第十一話 A級のダンジョン ようやく主人公っぽく。
名もなき獅子を倒した俺達に敵はなかった。
すんなりと最上階まで到達し、今ボス部屋の前にいる。
「今言うことじゃないけど、あの獅子に名前つける権利、俺達にあるよな。どうしよう、フレイムタイガーとか?」
「絶望的にセンスがないわね」
「赤黒炎の獅子」
「それいい! べルビアナ、お前センスあるな」
「何でもいいから早くいきましょう。オトギリ行っちゃったわよ」
扉を一人で開けるオトギリに慌てて追いつく。
中はクリスタルの広い空洞。
中央には全身をクリスタルで覆った四足歩行の竜がいた。
翼までしっかりとクリスタルで覆っており、皮膚はまったく見えない。
唯一見えるのは黄色の瞳だけ。
攻略情報によると、名前は『クリシューナル・ドラゴン』。
敵の顔を集中的に攻撃し、クリスタルを破壊することが重要。
こいつはそこらのクリスタルの何倍もの硬度があるらしい。
「リクリデゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
敵の咆哮。戦いが始まる。
「顔を重点的に狙うんだ!」
聞くより早く、オトギリが攻撃を仕掛ける。
こいつは気が早すぎる。
「ファラ、出し惜しみなくじゃんじゃん使ってくれ!」
「はい! メイ・ゼ・ヒール!!」
オーバーヒールを受けて、オトギリが敵の鼻部分に短剣を突き立てる。
だが刺さらない。
さすがの強度だ。
攻撃を受け、敵の反撃。
身体中のクリスタルがメキメキと音を立てながら成長。
鋭いそれを雄叫びと共に飛ばす。
しかしそれも知っている。
アオイが俺達の前でしっかりとガードする。
べルビアナが一歩出る。
ガイア・テンペストの構えだ。
しかし彼女の敵意を感じ取ったのか、すぐさま別の攻撃だ。
べルビアナの立つ地面からクリスタルが生える。
跳躍しても間に合わない。
けれどもギリギリのところでオトギリに救われた。
ガイア・テンペストは強力だが、隙が大きすぎるのが欠点だ。
「メーゼ・ド・ラダ!」
試しに俺は攻撃を試みる。
先ほどはクリスタルを溶かすことが出来た。
敵の皮膚にそれが当たる。しかしただ少し濡れた程度でびくともしない。
だったら、試しますか。
俺は左手を構える。
先ほどよりも大きな赤い炎の球が形成される。
「これで、どうだ!」
勢いよく、それが敵へ飛ぶ。
敵はそれを尻尾で弾こうとする。
尻尾に、炎の球がぶつかる。
「リケルデルゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
それは、敵の装甲、どころか尻尾自体を燃やした。
しかし敵はトカゲのように尻尾を切り落とした。
「もう一発!」
俺は構えて、追撃を放つ。
しかし敵の警戒はすさまじい。自身の前にクリスタルの壁を作り、炎を防いだ。
「みんな、協力してくれ!」
「断る」
「ええ……」
オトギリが楽しそうに敵の周りをぐるぐる回って攻撃を続ける。
「もしかしてこのチームって結束力とかない?」
「今更気づいたの? まあ、あの隠密バカは置いといて、なにするの?」
「敵の気を引き、その間に俺が攻撃する。そういう意味だとあいつは、もう仕事してるわけだけど」
敵からすればコバエが飛んでいるような鬱陶しさだろう。
「クルクマ、赤い炎を出してくれ。威力はどうでもいい。あいつが気に留めればいい。ファラ、恥ずかしながらもう魔力がない。この能力けっこう魔力使うみたい。だから魔力の余りを分けてくれ。アオイ、とにかく守れ」
「分かりやすいオーダーどうも」
黒の炎を顔面にお見舞いしてやれば、奴は必ず倒れる。しかし警戒されてはそれが出来ない。
「頼んだぞ」
ファラの手を握り、共に準備を進める。
クルクマが炎を繰り出す。
敵はそれを視認した瞬間にクリスタルの壁を造る。
その隙に、多分気を散らすとか一切そんなつもりはないんだろうけど、オトギリが敵の後頭部に飛び蹴りを入れる。
「いくぞ、ファラ」
「はい!」
そういえば、名前考えてなかった。
どうしよう。時間ない。
「ええと……これでいいや。邪竜炎殺黒炎弾!!!」
なんか聞いたことあるけどまあいいか。
オトギリに気を取られている敵の横に現れ、俺はそれを顔面に向けて放った。
「リケエルデルゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
黒い炎は顔だけに留まらず、全身に拡がっていった。
それは燃え移るというよりは伝染。
ウイルスが映るように身体中を黒くむしばむ。
しかしすぐにそれらは見えなくなる。
音が消える。
直後、敵の内部から黒い炎が出現したちまち食らいつくすように身体を覆う。
そうして塵も残らず、消えていった。
「なんというか、ショッキングな技ね、それ」
「同感だな。まあ、クリアはクリアだ。このクリスタルの王者を俺達が倒したんだぜ!」
「クリスタル、王者」べルビアナがぼそっと言う。
「ちょっとそれ以上言わないように」
「ねえ、下らないやり取りしてないで。クリア報酬貰いましょ」
ボスのいた位置に、また宝箱がある。
先ほどの限定ボスもふくめ、ボス系の敵の死体はすぐに消え、代わりに宝箱をドロップする。
雑魚敵もたまに宝箱をドロップするが、確率はかなり低い。
宝箱は灰色主体で、竜の装飾がされている。
その中身は知っていた。
初回のそれは
「か、かわいいいいいいいいい!!」
クリスタルの鎧。
それも女性用の。
「これ、私が貰ってもいいわよね!?」
アオイがさけぶ。
群青色の布生地がメイン。肩と胸の位置にはクリスタルで覆われている。
「着るの楽しみー。さっさと出ましょうか」
それを持ち、スキップしながら出口へ向かった。
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