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第71話

「そう言えば、こちらが勝った場合どうなるのですか?」


 勝負方法は決まって後は戦うだけだが、こちらは負けたら属国になるとして、勝った場合に何もなしでは戦う意味がない。

 まさか属国にしないのが、こちらへの報酬だとでも言うのだろうか。

 たしかに、攻め込まれるようなことになれば今日の内に潰されるかもしれない下の立場だが、それだけを理由に戦うのはなんかちょっと納得いかない。

 他に何かこの戦いにメリットが欲しい。

 まぁ、何か付けられるならラッキーぐらいのつもりで、ケイはファウストに話しかけてみた。


「何でも! ……と言いたいところですが、私に与えられた権限には限界があります」


「……ですね」


 最初の言葉を聞いた時は驚いたが、やはりそこまで甘くないようだ。

 ファウストも王命で来たのだし、たいしたものを得られるとは思わなかった。

 そもそも、ケイたちは特に困っていることはないため、何か欲しいかと言われても何もないのが本音だ。


「しかしながら、国に帰還した際に王に伺い、そちらの要求を伝えることは約束いたしましょう」


「……王に伝える?」


 つまり、無理な要求は王にまで行ってしまうということになる。

 その王の気性次第で、余計な要求をすると腹を立てて、今度こそ攻め込んでくるみたいなこともあるかもしれないということなのだろうか。


「今回勝っても要求内容次第でまた戦えとか言うのですか?」


「いえ、そのようなことがないように約束いたします」


 攻め込まれるのは流石に勘弁願いたい。

 ケイとしては、このままこの島でみんなとのんびり平和に過ごして行ければ良い。

 そのため聞いておいたのだが、ファウストが自信ありげに返答をしてきた。


「失礼ですが、あなたにそれが約束できるのでしょうか?」


 部隊の隊長程度がそんなことが可能なのかと、ケイは疑問に思う。

 こちらとしては、やっぱり無理でしたでは話にならない。

 そう言えるきちんとした説明が欲しい所だ。


「大丈夫です。今更で失礼ですが、正確に名乗りますと、私のフルネームはファウスト・デ・カンタルボスと申します」


「…………ということは?」


「国王の次男です」


「……なるほど」


 それが本当だというのであれば、本当に今回だけで済みそうだ。

 次男とはいえ、王国の人間が約束したことを反故にすることはないはず。


「ちょっと待っていてください」


 安心してこちらの要求が言えると思ったケイは、ルイスたちと何を要求するか話し合いにいった。


「どうする? 何か吹っ掛けようぜ」


 ケイは、ルイス、イバン、レイナルド、カルロスの4人と輪になって話し始めた。

 折角安心して何か要求できるのなら、ちょっとくらい高めの要求をしたいところだ。


「いきなり来て不可避の決闘。確かにふっかけたいね」


「だね!」


 似た者親子というか、レイナルドとカルロスも同じ意見のようだ。

 ただ、ケイもだが、特に要求するような物が思いつかない。


「……何かないかな?」


 ルイスとイバンは、元々は自国なのだから何かあるのではないか。

 そう思って、ケイが2人に目を向ける。


「では、ここを国と認めてもらうのはどうでしょうか?」


「……えっ?」


 ルイスの言葉に、ケイは理解が追い付かないでいた。

 国も何も、村と呼ぶのもためらわれるほどの小人数しかこの島には住んでいない。

 それがいきなり国になるなんて、ケイは考えたこともなかった。


「それ、メリットあるかな?」


 ルイスの提案に、レイナルドが首を傾げる。

 国と認められた所で、カンタルボス王国とは同等になる訳ではない。

 なので、その提案の意味が分からない。


「恐らく、この島は獣人族大陸と人族大陸の中間にあると思われます」


「うん」


 ケイや美花が人族側から、ルイスたちが獣人族側から流れ着いたところを考えると、その可能性は考えられるし納得できる。

 元奴隷の魔人族であるシリアコ以後にも、何度も水死体が流れ着いた。

 きちんと火葬して墓地に葬っているが、西と東の海岸に流れ着く人間の割合からいうと、獣人の方が多い気がする。

 そのことから、細かく言えば獣人大陸寄りだろう。


「噴火は人族側も気付いてるはずです」


「なるほど……」


 ルイスのその説明で、ケイはなんとなく言いたいことが分かった。


「……人族のどこかの国が、今回同様に来るかもしれないということか?」


「その通りです」


 今回は獣人の国の人間が先にきただけで、場合によっては人族側の人間が来ていたという可能性もある。

 そう考えると、ケイは軽く背筋が冷えた。

 ファウストたち獣人側は、こちらが丁寧に対応すれば話し合うことはできる。

 しかし、人族側はケイの姿を見た瞬間、問答無用で捕獲してきそうだ。

 ケイの中のアンヘルの記憶が、欲にくらんだ人間に追いかけられた過去を思い出させる。


「国と認められた後、カンタルボスとだけでも同盟を組めば、人族側からのちょっかいは退けられるかと……」


「……それはいいかもな」


 カンタルボスの王も、ここを人族に手に入れられると面倒なことになるという思いがあってのことかもしれない。

 人族側は、獣人族や魔人族とよく揉めている。

 人族大陸に近い獣人族の国は、数が多い人族の相手にどこの国も手を焼いている。

 なので、ここの島を獣人大陸に攻め込む拠点にされたくない。

 それなら、同盟の提案は受け入れてもらえるかもしれない。


「要求はそれで行こう!」


 国として認めてもらう。

 戦いで勝って、国として承認された後同盟を結ぶ。

 それをファウストへ求めると、


「いいですよ!」


 かなりあっさり要求が通った。

 簡単すぎるので、もしかしたら、ファウストはそれでもいいと思っていたのかもしれない。

 ケイたちとしては要求が通るなら文句はない。


「じゃあ、始めましょうか?」


 ファウストに促され、ケイは勝負を始めるために前へと進む。

 ケイの隣にはルイスが付き、ファウストの隣には熊耳で2mくらいの身長をした腕が丸太のような太さのおっさんが付いている。


「審判は平等をきすために1人ずつ。相手を気絶または降参させた方の勝ち。武器は自由。私とケイ殿の1対1の対決で宜しいですか?」


「はい!」


 島の代表はケイ、カンタルボス王国側の代表はファウスト。

 そして、ルイスと巨体の熊耳おっさんが審判役だ。

 ケイとファウストが、お互いある程度離れた位置に立ち、戦闘開始の合図を待った。


「「始め!!」」


 2人の審判が同時に手を振り下ろし、ケイとファウストの戦闘が開始された。



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― 新着の感想 ―
[一言] 長男ならともかく次男で安心するなよ(笑)余程のポンコツ馬鹿か死んでない限り次男以下がどうこうするってのはありえないし、どのポジションにつくか知らんがどのくらい信頼されてるかもわからんのにな。…
2021/12/01 03:42 退会済み
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