第一話 無能力者への蔑み
「邪魔だ。そこをどけ!」
俺達は、ただ食事をとっていただけだった。
冒険者の食事処『ベルファ』のすみっこでパーティメンバーと身を寄せ合って、なるべく目立たないように。
だがそれでも彼らにとっては邪魔らしい。
「最弱のツバキ、うっとうしいからどっか行け。お仲間の無能どもを連れて、ほらいったいった」
でかい図体で身体のあちこちにタトゥーを入れた男、カラサだ。こいつはA級ギルド『デス・エンゲ―ジ』のリーダーだ。
俺は小さく「行こうか」と言って、その場を離れた。
そりゃあ最初のうちは色々と抵抗をしたものだ。けれど何をしたって事態を悪化させることに気が付いた。
カラサの言ったことは一部正しい。つまり、俺を含めるこのパーティー五人は無能の集団であるということだ。
この世界ではユニークスキルが存在する。発現する条件は人それぞれで、例えばガーラードラゴンを倒すとか、ダグマ鉱石を5つ拾うとかである。
文字通りのユニークなのだから、誰もその方法をしらない。だから例え、最強のチートスキルの才能があっても、死んでも発現しないということがあるのだ。
そういった無能力者を『ヴォイド』と呼ぶ。だがそんなご立派な名前で呼んでくれる人間はいない。大体は、無能だの、クズだの、人それぞれの罵倒で呼ぶ。
そうして俺も仲間も全員そのヴォイドなのだ。
自分がそうだから、同情してヴォイドを仲間にはしたわけじゃない。
ヴォイドの中には努力を止め、冒険者という夢の職業を手放す人間が大勢いる。
しかし俺の仲間は違う。みんなヴォイドだが、毎日モンスターの巣へ行ってはレベル上げをしている。
いつか何かがきっかけで、ユニークスキルに目覚める。俺達はその希望、夢をもっている。
『トラウム』意味は夢。これが俺達のギルドの名前だ。
「ほらほら、早くおうちに帰りなさい、そんでもってママとおねんねしなさいね。夢想者さん?」
男達はけらけらと笑った。
「今日はバーンドスライムの巣へ行こうか。全滅させたら1000ベルドもらえるぞ」
「いいですね! ツバキはバーンドスライムを狩りに行ったことはあるんですか?」
ウキウキに応じたのは桃色の髪をみじかく伸ばした魔法使い、クルクマである。
彼女は人一倍優しく、それが故に他人にあまり強くは言えない女の子だった。だからどこのギルドに入ってもすぐにやめさせられ、うちに来た。
ずーっとツバキさん、と慕ってくれていたが、俺は仲間にさんをつけられるのが好きではなかったため、直してもらった。
「いやないな。クルクマはあるの?」
「一度だけ偶然。それでですね! その一匹のバーンドスライムを倒して手に入れた『バーンドスライムの欠片』がちょー美味しいんですよ!」
「スライムは絶品ッていうものね。ヤバい、私もうおなかすいてきた」
そういったのは薄紅色の髪のロングの少女、アオイである。
彼女は甲冑を身に纏う戦士である。
「ぺルビアナもそれでいいかい?」
青紫色の髪の小さな少女がコクっと頷く。
彼女は見た目にはそぐわないが剣士である。だが実力はしっかりとある。
「お前もいいか、オトギリ」
「許す」
最後に声を掛けたのはアサシンのオトギリ。
こいつはそもそも男か女かも分からない。というのもこいつは四六時中かわいらしい竜のかぶりものをしているのだ。
顔はそれですっぽり覆ってしまい、服装はだぼだぼの白いTシャツに紺色のズボン。その上からさらに黒いマントを着てしまっているため、その身体的特徴が捉えられない。
正直言って悪目立ちするからやめて欲しい。
全員の許可がでたため、俺達はバーンドスライムの巣へ向かった。
この世界にはダンジョンと呼ばれる高い塔が幾つもある。
それらは今から数百年以上前に突然現れた。けれどもまだ半分も攻略出来てはいない。
またそれに伴い、魔物が出現するようになった。魔物はダンジョン以外にも現れた。
俺達が行こうとしているのは、その魔物の巣である。
正直言うと、敵が分かっている分ダンジョンへもぐるより簡単だ。
転移魔法で、巣の近くのダンジョンまで移動する。そこから歩いて数分の洞窟がバーンドスライムの巣であった。
「うわこりゃ結構いるなあ」
目の前で赤い液体が固まったようなスライムが火を噴いている。
「任せろツバキ。こんなのは朝飯前だ」
戦士であるアオイが我先にと突っ込んでいく。
剣士であるぺルビアナもそれに続く。
「援護射撃は任せてください!」
魔法使いのクルクマは呪文で攻撃をする。
「……」
オトギリはいつの間にかスライムをもう五体も倒していた。
そうして残った俺は皆を回復するヒーラー。
といっても本職は魔法剣士。誰も回復魔法を持っていないから代わりにやっている。
クルクマは魔法使いではあるが、攻撃型のため、回復魔法はない。
俺達はそれから十五分近く戦闘をしていた。
「あと少しか!」
無限とも思えたスライムの大群もあと少しとなった。
けれどちょうどその時、
「あれぇ。先客か? っておいおい、おねんねしろって聞こえなかったのか? それともあれか。俺達の代わりにクエストを進めてくれたわけか」
ガハハハッ、とその仲間たちが笑う。
『デス・エンゲ―ジ』のリーダー、カラサが仲間を連れてやって来てしまったのだ。
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