別に」
そう言ってバス代を出して貰う和哉。
二人はバスを降りた。
「今日はありがとう、それで、理想のヒロインは見つかった?」
雪菜は意地悪そうに和哉に問いかける。
「いや、見つかりそうになかったからまた探そうと思う」
「ふーん」
「だから、また、手伝ってくれると助かる。
多分今度は異世界ものだと思うけど」
和哉は考えて言った。
そして、雪菜に叫んだ。
「だから、また手伝ってくれよなー、頼むよー」
「んー、考えとく」
そう言って雪菜は帰っていった。
そして、和哉は思う。
「……こんな回りくどい手段じゃなくて、普通にデートに誘いたいんだけどな……」
ただ、この体験を小説にしようとも思った。
続き……
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