表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/375

第64話

 少しの間落石から守るための障壁を美花に任せたケイは、レイナルドにキュウを任せ、急いで西へと足を進めた。

 当然ケイに向かって大小の落石が落ちて来るが、今は自分の身さえ守れば良いので、わざわざ受け止めることなく、ただ躱して先へと進む。


「っ!?」


 進んでいると、黒い物が岩の下敷きになっているのがケイの目に入った。

 そのためケイは足を止めて、ゆっくりとそこに近付いて行った。


「…………ガン?」


 近付いて確信した。

 マルの子供であるガンだった。


「くっ……!!」


 体の一部が岩に押しつぶされ、内臓が飛び出ている。 

 その姿を見たケイは、慌てて口に手を当ててみる。

 だが、やはり呼吸をしていない。

 いくらこの世界に魔法がある言っても、死んだ生物を生き返らせることは不可能。

 ガンの亡骸を前に、悲しみと苦しみが込み上げてきたケイは、歯を強く噛みしめるしかなかった


「くそっ!!」


 このまま連れて帰るのは、他のみんな(特に子供たち)の心理的にも良くない。

 息を引き取っているのは分かっていても、見た目だけでも治してあげようと、ケイは上に乗っている岩をどかして、治療魔法でガンの体を治した。


「ここに入ってろよ……」


 そう言って、ケイはガンを胸のポケットの中にいれた。

 返事がないのは分かっている。

 しかし、それでも声をかけないといられなかった。

 まだマルとドンを見つけないといけない。

 なので、ケイはそのまま先に進むことにした。


「なっ!?」


 また少し行くと、またも黒い物体が落ちていた。


「…………ドン? お前も……」


 キュウの子供であるドンだった。

 口から流れた血だまりに浸かりながら、やはり動かなくなっている。

 近くに岩が落ちている所から見て、防ぎきれずに直撃したのかもしれない。

 触った感触からいって、内臓が破裂したのだろう。


「…………お前はこっちな……」


 ガンの時と同様に、せめて見た目だけでも治してあげようと回復魔法をかけ、もう一つの胸ポケットの中にいれてあげた。

 ケイの従魔であるキュウたちケセランパサランは、ケイのポケットがお気に入りの場所だった。

 一番多く入っているのはやはりキュウだが、他の子たちも入りたがる。

 子供が出来てガンやドンは入る機会は少なくなったが、やはり甘えたいときはポケットに入って来ていた。

 今は両方とも空いているので、中でゆっくりしていて欲しい。

 そんな思いをしながら、ケイは残りの従魔のマルを探しに重くなった足を動かした。


「くっ…………!」


 ケイがマルを探してずっと西へ向かって行くと、溶岩の流れを二手に分けた壁の近くにまでたどり着いた。

 溶岩からは離れているとはいっても、ここまで来ると強烈な熱風がケイに押し寄せてくる。

 魔闘術で熱の耐性も上がっているのにもかかわらず、汗が噴き出してきた。


「………………マル?」 


 熱に耐えながら少しずつ壁に近付いていくと、全身の毛が焼けたマルが動かなくなっていた。


「マル!! マル!!」


 急いでマルを拾い上げたケイは、この熱風地帯から離れた。

 マルまでも死んでしまっていることを受け止めきれないのか、ケイは懸命に声をかける。


「マル…………」


 いくら呼んでも、マルはケイの言葉に反応しない。

 壁の近くにいたということは、壁を作るのに全力を尽くし、魔力切れをしたのかもしれない。

 魔力切れで気を失って、そのままあの熱に晒されたのでは、どんな生物でもひとたまりないだろう。


「…………みんなの所に帰ろうな……」


 回復魔法をかけて元のマルの姿に戻してあげると、目を瞑るマルを手に乗せたまま、ケイはみんなのいる洞窟の方へ向かって走り出した。

 せめて1匹だけでも生きていて欲しいと期待を持って来たというのに、3匹とも死んでしまっていたことで、ケイは深い悲しみに包まれたのだった。






◆◆◆◆◆


「いい大人の男がいつまでも下を向いてるんじゃないわよ!」


 みんながいる洞窟にたどり着くと、ケイはみんなにマルたちの亡骸を渡して外へ出てきた。

 帰って来た時のケイの様子から、美花とレイナルドもなんとなく察してはいた。

 マルたちと一番長く一緒にいたケイが落ち込むのは分かる。

 しかし、今は状況的にケイに落ち込んでいられては困る。


「落ち込むのはこの危機が去ってからにしなさい!」


「……………………」


「…………あぁ!」


 強い口調で叱咤する美花だが、うっすらと涙が浮かんでいるように見える。

 それが分かっているのか、レイナルドは無言で美花を見つめていた。

 美花のいうことはもっとも、そもそもマルたちはみんなのために命を張ったのだ。

 それに気付いたケイは、うつむいた表情をやめて顔を上げた。


「レイ! キュウと休んで魔力の回復に専念しろ!」


「あ、あぁ……」


 大きな噴石はなくなりつつあるが、まだ予断は許さない。

 なので、障壁を張る役割を長時間任せられるのはレイナルドとキュウだ。

 少しでも早く魔力を回復させてほしい。


「美花はもしもの時のためにこのまま近くにいてくれ」


 キュウがやったように、大きな噴石がまた落ちてくるかもしれない。

 その時のためには2人態勢の方が良いだろう。

 美花ならその役割をこなすことができるはずだ。

 だから、もういてもらうことにした。


「障壁は俺が代わる」


「分かったわ!」


 魔力量ではまだ障壁を張っていられるだろうが、美花には緊急対応の方に気を付けてもらいたい。

 なので、障壁はケイが張ることにした。

 何も考えずにそうしている方が、今のケイには気が楽でいられたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