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第312話

「ガアッ!!」


「ぐっ!」


 自己破損お構いなしの戦闘法により、全体的に能力アップしたギジェルモ。

 一発一発の攻撃が危険な威力になり、迫り来る攻撃を防ぐと痺れるような衝撃が襲ってくるほどだ。

 しかし、ケイはこれまでとは戦い方を変えた。

 ギジェルモの剣による攻撃を左手の銃で受け止める。


「ッ!!」


 攻撃を受け止めた銃口はギジェルモの体に向いており、それに気付いたギジェルモは追撃を止めた。

 だが、ケイはそのまま引き金を引く。

 飛び出した弾は強力とは言い難いが、光魔法による攻撃のため、食らえばギジェルモには痛手を負うことになる。

 それが分かっているのか、ギジェルモは体を捻って弾丸を躱した。


「ゴッ!!」


 躱したことで体勢が崩れた。

 そこを見逃さず、ケイはギジェルモへ前蹴りを食らわす。


「グゥ……」


 攻撃を受けたギジェルモは、少しの距離を無理やり後退させられる。

 そして、そのままケイを睨みつける。


「ッ!!」


「能力が上がったからって調子に乗るなよ!」


 蹴とばしたケイがこれまで通り距離を取るのかと思っていたのか、接近してきたことにギジェルモは目を見開く。

 そのギジェルモの懐に入り、ケイは拳銃で殴りかかる。


「クッ!!」


 その攻撃をギジェルモは剣で受け止める。

 しかし、ケイの狙いは、わざと防御させることだ。


「ガッ!? ウグッ!!」


 受け止められた手とは反対の手に持つ銃で、ケイはギジェルモの太ももに風穴を開ける。

 靴に歪むその顔に、そのまま飛び膝を打ち仰け反らせる。


「ガァ!!」


「ぐっ!!」


 ケイが仰け反ったギジェルモへ銃を向けて、至近距離から強めの一撃を放とうとしたところで、仰け反る状況を利用したギジェルモがサマーソルトキックをかましてきた。

 その攻撃に対し、ケイは意識を攻撃から防御へ切り替え、クロスアームブロックをしてその攻撃を防いだ。


「ハッ!!」


「っ!!」


 ケイの両手を防御に使わせたギジェルモは、左手に集めた魔力で火球魔法を放つ。

 これまで使ってこなかった魔法攻撃に、ケイは驚きつつも両手に魔力を集めて水の魔法を使って火球の進行方向を横にずらした。


「ダッ!!」


「っ!!」


 意識を魔法に向けるのがギジェルモの狙いだったらしく、火球をずらしたばかりのケイに斬りかかった。

 横薙ぎの攻撃に対し、ケイは2丁の銃をぶつけて防御する。


「チッ!!」


「学習能力はあるのか……」


 攻撃を防がれたギジェルモは舌打ちをし、追撃をすることなく後退し、太ももの風穴を回復するために魔力を消費する。

 追撃をすると、さっきと同じように防御した銃に撃たれる可能性がある。

 そのことを理解しての回避行動だろう。

 その考えは正しく、そのまま攻撃してくればまたも防御したまま銃撃をする予定だった。

 後退されてしまい、ケイとしても舌打をしたい気分だ。


「どうした? かかって来いよ!」


 パワーアップによってギジェルモの全攻撃の威力が上がっているが、ギリギリの所でケイの方が有利に戦えている。

 そのため、ケイは余裕そうに手招きをして挑発する。

 本音を言うと、ケイにも余裕がある訳ではない。

 一発でも受け損なったら大打撃を受けることになる。

 ギジェルモと違い、ケイは怪我を負ったらすぐさま回復できるわけではない。

 危険と隣り合わせの状態で戦っているに過ぎない。


「クッ!!」


 挑発に乗ったのか、ギジェルモは変わらず自身の肉体を破壊するような魔力を纏ってケイへと接近を図る。

 ケイが戦い方を変えたことで、本人も気が付いているはずなのに諦めようとしていない。

 攻防一体の戦い方をするようになったケイに対し、ギジェルモができるのは隙を狙っての単発攻撃しかない。

 怒りで頭に血が上っていても、逃げることはプライドが許さないようだ。


「ダアー!!」


「ぐっ!! 重てえ……な!!」


「フッ!!」


 ケイが防御を失敗することを狙っているのか、ギジェルモは強力な一撃を振り下ろす。

