間話 主人公の過去
冒険者になりたいというのはみんなの夢だ。
子どもは口をそろえてそう言う。
世界を救う勇者になれる。
それはとってもカッコいい。
親が冒険者なら、なおさら強く思う。
俺の両親は冒険者だった。
父はA級ギルドのマスターで、母はそこのメンバーだった。
俺もいつかはそこに入る。
ずーっとそう言ってきた。
二人共優れたユニークスキルで幾つものダンジョンをクリアしてきた。
アオイの両親もうちのギルドのメンバーだった。
ある時、未踏破のダンジョン『さざ波のハレスタ』を攻略して欲しいという要請が国から出された。
どうやらそのダンジョンの魔物が突然活発になり、周辺の街をほとんど崩壊させてしまったらしい。
それを食い止めるための要請だ。
選出されたギルドの中には両親のものもあった。
二人は選ばれたことに喜んだし、俺もうれしかった。
だって、優れたギルドであることが大々的に認められたということだからだ。
名を連ねる他のギルドも有名な所ばかりだ。
その時、唯一のS級ギルドであった、『フィンブルの夜』も入っていた。
一ヶ月以上の準備と共に、総勢1000人もの冒険者が『さざ波のハレスタ』に挑戦した。
両親は三日間、帰ってこなかった。
大規模な作戦ではそれは当然のことだ。
両親がいなくなって四日目のことだ。
小学校で授業を受けていた俺は、急に校長から呼び出された。
部屋に入ると、校長のほかに、国の人と思われる制服を着た人が二人いた。
その会話を、今でもはっきり覚えている。
「ツバキ君。『さざ波のハレスタ』が攻略されたようだ」
俺は顔を輝かせた。
子どもの俺は、大人の顔色なんて分からない。
俯いて、重そうな唇を動かしているなんて分かるはずがない。
「それで、その、残念なことだが、生きて戻ったのは、わずか二名だ」
「じゃあそれが父さんと母さんだ! 凄い、やっぱり、凄いや!」
その二人が両親であるなんて、低い確率だ。
だが子供の俺はどうしてかそれを確信していた。
二人が死んでいる。もう会えないなんて考えるはずもない。
国の人が、首をゆっくり横に振った。
「そんな、そんなの嘘だよ! 父さんと母さんが死ぬはずがない!!」
大人たちは何も言わなかった。
「そんな……」
いくら子供でも、その沈黙を悟った。
涙は出なかった。
それがまだ受け入れることが出来なかったからだ。
思考することが出来なかった。
身体だけを動かし、廊下に出る。
そこにはアオイがいた。
「あなたも泣いてないのね」
「まだよく、分かってないんだ」
「そ。私と同じね」
初めて涙を流したのは、その日の晩だった。
死体はない。全てダンジョンに残されたまま。
だから葬儀の意味もないように思えた。
ちなみに生き残った二人は公表されなかった。
俺はそれから祖父母に育てられた。
おかげですっかり大きくなった。
高校を卒業する頃には冒険者になりたいとはあまり思わなくなっていた。
十七歳の誕生日。
俺は、『さざ波のハレスタ』の近くへ行った。
高かったが転移のポーションを買って、その地に赴いた。
クリアされても、敵はいる。
ダンジョンの中には入れない。
そこは沿岸だった。
人が入れないように網が貼られている。
そこから覗くように見る。
白い砂浜に透き通った海。
こんなところに敵がいるとは思えない程だった。
海の中央。
そこに島がある。
それが『さざ波のハレスタ』だ。
日の暮れるまでそこを見ていた。
両親はあそこで死んだ。
もう、骨は自然に帰っただろう。
綺麗な所で、少し安心した。
泥沼とかだったら、最悪だもんね。
俺は夜までそこにいた。
金網越しに、ただ見ているだけ。
しかしあっという間だった。
帰ろう。そう思ったのは、暗くなって何も見えなくなり始めたからだった。
「トルメグアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
突然、低い叫び声が聞こえた。
かなり遠い。
海の方から聞こえるものだ。
それは巨大な魚だった。
全長が二十メートルはありそうな巨躯。
しかし海の中にいるわけではない。
それは空を飛んでいる。
海の上を、泳いでいる。
遠い。
俺はそれを見ていた。
そのうちに、目があった気がした。
そいつはこちらに向かって泳ぎ始めた。
凄い早さだ。
俺は恐ろしくなって、転移のポーションを飲もうとした。
一層、暗くなった。
影が落とされたのだ。
敵が真上に来ていた。
俺はぽかんと上を見る。
大きな口を開けたそれが、こちらへ走ってくる。
死ぬ。
そう感じた時に、何か小さな影が頭上を通った。
直後、血の雨が俺に降りかかった。
敵は真っ二つに切れて、地面に落ちた。
「すまない。服をよごしてしまった」
男は五十くらいの老人。白と紺の着物を着ている。
血の付いた刀を持っていることからも分かる。彼が助けてくれたのだ。
体長よりも長い刀。二メートルはあるだろうそれを、なれた手つき鞘に納める。
「あ、ありがとうございます」
「いいってことよ」
「冒険者の方ですか?」
「似たようなものさ。墓参りかい?」
男は優しく語り掛けた。
「どうして?」
「今時ここに来る奴はほとんどそうだ。あの時に家族を失った連中だ」
男は遠くを見つめる。
「さっさと帰った方が良い。魔物は基本的にこちら側にはこないが、人を見つければ襲ってくる」
「あ、あなたのお名前は?」
「名乗る程でもないが、聞かなきゃ帰らなそうだ。ササキ、それが俺の名だ」
「ありがとうございます。ササキさん!」
「いいのいいの。さあ早くそれを飲みな」
俺はその顔を一生忘れない。
彼の姿を見て、久しく忘れていたカッコいいという感情が湧いて出た。
ああなりたい。
そう思ったのだ。
誰かを守れる程の強さ。
今度は自分が誰かを助けたい。
そうして俺は冒険者になった。
本作を読んでいただきありがとうございます!!
・ブックマーク
・評価の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」
をして頂けると、とても嬉しいです。
ランキング一位目指しているので、ご協力お願いします!!
なにとぞ!!




