第九話 A級のダンジョン 限定モンスター
「な、なにこいつ……」
「俺も分からない」
「ガルグウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
雄叫びの圧だけで、吹き飛ばされそうになる。
「戦うしかなさそうだ」
背後の透明の壁はまた閉じられ、開かない。
俺はすぐに『キズナ』を発動させる。
「アオイ、気を付けろ。まずは攻撃の確認だ!」
アオイは無言で頷く。
額には冷や汗が垂れている。
「べルビアナも防御に専念。オトギリは攻撃を食らわないように自由に行動してくれ。他はアオイの後ろで待機だ」
敵は動かない。
真っ赤な瞳でこちらの様子を伺っている。
それを隙とみて、オトギリが敵の背中に吸い付くように攻撃をする。
しかし敵は早かった。
甲冑の装飾が揺れる音のみが響く。
オトギリを見もせずに横に軽く跳んでかわしたのだ。
身体は漆黒、たてがみは銀色に輝いている。
間違いなくボスクラスの敵のはずだ。
そこらの雑魚とも、中間ボスとも違う。
こいつは
「限定モンスター……」
俺は呟いた。
何かしらの条件を満たすと現れるモンスターがいる。
例えばフロアの全モンスターを倒すとか、魔法使いのみで挑むとか、そういった条件だ。
けれど、このビルプルデスの塔にまだ未発見の限定モンスターがいるというのは驚きだ。
皆、レベリングの為にここを周回しているのだから、俺達がそうしたように全モンスターを倒すことくらいはしているはずだ。
なのにどうして……。
考えていると、敵の攻撃が来る。
敵の両脇に赤い炎と黒い炎が巨大な大砲のように構える。
「グゥラアアア!!」
短い叫びと共に、それらがアオイの盾目掛けて飛んでくる。
「くっ……!」
アオイが正面から攻撃を受け止める。
しかし勢いは抑えきれず、数メートル程その状態のまま押された。
地面には彼女の盾と足を引きずった跡が残っている。
「大丈夫か!」
「ああ、だが見ての通りこいつは強い。オーバーヒールを使ってもいいかもしれない。情報に聞くボスよりも手強いかも知れんぞ」
確かにその通りかもしれない。
ビルプルデスの塔のボスは、そりゃあ強いが、どの攻撃も雑魚と同様、受け止められる程だと聞く。キズナのバフを受けたアオイが受け止めきれないはずがない。
それに最悪、ボスに行かずに引き返せばいいだけだ。
「ファラ。出番だ」
「任せてください!」
ファラは杖を構える。
「メイ・ゼ・ヒール!!」
彼女の持つ最大回復量の呪文だ。
皆に、またバフが掛けられる。
最初に行動を起こしたのはやはりオトギリだ。
敵の真正面から顔面に刃を向ける。
速度は先程と同じ程度。
つまり、ギリギリ俺の目で追えるか追えないか程度。
敵はしかし余裕そうに口を開ける。
牙が露出し、そこに黒い炎を宿す。
「オトギリ!」
しかし彼女は、笑っていた。
次の瞬間、彼女は消えた。
敵は咄嗟に背後を見る。
だが遅い。
オトギリは敵の首に刃を立てていた。
ブートビート・チャメレオンの時と同じようにくるっと回ろうと足をあげ、重心を動かす。
けれどそれは出来ない。
敵の全身を覆うように赤と黒の炎の螺旋が生じたのだ。
オトギリはすぐさま立ち退く。
段々とそれは狭まり、最終的には獅子の全身を包んだ。
「どうなってるんだ……」
俺の疑問に答えるように、その炎が弾けた。
その中から、炎の装甲を纏った獅子が現れた。
銀色の美しかったたてがみは赤く光りマグマのようだ。
「第二ラウンドか?」
「フガルグルウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
怒りに身を任せたような咆哮だ。
「ガイア・テンペスト!」
先手必勝というように、べルビアナがさけぶ。
しかし敵はそこにはいない。
気づいた瞬間、俺は宙に浮いていた。
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