第八話 A級のダンジョン 一階の敵達
「避けろ!!」
その声を聞いて俺達はすぐさま回避行動を取った。
俺は跳躍系スキルで回避した。
するとすぐ右横に、矢が刺さっている。
ブートビート・チャメレオンの攻撃だ。
それも、一体じゃない。
「囲まれている……」
仲間全員に対してそれぞれ別の攻撃がなされている。
少なくとも六体はいるという訳だ。
透明だから、分からない。
「私がやる」
べルビアナが口角を少し上げる。
「クルクマ、全員落として」
短くそういった。
「落とすだけで良いんですね?」
コクっと頷く。
「分かりました。だったらこれを、イハム・パラライザ!!」
クルクマを中心に電撃のようなものが壁を高速で這う。
鳴き声は聞こえない。
だが、重い塊が幾つも地面に落ちる音を聞き逃すはずはなかった。
べルビアナが左足を前に出す。
青紫色のカールの入った髪がふわっと浮くほど強い一歩だ。
「……ガイア・テンペスト」
声とは裏腹に、その身の丈程もある大剣を一周振るう。
「逃げる」
「え?」
べルビアナが一目散に路に引き返す。
いやーな音がする。
下と、上から。
「逃げるぞおおおおおおお!」
叫び、皆と通路へ退避する。
直後、床が割れ、天井から雨のようにクリスタルが降り注ぐ。
モンスターの悲鳴が聞こえた。
「お、おまえいつの間に『ガイア・テンペスト』なんて……」
ガイア・テンペストは大剣系のスキルでは最高峰のものだ。
本来であれば、その一撃を敵に当てて倒すのであるが、今回はダンジョンそのものがもたなかったらしい。
言い換えると、それほどのスキルのはずなのだ。
ちなみにダンジョンは自動的に復元するから、器物破損で弁償することにはなりません。
「だいぶ前に取った」
「だいぶ前?」
コクっと頷く。
「なんで言ってくれなかったんだ?」アオイが聞く。
「言った。でも信じなかったでしょ?」
あーーー。そういえば、言われた気がするー。
いやだって、俺と同じでまだ1000レベルにも満たない奴が、そんな最上位スキル持ってるなんて、冗談だと思うじゃん? 強すぎでしょだって。
「それは、すまなかった」
アオイにも思い当たる節があるようで、あたまをかいている。
最上位スキルのガイア・テンペストに俺の『キズナ』によるバフ。
そりゃあA級ダンジョンも壊れるよなあ。
これでファラのオーバーヒールまで使ったらどうなるんだよ。
オーバーヒールは、保険としてボスまで取っておくことにしている。
「ねえ、もしかして私達って、超強い?」
「俺もそう思い始めた」
「す、凄いです。ツバキのユニークスキル!」
コクっ。
「肯定する」
「皆さん、お強くてびっくりです!」
ファラが顔を輝かせる。
「お前もボス戦では頑張ってもらうからな」
「はい!!」
俺達はそれからその階をかたっぱしに調べた。
残す最後の部屋にくるまでに幾度も戦闘になったが、皆恐怖はなくなり、ウキウキで楽しんでいた。
「一階の最後は、ここか」
ビルプルデスの塔は三階までしかない。
ダンジョンの階数と難易度には関係がない。
簡単でも百階まである場所もあれば、難易度が高くても一階だけというのもある。
「どうしましょう?」
クルクマが皆に聞く。
というのもその場所は明らかに異質だった。
その部屋だけが光を失ったように暗い。
透明の壁があるため、中に光を入れることが出来ない。
だが確実にモンスターがいる気配はする。
立ち止まって皆で出現モンスターのリストを確認する。
「一階は、『ブートビート・チャメレオン』、『デザート・リー・スカル』、『闇色騎士』っと」
全て道中に倒した敵だ。
ブートビート・チャメレオン以外の敵は数秒もかからずに倒せてしまう程だった。
「じゃあ、ここにいるのもそのうちの誰かでしょうか?」ファラが言う。
「さて、その全員かもしれないな」アオイが笑う。
「入れば分かる。ここまで来て、行かない手はないだろう?」
聞けば皆が自信をもって頷く。
「じゃあ、入るぞ」
目に見えない壁に触れると、割れるように消える。
身体が凍り付きそうな殺気を感じる。
俺は、光の呪文を中に向かって唱える。
暗かった部屋に、光が灯る。
そこには鎧を着た獅子のような魔物がいた。
ビルプルデスの塔の攻略情報には書かれていない敵だった。
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