太陽と白い猫
それはある蒸し暑い夏の昼下がりのことだった。私は町の郵便局へ手紙を出しに繰り出していた。その日は気がおかしくなるような猛暑で、私はたまらず街頭沿いのパーラーに駆け込んだ。
席に着く。
ウエイトレスが来る。ビールを注文する。
窓の外を眺める。猫が一匹、のんびりと、夏の日差しを浴びて蹲っている。真っ白い毛がさんさんと輝いている。
通りを歩いている女性が、白猫の柔らかい腹を蹴飛ばした。彼女の履いているエナメル製の靴が黒々と照り、良く手入れされていることが伺える。猫はびっくりしたように飛び上がり、鳴いて、女性に背を向けて逃げ出そうとした。女性は白猫を両手で抱え上げると、アスファルトに叩きつけた。女性がどのような表情を浮かべているのかはよく分からなかった。太陽光線の反射が邪魔していた。弱い存在のくせに逃げられると思っている白い猫の様子はある種の興奮を誘った。
私の心は、窓の中の異常な光景にすっかり吸い寄せられていた。日光の熱で盛んになった血行や、鈍麻してゆく頭脳は同情や悲哀を和らげ、好奇心をほかほかと暖めるばかりだった。ああ、太陽。だらしのないその光は精神の均衡を乱し、ついには私に窓外の情景に加わるよう促し始めた。
私は彼女を想像する。美人だ。すごい美人だ。自分には不釣り合いなほどの美人だ。一体どのような表情を浮かべているのだろう。その瞳の奥に潜むのは孤独だろうか、それとも別の何かだろうか。かくして、私は彼女に近づいていく決心をする。
店を出る。
私は奇妙な事実に気づく。
女性も、猫も、どこにも見当たらない。私は困惑する。
太陽光線の偏頗が、日の当たった風景の全象を歪めてしまったのだろうか。ここではただ、熱波がアスファルトをじりじりと焼いているばかりだった。吐き気。そして眩暈。日に当たりながら私の均衡は崩れていく。暴力的な太陽の効果が重苦しい不快感を形成している。アスファルトに蹲る。
横腹を思いきり蹴られる。私は悲鳴を上げる。
「何を血迷ってこんなことを! 惨いばかりだ!」
私は顔を上げる。傍に立っていた女性の瞳の奥に白い猫が映るのを確認する。
その瞬間、私はすべてを了解した。