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第29話

「えっ? ダンジョンに?」


「そう」


 ほとんど美花のおかげだが、昨日の釣りはまあまあの釣果だった。

 干物にしようと捌いた魚を斜めになった網に乗せていると、美花が急にダンジョンに行ってみたいと言い出した。


「連れてってくれないかな?」


「う~ん……、連れて行くだけなら大丈夫だけど……、何しに行くの?」


 今のケイに、この島で脅威になるような魔物はいない。

 刀を持っているということは、美花もある程度の実力はあるとは思う。

 見に行くだけなら構わないが、中に入りたいとなると話が変わってくる。

 まだどれほど戦えるか見ていないので、ダンジョンに行って良いよとは言いづらい。

 

「私はもっと強くなりたい!」


「なるほど……」


 ド直球な返事が来た。

 その勢いに、ケイは若干気圧された。

 とは言ってもどうしたものか。


「ケイもダンジョンで戦って強くなったんでしょ?」


「ま、まぁ……」


 ケイがどう返すか考えていると、美花は追撃のように話しかけてきた。

 間違いではないため、返答に困る。

 ダンジョン内に入ると、ケイでもちゃんと警戒していないといけない。

 そうなると、拠点付近の畑への注意を割いている訳にはいかない。

 どの野菜も、種は魔法の指輪の中に保管しているので作り直せばいいのだが、せっかく実った物を魔物に喰われるのは腹が立つ。

 別にダンジョンで鍛えたいというのは構わないのだが、外の魔物と比べるとかなり危険な魔物が出たりする。

 せっかく救った命なのだし、話し相手がいなくなるのは寂しい。

 

「もしもの時のことを考えると、1人で行かせるわけにはいかないな」


「え~……」


 どうするか悩んだケイは、先程考えたことをちゃんと説明して美花を止めた。

 それに対し、美花は不満そうな声を出した。


「じゃあ、ケイはいつダンジョンに入っているの?」


「収穫が終わって、冬の間かな……」


 5月の上旬から中旬に全ての野菜の収穫が終わり、下旬から少しずつ寒くなっていき冬になる。

 6月から9月に入るまでは寒いため、拠点にこもりっきりになってしまう。

 ダンジョンが見つかるまでは、木を削ったりして小物雑貨を作ったり、魔力の操作を色々試したりしていたが、体が鈍って仕方がなかった。

 ダンジョンが見つかってからは、ちょうどいい訓練期間だと思うようになった。


「……半年待たないとだめなの?」


 たしかに半年待ってくれというのは酷だろう。

 美花は完全に不満そうだ。


「別に訓練はダンジョンじゃなくてもできるだろ?」


「西にいる魔物を倒して時間を潰せって言うの?」


 西にいる猪と鶏の魔物は、放置しているが数が増えないように調節している。

 今では完全にケイの家畜のようなものだ。

 そうなると、色々な虫が蔓延る森ゾーンで戦えばいいのだが、そんなに強い魔物は存在しないため、訓練になるか疑わしい。


「魔闘術だっけ? あれが使える?」


「……使えない」


 父の憲正に剣術指導を受けてきたが、15歳になってようやく魔闘術を教わり始めた。

 まだ全然完成には遠い。

 使えると嘘を言っても、「見せてみろ」と言われたら簡単にばれてしまう。

 仕方がないので、美花は素直に答えた。 


「じゃあ、半年で使えるようにがんばろう」


「……えっ!? 教えてくれるの?」


 魔闘術が使えるなら1人で行かせてもよかったのだが、使えないのなら許可できない。

 それなら練習するしかないと思って言ったら、ケイが思っていた以上に食いついてきた。


「……そりゃ、強くなるなら使えた方がいいでしょ?」


「普通魔闘術は他人に簡単に教えたりしない!」


「そ、そうなんだ?」


 一定の実力がある者が指導を受け、魔闘術使えるようになった者は平民出身でも職を優遇される。

 日向内でも蹴落とし合いが起きるのだから、他の国ならもっと他人に教えるようなことはしない。

 大陸にいる冒険者という職業の者たちは、魔物の素材を集めることで収入を得るので、強さがそのまま収入に直結するからだ。

 それを簡単に教えてくれるというケイに、思わず美花は語気を強めてしまった。


「じゃ、じゃあ、早速始めよう」


「う、うん」


 美花の勢いに少し押され気味になりながら、ケイは魔闘術の練習を開始することになった。

 大きな声で反応してしまった美花も、何となく気まずげに返事をした。






「あ~……、難しい」


 魔闘術の訓練として、ケイから魔力を細かくコントロールする練習を言い渡された美花は、疲労から集中力が切れ、大の字に寝転んだ。


「反復練習しかないからね。夕食の用意するから休んでて良いよ」


 魔力を細かくコントロールするのは地道に練習するしかない。

 それができてから部分的、そして全身へと至っていく。

 同じ練習をずっとしているのは、性格的に向き、不向きがある。

 昼から初めて、日が暮れ始めるまでずっとやっていられるなら、美花は向いている方だろう。

 元々基礎はできているので、ケイがコツとか教えれば本当に半年で使えるようになるかもしれない。

 練習で疲れている美花はそのままに、ケイは夕飯の用意を始めた。 


「キュウ火をつけといて」


“こくっ!”


「……えっ?」


 側で交わされたやり取りに、横になって聞いていた美花は思わず体を起こした。

 ただの小さい毛玉のキュウが、どうやって火をつけるんだと気になった。


“ポッ!”


「っ!?」


 木がくべられた竈に近付くと、キュウは口から小さな火の玉を吐いた。

 火の玉は小枝にあたり、竈の木に少しずつ燃え広がっていった。


「…………ケセランパサランて魔法使えるの?」


 小さいとは言え、キュウの魔法に驚いた美花は、真顔になりながらケイに尋ねた。


「練習したからかな?」


「…………え~?」


 練習したからといって、そんなことでこんな魔物が魔法を使えるようになるのだろうか。

 ケイの軽い答えに、なんとなく納得いかない声をあげた美花だった。



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