第五話 S級ギルドの強者たち
ビルプルデスの塔には見たことのある顔が幾つもあった。
それは別に、顔見知りであるというわけではない。
彼らを見たのは新聞や雑誌、あるいはギルド連盟でだ。
A級のギルドともなれば、この世界に多大な貢献をしている。
これらの塔が現れて数百年間、人間は数えられない程魔物に殺された。
ダンジョンに挑まなくとも殺される。
塔の周りにはモンスターの巣が生成されるからだ。
しかし攻略された塔の周りにはそれが生成されない。
故に強い冒険者というのは文字通りの勇者であり、尊敬される存在だ。
俺を目の敵にするカラサもA級ランクのギルドマスターだ。
その強さは確かに本物だ。だからこそ、あんな暴挙がまかり通る。
「あ、あれってS級ギルド『閃輝暗点』のマイン・レインさんじゃない!?」
そちらを見ると、苦しそうに右手で頭を抱えた赤い綺麗な髪を肩まで伸ばした美男子が立って居る。
「ああ、マイン様の『ヘッドエイク』を生で見れるなんて……」
アオイが恍惚とした目線を送る。
「あれは……!!」 オトギリが目を見開く。
目線の先には紺色のマントで顔を死神のお面で覆った人たちがいた。
S級ギルド『殺風』のメンバーだ。
アサシンのみで構成された異常なギルドであるが、そのアンバランスを気にもさせない強さを誇る。
「こんなかに、俺達も行くのか……」
「おい、てめえらなんでこんなとこにいる?」
背後から声を掛けられる。
「カラサ……」
仲間をつれて、カラサがやって来た。
「ここは俺達のような上級者がレベリングする場所だ。それともあれか。ユニークスキルが出ることを来世に願って自殺しにきたのか?」
カラサの仲間が笑う。
嫌な奴らだ。
でも今は少し、余裕があった。
「見学だよ見学」
「ふは! お前もミーハーだな。そういうのはな、冒険者にならなかった一般人がすることなんだよ! ああそういうことか!」
合点がいったように手を叩く。
「つまりお前も冒険者引退って訳か!」
汚い声で笑う。
「そりゃあそんなゴミばかり集めてりゃあ当然だ。次はゴミ回収の仕事にでもつくのか?」
ファラを見下ろしながら言う。
「お前いい加減に……!」
俺が言われる分にはどうでもよかった。
でも、仲間が傷つけられるのは嫌だった。
久しぶりにカラサの胸ぐらをつかんだ。
少し前はよくやっていたことだ。
「へえ、やるのか? ツバキ」
「君達、騒がしいぞ」
二人の横にいつの間にか女が立って居る。
彼女はクリーム色の髪を後ろで編んでいる。腰には剣を携えている。
「エ、エギルさん!」
エギル・スカラグーム
最強ギルドとの呼び声も高いS級ギルド『フィンブルの冬』の二番手だ。
ギルドには300人以上も所属しており、どんなに弱くともAランク程度である。
その中から選ばれた十人のエース部隊。
そんなエリート部隊の副長が彼女だ。
そんな人に対してはカラサも腰が低い。
「スノラ様が間もなくやって来る。その前で貴様らの下らんやり取りを見せるつもりか!」
スノラ・ストゥルルソン。
最強ギルドのトップ。
フィンブルの冬のリーダーだ。
「ど、どうしてあなた方がわざわざこんな場所に……」
フィンブルの冬はいつも『ディーラックの塔』でレベリングしていることで有名だ。
そこはS級の人達ですら本腰を入れなければ死んでしまうようなダンジョンだ。
「私達がわざわざレベルを上げにこんなとこに来たと思っているのか?」
あざけるように一笑する。
それから睨むように、あるいは選別するようにツバキを見た。
「ツバキ・ルードレッドだな?」
とっさに呼ばれたことに、うろたえ頷くことしかできなかった。
「私達はお前の力を確認しに来た。おまえのその『キズナ』というユニークスキルをな」