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第78話

「美花は大丈夫か?」


「まぁ、なんとか……」


 カンタルボス王国へ向かうことになる船旅を余儀なくされたケイは、現在妻の美花と共に船の上にいる。

 出発してしばらくして、2人は船の甲板に出てすぐの所でジッと動かず立っていた。

 顔色は悪くなく、船に酔ったとかそういうことでもない。

 単純に、昔のことを思い出してしまうので表情が暗いだけだ。


「ケイ殿、美花殿、こちらにおいででしたか」


 ただ外を眺めているケイと美花の所に、ファウストが寄って来た。

 2人を探していたらしく、見つけて安心した表情をしている。


「いかがですか? 船旅は……」


 ファウストには2人が船の転覆に遭っていることは伝えてある。

 島を出発して船内を案内され、2人で一部屋使わせてもらうことになった。

 その部屋からしばらく動かないでいたため、ファウストには少し心配された。

 そんな2人がいつの間にか部屋を出て甲板にいたので、慣れてきたのかと安心していた。


「ここなら大丈夫ですが、やはり船旅は嫌なことを思いだして気分が滅入ります」


「それは何とも……」


 あれだけ強いにもかかわらず、海上では静かにしているケイに、ファウストは内心おかしかったが、その原因を知っているので、何と答えていいのか困った。


【しゅじん! ふねおおきいよ!】


「っと!」


 2人がジッとしている中、ケイの従魔であるケセランパサランのキュウが元気に飛び込んで来た。

 主人であるケイたちとは違い、生まれて初めて島の外に出たキュウは、好奇心からはしゃいでいる。

 今も船の中を見て回ってきたらしく、嬉しそうにケイに念話で話しかけてきた。


「まだ出発して間もないが、早く島に帰りたい」


「……そうね」


 元気なキュウとは違い、2人は全然テンションが上がらない。

 それどころか、嫌な思い出が何度も頭にチラつき、もう後悔し始めていたのだった。






◆◆◆◆◆


「じゃあみんな、あとのことはよろしく頼む」


「ちょっとの間行って来るね」


 島のみんなに見送られ、ケイと美花が挨拶をする。

 行って帰ってくるだけで2週間ほどの道程。


「気を付けてね。父さん、母さん」


 みんなを代表して、ケイたちの息子のレイナルドが挨拶する。

 2人だけでなく、ここの島の人間はみんな海難事故で流れ着いた身。

 戦闘力は強いのに海が苦手な面々ばかりだ。

 逆に、この島で生まれた子供たちはそんなことは経験していないため、ケイたちの船旅を羨ましそうにしている。

 ただ、この船旅には少々問題がある。

 ケイと美花が船旅が苦手。

 というのは小さい物で、一番の問題はこの島の安全だ。


「みんな、人族が来たら分かってるな?」


「「「「「はい」」」」」


 火山の噴火によってカンタルボス王国と関係を持つことになったが、たまたま獣人族側が先だっただけで、人族側からも来る可能性がある。

 これが一番の問題だ。

 金になることが分かっているので、恐らくエルフの姿を見たら、問答無用で襲い掛かってくる可能性が高い。

 2週間近くだが、島の中でも上位の戦闘力を持つケイと美花がいない。

 そういった場合のことを考え、みんなで色々と話し合いを持った。


「女性と子供たちは早々に洞窟内へ、男性陣はカンタルボス兵の戦況次第で戦ってくれ」


「「「「「はい」」」」」


 ファウストと共にやって来たカンタルボス兵の半分近くは、この島に残ることになっている。

 以前の話し合いで、ケイがファウストに手配してもらった。

 王国の客人を招くために作られた大きな邸もそのためだ。

 人族側の船が見えた場合、カンタルボス王国の国旗を掲げ、ここは獣人族側の領地だと知らせ、船を引きかえさせる。

 それでも島に乗り込んできたら、彼らに話し合いを任せ、それでも戦闘になった場合は一緒になって戦うという手はずになっている。


「レイ! もしもの時はお前がなんとかしろよ」


「うん!」


 ケイの孫たちは、血が薄まりエルフの血を受け継いでいるとは悟られないかもしれないが、レイナルドとカルロスは耳でハーフエルフだと気付かれる可能性が高い。

 なので、最初はルイスとイバンの獣人コンビと魔人族のシリアコに王国側の話し合いに加わってもらうが、戦闘になったらこの2人が前面に出る予定だ。

 ケイ程ではないが、レイナルドとカルロスはとんでもない魔力量になっている。

 レイナルドに至っては、美花と同等なレベルの戦闘力を身に着けている。

 ケイたちがいない間は、レイナルドに島のみんなの安全を守ってもらうしかない。


「場合によっては、命に代えても……」


 人族側がどれほどの数で来るか分からなく、カンタルボス兵も20人近くしかいない。

 多数で来て勝ち目がない時、レイナルドは自爆をしてでも守るつもりだ。


「それはギリギリまで選択するなよ……」


 息子の決意に誇らしくもあるが、ケイは、というよりアンヘルは、それで父と叔父を失った。

 父たちと違い、ケイは息子たちにくだらないエルフの掟を教えなかった。

 そのため強くはなったが、数には勝てない時もある。

 エルフの血を引く息子には、勝てなければ大人しく捕まってでも生き延びろとも言えない。

 人族側に捕まれば、生きるのも嫌になるくらいの地獄が待ち受けているはずだからだ。

 そんな地獄を味わうくらいなら、身を挺して死んだ方が良いかもしれない。

 ただ、それでもやっぱり大切な息子だから、最後まで抗ってほしいというジレンマが、ケイの言葉に詰まっていた。


【ごしゅじん! キュウにまかせる!】


「「「「コクッ!」」」」


 ケイがレイナルドと話し合っている横で、ケセランパサランたちも別れの挨拶をしていた。

 アル、カル、サル、タルの4匹は、面倒を見ていられないので連れて行くことはできない。

 本当はキュウもおいて行こうと思ったのだが、念のため美花のボディーガードとして連れていくことにした。

 海上で海の魔物と戦うことになった時、トラウマのあるケイと美花は動けないかもしれない。

 その時のためだ。


「「行ってきます!」」


 最後に2人は気合いを入れるように強く言い、沖に停泊している帆船にいくまでの小舟ですら緊張した様子で乗り込んでいったのだった。



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