 それを両手に持つ拳銃で抑えつつ、ケイは文句と共に引き金を引く。

 その銃撃を、ギジェルモはバックステップして回避した。


「ガアァー!!」


「何度も同じ手しやがって!!」


 もしかしたら、ケイの拳銃の破壊を狙っているのか、ギジェルモはまたしても強力な一撃を振り下ろしてきた。

 そんな単発攻撃が通用する訳もなく、またもケイは攻撃を受け止めた。


「ガアッ!!」


「っ!!」


 しかし、単発攻撃だと思ったら、ギジェルモはそのまま蹴りを放ってきた。

 それに対し、ケイも拳銃の引き金を引く。


「ウグッ!!」


「なっ!!」


 しかし、ギジェルモの狙いはこれまでと違った。

 腹に弾丸を打ち込まれながらも、そのままケイへの攻撃を止めなかったのだ。


「ぐっ!!」


 顔面へと放ってきたハイキックを、ケイは何とか左腕でガードすることで直撃を回避した。

 しかし、その強力な一撃によって、かなりの距離を吹き飛ばされる形になった。

 空中で体勢を立て直し、何とか着地には成功する。

 しかし、ケイの表情は歪んでいた。


「折れたか……」


 ガードした左腕に力を入れると激痛が走る。

 どうやらさっきの一撃で折れてしまったようだ。

 左手の拳銃を右手でしまい、ケイは片手で戦うことを余儀なくされた。


「ククク……」


「……なるほど、血が上っていたのは演技か……」


 ケイが片腕になったことで、腹の怪我を治したギジェルモは嬉しそうに笑い始めた。

 どうやらケイはいつの間にか策にハマっていたようだ。

 頭に血が上り、単調な攻撃を繰り返しているように見えたが、実は冷静にケイに一撃を食らわせることを考えていたようだ。


「これで貴様も終わりだ!」


「本当にその回復力は面倒だな……」


 攻撃を防いで、そのまま反撃をしてくるケイの戦闘方法はたしかに危険だ。

 その反撃を受ければ、回復にまたも魔力を消費させられてしまう。

 かと言って、単調な単発攻撃では通用しない。

 ならば、一撃食らうのを覚悟してケイに一発当てて、形勢を逆転させてしまおうという考えだった。

 魔力を消費するとは言っても回復できる自分とは違い、人間のケイはそうはいかない。

 回復するのにも時間がかかるはずだと、理解したうえでの方法だった。

 その作戦は成功して片腕になったケイを見たギジェルモは、自分が優位に立ったと判断し、頭に血が上った演技を止めたようだ。

 そのことが分かったケイは、改めてギジェルモの回復力の面倒さに嫌気がさしていた。


「片腕にすれば勝てると思っているのか? おめでたい奴だな?」


「フンッ! 死ぬまで強がりを言っていればいい!」


 右手一本になり、圧倒的に不利になったケイ。

 しかし、その状態でも慌てた様子なくギジェルモを挑発する。

 それがハッタリだと気付いているらしく、ギジェルモは鼻で笑った。


「ここからはお前を痛めつけてこれまでの鬱憤を晴らさせてもらおう」


「やれるもんならやってみな!」


 これまで散々回復させられて魔力を削られたのだ。

 その恨みと痛みを晴らすべく、ギジェルモはゆっくりとケイへと剣を構える。

 それに対し、ハッタリとバレても、ケイは冷静に対応する。


「ハァー!!」


「くっ!!」


 骨折した左腕側への横薙ぎの一閃。

 その攻撃を、ケイは右手の拳銃で受け止める。

 しかし、その威力を片腕では抑えきれず、そのまま右方向へと吹き飛ばされた。

 これでは攻防一体の戦闘方法も通用しない。

 ギジェルモの攻撃を止めてもピンボールのようになるだけだ。


「ハハハ……、やはりハッタリだったようだな!?」


 右へ左へ良いように吹き飛ばされるケイに対し、ギジェルモはどんどんと機嫌が良くなってきた。

 戦い始めた時の傲慢な態度に逆戻りしたようだ。


『ここら辺だな……』


 しかし、ギジェルモが気付かないが、良いように飛ばされながらもケイは冷静だった。

 そして、ケイは内心でギジェルモを倒すため、ある位置へワザと飛ばされて行ったのだった。



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