第七話 A級のダンジョン
色々とあったが、遂にビルプルデスの塔に入ることになった。
目の前にある扉は固く閉ざされている。
それはどのダンジョンでも見る光景だ。
けれどもいつもよりも、その奥が恐ろしく感じられた。
「行こう」
一歩を踏み出すのはやはり俺の役割だろう。
扉の前に立つ。
すると扉が重たそうにギーッと音を立てて開いた。
唾を呑み込み、中に入る。
全員がダンジョンに一歩踏み入れた瞬間に、扉が閉まった。
この扉からはもう出ることは出来ない。もしもヤバくなったときは、高価な転移ポーションを使うしかない。普通の転移スキルではダンジョンからは出ることが出来ないのだ。
「ゆっくり進もう。初めてのダンジョンだから探索しつつ、慎重に」
全員が無言でうなずく。
俺は胸の内ポケットから白紙の地図を取り出す。
それは少し光ると、今いる場所だけをマッピングした。
地図は歩いた場所を正確に記録するのだ。
辺りはクリスタルのような鉱物で覆われている。
それに俺達の姿が反射する。
その上、歩く音をもダンジョン内に反射させる。
敵に遭遇することのないまま、道が二手に分かれた。
「まずは左側から探索しよう」
左へ曲がり少し行くと、かなり広い場所に出た。
けれどもそこに、モンスターはいない。
そこに一歩踏みいれる。
すると背後から攻撃が仕掛けられた。
だが、俺達はそれを知っていた。
『キズナ』は既に使っている。
ぺルビアナとアオイが俺達の背後へ回る。
べルビアナは剣を、アオイは盾を構える。
鉄工場で金属と金属がぶつかるような激しい音が鳴った。
盾に何かが当たったのだ。
そうしてそれが透明だったそれが見える。
それは鉱物が細く固まったような非人工物の矢。
攻撃を仕掛けてきた敵も透明だ。
しかしこのダンジョンについてはさすがに調べている。
ここに出現する厄介なモンスターのうちの一体。
『ブートビート・チャメレオン』
身体を透明にすることが出来る魔物であり、攻撃は体内で生成した金属の矢。
それは透明で威力も高い。
その上、近距離戦に持ち込めば長い舌で引っ張られ、その強靭な顎で砕かれ即死だ。
「クルクマ、頼む!」
「はい! フィードメル・エタ・フィーリア!!!」
攻撃の来た方向に向けて、呪文を唱える。
するとそこに緑色の炎が向かい、はじける。
「ぐぅるおおおおおおおおおおおお!!」
モンスターが悲鳴を上げて姿を見せる。
高さは三メートル程、全長は十メートル程もある。
知ってはいても、これが雑魚モンスターとして出てくるというのは死の恐怖を感じずにはいられない。
けれどそんな敵が今、俺の仲間の攻撃をくらっている!
「オトギリ、とどめだ!」
オトギリは聞くより早く、跳躍。
敵の元へと軌道も描かず一直線だ。
いつの間にか取り出した短剣を敵の首に突き刺す。
本来なら、その装甲に突き刺せるはずもないが、『キズナ』の力でそれが出来ている。
そうしてそこを皮切りに、くるっと首を軸に回る。
まるで踊っているようだ。
『殺風』のアサシン達は踊るように殺すと言われているが、今、それが分かった。
敵の頭部がズドンと音を立てて床に落ちる。
オトギリは優秀なアサシンだ。
それこそ『殺風』には入れていたかもしれない程に。
クルクマの魔法も一級品だ。アオイもタンクとしての勇気と反射力はぴか一だ。べルビアナの近距離戦闘能力も卓越している。ファラだって、このレベルできちんとした回復スキルが使えるなんて、そういるもんじゃない。
ユニークスキルさえ、あればみんな。
考えていると、アオイとオトギリが嬉しそうに死体の前でぴょんぴょん跳ねている。
クルクマとべルビアナとファラはなるべくそれを見ないように努めている。
「こりゃあ凄い、売ったらいくらになるかな?」
アオイがチャメレオンの死体を漁る。青黒い血が身体に付くのを気にしていないようだ。
もうちょっと女の子なんだから気にしろよ。
その隣でオトギリがちょっとひくついている内臓を持ってニヤッと笑っている。
上位モンスターの内臓はアサシンのスキル強化素材に使用される。
だから気持ちは分かるが、ちょっと控えた方が良いと思うよ?
「避けろ!!」
突然、オトギリが叫んだ。
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