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第374話

「魔王が作ったダンジョンなだけあって、攻略するの大変だったよ」


 座り込んだケイは、目の前に立つ美花の墓へ話しかける。

 ここに来た理由、それは美花にダンジョン内で起こったことを報告をするためだ。

 もちろん、ケイが一方的に話すだけだ。


「……クゥ~ン」


「クウもがんばってくれたよ」


 ケイが話し始めると、側に座ったクウが悲しそうに鳴き声を上げる。

 クウは元々は美花の従魔だった。

 そのこともあり、生前の美花のことを思いだしたのだろう。

 そんなクウを慰めるように撫で、ケイはクウがダンジョンで貢献してくれたことを報告する。


【ご主人! 僕は?】


「そうだな。キュウにも助けられたよ」


 クウのことを話したことに反応し、肩に乗っていたキュウが念話でケイに話しかける。

 自分のことも美花に報告して欲しかったのだろう。

 キュウに促された形になったが、ケイはキュウのことも美花に報告した。


「あぁ、そうだ。最近のエルフ王国の話なんだけど……」


 魔王を封印した結界内のダンジョン攻略で、ケイはしばらく国を留守にしていた。

 その間に何か問題が起きていないかレイナルドとカルロスに尋ねたところ、少し面白い話を聞いた。

 ケイは少し笑みを浮かべ、そのことを話すことにした。


「この国の女性は黒髪が好まれるそうだよ。どうやら美花のことを見てそうなったらしいぞ」


 息子2人から聞いた話とは、このことだ。

 何でも女性の間で黒髪が流行っているらしい。


【男性は金髪が流行っているんだって】


「あっ! キュウ、それは言わなくていいんだよ」


 ケイが聞いた話には続きがある。

 それを美花には隠していたのだが、キュウがバラしてしまった。

 女性は黒髪、男性は金髪というのが流行っていて、ケイと美花の関係を見てそうなったのだそうだ。

 ケイを真似るなら白髪にするものだが、この髪の色はあくまでも後天的なもの。

 父や叔父を殺され、更には死にかけたことで白髪になったということはみんな知っている。

 そのため、ケイ本来の髪色である金髪の方が流行ったらしい。

 尊敬してもらえるのは嬉しいが、何だかこそばゆい感じがしたため、美花には自分のことは隠したかったのだ。


【えへへ、ごめんなさい】


「ハハッ、全く……」


 キュウは美花よりも長い付き合いだ。

 ケイが隠しておきたかった理由も分かっていたが、美花に話してしまおうと思っていたようだ。

 少し慌てるケイが見れて、キュウはいたずらが成功したように笑いながら謝った。

 そんなキュウを少し強めに撫で、ケイも笑みを浮かべた。


「レイナルドとカルロスは、優秀に育っているよ。レイナルドは俺なんかよりも国王向きだし、カルロスもレイナルドをフォローしつつ国のために働いているよ」


 自分たちのことを話したケイは、次に息子のことを話し始めた。

 咄嗟に思い付いただけの花見祭りを、息子たちはあっという間に開催にこぎつけた。

 もちろん、国民みんなの協力があったからでもあるが、2人の人望などがないとできないことだ。

 自分ではこうはいかないだろうと思ったケイは、2人の手腕に感心した。


「美花に似たのかな?」


 自分よりもレイナルドの方が、国の統治能力が高い気がする。

 よく考えると、美花の母は日向の西側の統治を任された将軍家の姫だ。

 その血を受け継いでいるため、レイナルドから上に立つ者の風格が出ているのかもしれない。

 子供の時は、母の美花に似ていると思うとちょっと不満だったが、大人になった今だとそれが嬉しく感じる。

 美花の血が、受け継がれていることの証明のような気がするからだろうか。


「もう国のことはレイナルドたちに任せて大丈夫だ。だから俺は魔王を消滅させるためにダンジョン攻略を繰り返すよ」


 経験上、魔王をまともに戦っても勝てる人間は、今も昔も存在していないだろうし、今後も出現するかも分からない。

 ケイ自身、勝てる見込みがないから封印魔法を作り出したのだが、魔王は結界内にダンジョンを作り出した。

 長い年月封印しておけば、どんなに不死身の肉体だろうと消滅すると思っていたが、あんな危険なダンジョンを作り出すなんてやっぱり魔王と言うだけあって一筋縄ではいかないようだ。

 復活するための力を蓄えるために作り出したのだろうが、危険なダンジョンのため、自分以外に攻略できる人間がこの世界にいるか分からない。

 しかし、出来てしまったのなら攻略するしかない。

 あれほどのダンジョンを作り上げるとなると、魔王たちも相当な力を消費したはずだ。

 1カ月ほどでまた封印の結界が発動し、ダンジョンも復活しているようだが、攻略し続ければそれだけ魔王の消滅を早めることに繋がるはず。

 子や孫に危険を残さないために、攻略できて自由に動ける自分がその役をこなすしかない。

 その決意を、何となく美花に言っておきたかった。


【僕も付き合うよ!】「ワウッ!」


「……ハハッ! あぁ、期待しているよ」


 ケイが美花に向かって言った決意に、キュウとクウも協力を申し出る。

 いくら自分が戦闘力が高くてもダンジョン攻略をするには、自分1人では思わぬミスを犯しかねない。

 キュウやクウがいれば、それも回避できるはずだ。

 なにせ、この2匹の従魔は自分にとって自慢の従魔だからだ。

 2匹の従魔から受けた嬉しい言葉に、ケイは思わず笑みを浮かべたのだった。


「また来るよ」


【じゃあね!】「ワウッ!」


 一通り報告をし、決意を告げたケイは、美花に一言告げる。

 そして、キュウたちと共にみんなが集まっている祭り会場へと戻っていった。

 ケイの思わぬ発言から開催された花見祭り。

 それはエルフ王国の春の祭りをして、毎年開催されることになるのだった。











 その後のエルフ王国は、レイナルドとカルロスの手によって発展していく。

 魔物により住処をなくした難民は、獣人・魔人に関係なく受け入れていった。

 その代わり、人族だけは別だ。

 日向以外の人族は、余程のことが無い限り受け入れることはしなかった。

 エルフを迫害し続けた歴史を、人族に忘れさせないためだ。

 美花に決意を告げたように、ケイは魔王消滅を目標にし、各地の封印結界内のダンジョン攻略を繰り返した。

 その攻略5週目が終わり、一時だが封印結界が全て消えたのだが、魔王もしぶといく、一年以上の年月が経って再度封印結界が出現した。

 恐らく魔王最後の足掻きだっただろうが、ケイが6週目の攻略に向かうことはなかった……。



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