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第98話

「なあ、モイセス。これなんだ?」


 ケイたちが沈めた人族の船から、モイセスたちが潜水して色々見つけて戻って来た。

 前回1隻で来た時は、乗員の武器ばかりで魔道具が手に入らなかったが、今回は最初から島を乗っ取るために来たのだろう。

 モイセスたちは、金属類はもとより、魔道具も幾つか拾ってきた。

 ケイとしても、金属類より魔道具の方が興味があるため、初めて見る魔道具に目が行った。

 筒のような物に線が付いていて、大きな箱のような物に繋がっている。

 箱の方には、色々なボタンが付いている。


「通信用の魔道具ですね」


「通信用……」


 見た感じでなんとなく予想できたが、やはりケイの思った通りだった。

 前世で見たことある物と似ていたからだ。

 それは電話だ。

 といっても、電話ボックスにある電話だ。


「これでカンタルボスと交信できるのか?」


 モイセスたちが知っているということは、彼らの故郷であるカンタルボス王国にも同じものがあるのだろう。

 それならば、もしかしたら通信できるのではないかと思い、ケイはモイセスに問いかけた。


「無理ですね。距離が離れ過ぎています」


「そうか……」


 通信できるのなら、わざわざケイが転移魔法で毎月報告に行く必要がなくなる。

 報告しに行った日に人族が大軍で攻めて来ようものなら、目も当てられない。

 淡い期待をしたのだが、やはりそう上手いこといかないようだ。


「どれくらいの距離まで通信できるんだ?」


「この島の最北端と最南端ぐらいではないでしょうか?」


 通信の魔道具なのだから、ある程度の距離は通じないと役に立たない。

 折角手に入れたのだから、有効利用したい。

 そう思って問いかけると、帰って来たのはこれだった。

 この島で最北端から最南端の距離と言ったら、40kmくらいだ。

 使えると言えば使えるが、少し微妙だ。

 緊急時に使うには役に立つかもしれないが、普段使うにはあまり意味が無いような距離だ。


「……何のために積んでいたんだ?」


「船同士の連携を取るためですね」


「なるほど……」


 予想通りの答えだ。

 普通に考えて、遠く離れた自国との通信のために乗せていたとは思えない。

 となれば、海上での仲間同士の連携に使うのが妥当だろう。

 船なら手旗信号なんかもあるが、直接話し合える方がスムーズに情報を交換できる。

 使い道としたら妥当な気がする。


「まてよ……連携取っていたのに何で障壁張らなかったんだ?」


「張る暇がなかったのでは?」


 たしかケイたち親子が魔法を放った時、彼らは魔法に対抗する障壁を船に張らなかった。

 自分たちが挑発するようなことを言ってきたのだから、人族たちは何か対抗する処置を取っているのかと思った。

 しかし、魔法であっさりと沈めることができたので、ケイとしても少し拍子抜けしていた。

 もしかしたら、障壁を張れるような人間を乗せていなかったのではないかとも思っていた。

 発見した島に人が住んでいたとしても、獣人なら遠くから魔法で攻撃してくることもないと考えていたのだろうか。

 それにしたって、魔導士を全然乗せていないなんて馬鹿としか言いようがない。

 となると、モイセスが言うように障壁を張る前に攻撃が通用したのだろうか。

 あの時、モイセスたち獣人だけでなく、ケイたちがエルフだときづいていたようだった。

 そのため、エルフは人を殺さないと分かっていれば、油断して障壁を張る必要はないと判断した可能性も考えられる。


「獣人たちが海上攻撃された場合はどうするんだ?」


 人族なら、魔法が得意な者が障壁を張ればいいが、獣人は魔法が得意ではない。

 そうなると、今回の人族の船のように攻撃されたら、なすすべがないのではないかと思える。


「獣人にも魔法が得意な種族はおりますし、船を防御する獣人用の魔道具もあります」


「へ~……、すごいな」


 以前ルイスに聞いた話によると、獣人には色々な種類がおり、大抵が魔法が苦手だという話だ。

 中でも、孤人族・狸人族は魔法が得意な種族らしく、それぞれ北と西に国を構えているらしい。

 カンタルボスにも、少数ながらも住んでいて、回復師や障壁防御役として重宝されている。

 数が少ないので、骨折程度は治したりしないそうだ。

 リカルドと戦いケイが骨折した時に、固定だけして自然治癒になったのはそのためのようだ。

 船の防御にも魔法が得意な種族を乗せるが、いかんせん人数が少ない。

 そのため、船の場合は防御用の魔道具があるらしい。

 魔道具なら魔力を溜めておいて、その魔力を使って発動すればいい。

 後は、溜めた魔力が尽きる前に海岸に接岸してしまえば問題はない。

 そんな魔道具があるなんて、この世界もすごいんだなとケイは感心した。


「魔道具ってどうやって作れるんだ?」


 この通信の魔道具は、でかいとはいえ電話に似ている。

 たまたま似たような形になったという可能性もあるが、ケイにはもしかしたらという考えも浮かんで来る。

 転移者はともかく、ケイ自身という例があるため、この世界に転生した人間がいるのではないかと思えたのだ。

 そのことも気になるが、魔道具の作成ということへも興味がある。

 自分でも作ることができればと、ケイはモイセスに尋ねた。


「獣人の場合はドワーフ族に作ってもらうことが多いですね」


「ドワーフ!?」


 前世の漫画やラノベで聞いたことある種族の名前に、ケイは思わず大きな声を出して反応してしまったのだった。



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