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第286話

「行くぞ!!」


「ハイッ!!」


 バレリオとエべラルドのにわか仕込みの魔闘術では、ハシントと戦える時間は限られている。

 かと言って、闇雲に戦っては勝つのは難しい。

 ハシントに勝つには、2人の連携による攻撃しかない。

 そのため、短い打ち合わせをして、2人は同時に地を蹴りハシントへと迫ったのだった。


「ハッ!!」


「っ!?」


 接近した2人の内、先に攻撃をしかけたのはエべラルド。

 持っている武器が槍なだけに、リーチを生かした突きを放つ。

 しかし、ハシントはその直線的な攻撃を躱す。


「もらっ……!?」


 攻撃を躱されたエべラルドは、隙だらけの状態になる。

 そこをついてハシントが攻撃をしようとするが、バレリオがそれをさせない。

 剣を袈裟斬りに振り下ろし、ハシントをその場から後退させる。


「なるほど……良い連携だ」


 後退したハシントを追って、エべラルドが追撃をする。

 その後も2人の交互に繰り出される攻撃を、ハシントは剣でいなしながら評価する。

 そんなことができるあたり、余裕があるということだ。


「若い方は延び盛り、おっさんの方は堅実な成長といったところか?」


 バレリオとエべラルドの攻撃を、体さばきと剣によって対処しているハシント。

 だが、それも段々と厳しくなってきていることに気付く。

 2人とも、最初のうちは自分の攻撃に魔力の操作がついてきていなかった。

 しかし、それも少しずつ修正されてきているようだ。

 どうやら、2人はこの戦闘中にも成長しているということなのだろう。


「面倒だな……」


「「っ!?」」


 2人の攻撃の僅かにできた間に合わせるように、ハシントは一気に距離を取る。

 そして、小さく呟くと、左手を上げてエべラルドへ向けた。

 何もさせまいとバレリオたちが距離を詰める時間を利用して、その左手に魔力が集中する。


「火弾!!」


「くっ!!」


 魔力が集められたハシントの左手から、火の球が発射され、エべラルドへ高速で向かって行く。

 その魔法に対し、エべラルドは魔力を集めた槍で防御を計る。


「エべラルド!」


「よそ見していいのか?」


「っ!?」


 何とか魔法の直撃の防御に成功したエべラルドだが、勢いに押されて後方へと吹き飛ばされる。

 勢いよく飛ばされたため、バレリオはエべラルドの安否を気になり、確認するように名前を叫ぶ。

 しかし、それがハシントの狙いだったため、完全な隙となる。

 声が背後から聞こえた時には、ハシントはもう剣を振りかぶっている状態だった。


「ぐあっ!」


「隊長!」


「チッ! 反応の良いおっさんだな……」


 思いっきり脳天目掛けて振り下ろされたハシントの剣を、バレリオは寸での所で剣で防ぐ事に成功する。

 しかし、完全に防ぐ事は出来ず、バレリオは左腕に深い傷を負ってしまった。

 今の一撃で仕留めるつもりでいたこともあり、ハシントは舌打ちと共に愚痴をこぼす。


「おのれっ!!」


「待て! 怒りですぐに行動に移すな!」


 ハシントから距離を取ったバレリオの左腕はザックリと斬られ、その傷からは血が大量に流れ、使い物にならない状態だ。

 しかし、まだ右手は残っているため戦える。

 バレリオが斬られたことで怒りが込み上げたエべラルドは、そのままハシントへ襲い掛かろうとする。

 1人で向かって来るのは、ハシントにとっては好都合でしかない。

 そのため、バレリオはすぐに襲い掛かろうとするエべラルドを止める。


「奴が攻撃に移ったのは、俺たちの連携に手こずり始めたからだ! 奴のように、こちらも魔法も絡めて戦うんだ!」


「分かりました!」


 バレリオの言うように、戦う内に2人の魔闘術は少しずつ上達している。

 魔闘術を使えるようにはなったが、実戦で使うのはこれが初。

 そのため、この状態で魔法も使うという発想は思いつかなかった。

 敵ながら、ハシントの戦い方は今の2人には教科書のようなもの。

 奴ができることは自分たちもできるということに他ならない。

 しかも、こちらは2人だ。

 手数で攻めればきっと隙が生まれるはず。

 その瞬間を作るため、2人はまたも連携しながらの攻撃を開始した。


「くっ!?」


 バレリオの考えは当たり、2人の魔闘術の扱いが少しずつ上手くなるにつれ、ハシントの顔には余裕がなくなり、むしろ懸命に攻撃を防ぐ事に集中しなければならなくなってきていた。

 しかも、時折放たれる魔法にも気を遣わなければならなくなり、2人の攻撃は僅かに掠り、ハシントの防具や衣服に傷が入り始めた。


「ぐっ!?」


「ウッ!?」


 2人の攻撃はハシントを追い詰め始めたが、決定的な傷を負わせるまでにはいかない。

 反対に、時折カウンターで合わせられる攻撃に少しずつ切り傷が増えていっている。

 こうなったらもう根競べの状態だ。

 先に深手を負うのがバレリオたちか、それともハシントか。


「がっ!?」


 先に攻撃を食らったのはバレリオの方だった。

 左腕の傷から流れる血により貧血の状態になってきたせいか、攻撃の切れが鈍ってしまった。

 そこを的確に狙われ、バレリオの右太ももにハシントの剣が突き刺さった。


「もらった!!」


 足をやられ、バレリオは片膝をついてその場から動けなくなった。

 そのチャンスを逃すまいと、ハシントはバレリオに止めを刺しにかかる。


“バッ!!”


「っ!?」


 仕留めるために近付いたハシントに対し、バレリオは剣を捨てて抱きつきにかかった。

 剣に注意を向けていたが、その予想外の行動に反応できず、ハシントは抱き着かれて身動きが上手くできなくなった。


「今だ!! 殺れ!!」


「なっ!? まさか……」


 ハシントの身動きを止めたバレリオは、すぐさま大きな声で叫ぶ。

 魔闘術を使えるのも、もう残り僅かな時間しかない。

 ここで仕留めないと、ハシントを止めることはもうできないあろう。


「くっ!! 隊長!! すいません!!」

 

「ぐはっ!!」「ぐふっ!!」


 最後の手段に出るしかないと悟ったバレリオの覚悟を、ここで無にする訳にはいかない。

 言われていた通り、エべラルドはバレリオと共にハシントへ槍を突き刺したのだった。



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