第二話 新たな仲間と絆
「ほら、どいたどいた。それとも、最後までやってくれるのか?」
カラサ達はまた一段と大きく笑った。
「ちょっと待ってください。それは何でも……」
さすがに、俺も抵抗した。たしかにクエストは誰が達成したかなんてわからない。今回で言えば、バーンドスライムがいなくなったということだけを確認されて終わりだ。
けれど、そんな汚いことをする連中は少ない。だが悲しいことに、今目の前にいるのはその少ない連中の一つだった。
「何か言いたいことがあるのか? いいんだぜ。クエストじゃあないけど、お前を討伐したってな。もしかしたら、ギルドから金が貰えるかもしれねえしな」
そう言ってまた笑った。
俺はまた何も言い返せない。それが酷く悔しい。
そんな情けない俺を見かねてか、クルクマが袖を引っ張る。
「行きましょう」
俺達はそのまま洞窟の出口へ向かって歩いた。
去り際、怯えた顔をした白髪の少女がいることに気が付いた。
「そうそう、それでいいんだ。おまえらみたいななーんの才能もないクズは、俺らの言うことを聞いてりゃいいの」
洞窟内に笑いが響くのを背後に聞いた。
「そんなに落ち込まないの。いつものことでしょ? まあ今日はちょっと、運が悪かったわね」
アオイもそう言って頷いてくれた。
「ごめん、俺が弱いばっかりに」
「それは言いっこなしの約束でしょ。それを言ったら私達だって同じヴォイドだし。それに……。私達、あなたがいなければとっくに冒険者を諦めていたもの」
全員が大きく頷く。
「……ありがとう」
振り絞るように声を出した。
まだ時間も早かったので、俺達は次のクエストを捜すべくギルド連盟に行った。
この街は王都であるため、数千のギルドが存在する。
それら全てを取りまとめた言わば総本山がギルド連盟、通称『ツイン・ガー・マウント』。
その意味や誰が呼び始めたのかは知らないが、入り口にでかでかと書いてあるからそうなのだろう。
「これなんかどうだ。ザラーの宝物。ライド・レイの塔なら一度行ったこともあるし、安心だろ?」
「こっちも面白そうよ。ジャータイガー討伐。倒せばその場でジャータイガーのお肉食べ放題」
「お前腹減ってるだけだろ」
段々と先程の陰鬱な心も晴れてきて、いつも通りに楽しく騒いでいると、
「随分と楽しそうだな」
また、カラサだ。今日はもういい加減その顔を見たくはない。
けれども奴らここにいるってことは、少ないとは言えあのスライム達を数秒程度で片づけたことになる。
腐ってもA級だ。
「ほれ、このクエスト、終わらせてきたぜ」
何の悪びれもなく、クエスト終了の申請をする。
「それとこれ」
「待ってください!!」
見ると、先程いた白髪の少女だった。
「言っただろうが! このクエストが終わってもまだユニークスキルが目覚めないならお前をこのギルドから追放するって」
「お願いします! もう少し、もう少しだけ時間をください、お願いします!」
「ダメだダメ。うちに入って一ヶ月以内にユニークスキルを使えるようにならない奴は追放だ」
この追放制度を取り入れているのはカラサ達だけではない。他のギルドも似たようなものだった。
そもそもユニークスキルが目覚めている奴は、その強さによって判断できる。
だがそれは同時に、強いユニークスキルはSランク、SSランクのギルドに取られてしまうことを意味する。
それを避けるためにAからF級のギルドは最初からヴォイドを囲っておくのだ。在籍期間の間にユニークスキルに目覚めれば良し。目覚めなければ追放、つまり捨てればいいだけ。
一ヶ月もクエストをしていて目覚めないのならばほぼ不可能なやり方なのだと割り切られる。
そうして追放されてしまう少女が、今目の前に居る。
「ねえ、もしよかったら、うちに来ない?」
「え……?」
「君が努力を惜しまない人なら、うちは歓迎するよ」
「でも私、ユニークスキルがなくて」
「構わない。うちのメンバー全員がヴォイドだ」
「ハハハッ!! こりゃいいぜ。おまえんとこ、いよいよゴミ捨て場だなあ! こいつはなあ、ユニークスキルがないだけじゃなくて、魔法使いのくせに全然魔力もねえんだぜ。回復スキル使うだけで手一杯になってやがるんだ!」
カラサは笑うが、俺は重要なことを聞いた気がした。
「なんだって、君、ヒーラーなの!」
「……はい、でも、魔力が少ないっていうのは本当なんです」
「全然構わないよ! 魔力なんてレベルを上げればいくらでも増える。それより君がヒーラーだってことの方が全然重要だ!」
俺は仲間に目配せをする。一人被り物のせいでよく分からないけど、多分みんな同じ意見だ。
「決まりだ。君は今日から俺達の仲間だ!!」
同じ魔法使いであるクルクマが優しく微笑みかける。
「またゴミが増えたな。これ以上増えると生臭くてかなわねえな、しっしっ、あっち行きやがれ」
カラサが少しイラついているのが分かった。
「さあ、それじゃあ君の名前を教えて。善は急げだ!」
「はい、私はファラ・サーザルと申します。こんな私を拾って頂き、ありがとうございます!!」
「よろしくね、ファラ」
皆が自己紹介を終え、受付に向かう。
ギルドへの加入は個人の冒険者戸籍の移動が必要なため、逐一ギルド連盟に書類を出さなければならない。
ファラがそれを書き終え、受付のお姉さんのところまで持っていく。
「ファラ・サーザル様。ギルド『トラウム』への加入で間違いはありませんか?」
「はい!」
「では……」
お姉さんがスタンプを振り上げ、承認の欄に押した。
その瞬間、全身が熱くなるような感覚を得た。
それは、新たなスキルを得た時と同じ感覚。
いやそれよりも何十倍も何百倍もずっと強く、濃い。
まさか、まさかそんな……。
俺は反対側にあるステータス確認所へ駆ける。
そこには開いた本がある。
人はいない。
深呼吸をする。
もしも、もしもそうなら……。
そっと、手をかざす。
本は青白く光り、白紙に文字を作り出す。
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ツバキ・ルードレッド 18歳 男 レベル:781
HP:3801 MP:700/700
攻撃力 : 330
防御力 : 300
魔法攻撃力:340
魔法防御力:300
俊敏性 : 180
魔 力 : 300
スキル : バルド・シャンデリー
ギルパーミンド
ファイア・ジュラ―ド
メーゼ・ド・ラダ
ギョルトサッパード
エヌブレイム
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ユニークスキル : キズナ
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俺は信じられない光景に、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
本作を読んでいただきありがとうございます!!
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