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第240話

「くっ!! 無念っ!!」


 善貞のお陰もあって助かった命だったが、坂岡源次郎相手では少しの時間生き永らえたに過ぎなかった。

 自分の命がここで(つい)えるということを悟った八坂は、迫り来る源次郎の刀を目にしながら、最後になるであろう言葉を呟いた。


「っ!?」 


 しかし、八坂時兼の命は、そこで終わるものではなかった。

 美稲の町の方角から、魔力の弾が刀を振り下ろそうとしていた源次郎目掛けて飛んできたのだ。

 その攻撃を躱さなければならず、源次郎は攻撃を中断せざるを得なかった。


「くっ!?」


“キンッ!!”


 攻撃の中断をした源次郎が、弾が飛んできた方向に目をやると、続いて2発の魔力の弾が飛んでくる。

 顏と足に飛んできた魔力の弾のうち、顔に飛んで来たのは刀で弾き、足に向かって来たのはその場から飛び退くことで回避した。


「……誰だ!?」


「避けんなよ! 面倒な奴だな……」


 眉根を寄せ、源次郎が樹の陰から迫り来る弾を飛ばしてきたであろう人物に声をかけると、呟きながら歩いてきたその人物の顔をようやく見ることができた。


「ケイ!?」


「ケイ殿!!」


 この場に現れたのはケイだった。

 ケイの突然の登場に、源次郎だけでなく八坂も驚いた声をあげた。


「き、貴様!! 何で……!?」


 ケイはファーブニルを相手にしていたはず。

 ファーブニルなどと言う化け物を相手に、単独で挑もうなんて無謀も良いところだが、自分を犠牲にして足止めを買って出たのは、源次郎も敵ながら天晴れと思っていた。


「まさか……倒してきたのか?」


「まぁな!」


 一応ファーブニルを捕まえ直すための魔道具は用意していたが、動きを鈍らせるほどに痛めつけなければならない。

 ケイの実力なら、勝てないまでもその手間を省いてくれるほどにファーブニルを弱らせるてくれるだろうと思っていた。

 しかし、ボロボロの服や泥だらけの顔をしているとは言ってもこの場にいるということは、倒してきたということ。

 それを信じられないと言ったような表情で問いかけた源次郎に対し、聞かれたケイの方はどや顔で答えを返した。


「馬鹿な!? あの化け物相手に一人で勝つなんて……」


「……あんなの解き放ってんじゃねえよ!」


 解き放った張本人が化け物と呼ぶような魔物の相手をさせられ、ケイは若干憤りを覚え、台詞の終わりへ向かうにつれて語気が荒くなった。


「…………フッ!」


「んっ?」


 ケイがファーブニルを倒したということが、源次郎はどうしても信じられない。

 もしかしたら、上手く逃げて来たと言う可能性もある。

 だが、それを考えていても今は意味がない。

 そう考え、源次郎は鼻で笑った。

 その笑いに、ケイは首を傾げる。


「見た所、ファーブニルに痛めつけられ……」


「……何だ?」


 左腕が明らかに折れていることに気付き、源次郎は冷静になったらしく、余裕の笑みを浮かべてケイへと話していたのだが、その途中でいきなり中断した。

 それに対し、ケイはまたも首を傾げる。


「ケイ殿……」


「んっ?」


「その耳……」


「………………あっ……?」


 ケイの疑問に答えたのは、八坂の方だった。

 八坂の言葉にケイが手で耳を触ると、偽装用に装着していた右耳のカバーが壊れていて、エルフの特徴である長耳がさらけ出されていた。

 それに気付いたケイは、八坂と源次郎を見て固まった。

 エルフの国であるアンヘル島から遠く離れた日向の国に、エルフのことなど伝わっていないのかと思っていたが、2人の反応を見る限りどうやら気付かれているようだ。


「貴様……エルフだったのか!?」


「ったく、ファーブニルの奴と戦ったから壊れちまったか……」


 バレてしまったのなら仕方がない。

 それに、バレた所でたいした問題ではない。


「まぁ、別にいいか……。気付いてるのもここにいる人間だけのようだし……」


 八坂は一応今の所仲間だし、口止めを頼めば黙っていてくれるだろう。

 他の敵も仲間も、ここからは離れているし、戦っている状況ではケイの耳に気付くとは思えない。

 そうなると、 


「お前だけ仕留めりゃ大丈夫だろ?」


「……舐めるなよ。ファーブニルとの戦いで魔力も相当消費しているだろう? しかも手負いの貴様になど負けはせん!!」


 まるで自分を倒すことは簡単だと言うような態度のケイに、源次郎はこめかみに青筋を立てる。


「冷静な判断だが、お間も手負いじゃねえか……」


 怒りの感情が高まっているように見えるが、言っていることは的を射ている。

 たしかにファーブニルの相手をしたことで、魔力をかなり消費している。

 しかし、このような状態だからといって、ケイに戦う術がないわけではない。

 さらに、片腕というなら源次郎も同じ状況。

 ケイは右手に銃を持って戦闘態勢に入った。


「「………………」」


 お互い静かに相手の挙動に注視する。


「「ハッ!!」」


 まるで、お互いに敵の動きを読むかのように動かない時間が過ぎ、意を決したように同時に動き出す。


“パンッ!!”


「ぐっ!!」


 お互い一直線に距離を詰めようと敵に向かって突き進む。

 その途中で、ケイは源次郎へ銃を撃つ。

 それに対し、この攻撃でケイが自分の動きを止め、蹴り技で仕留めに来ると読んだ源次郎は、少し体を傾けて躱そうとする。

 だが、躱しきる事などできず、右肩に弾が当たる。

 そのまま、迫り来るケイに対し、被弾した源次郎もそのままの速度で直進した。


「っ!?」


「被弾は覚悟! ならば、当たり所を自分で決めれば我慢もできる!!」


 被弾しても動きを止めないで済んだのは、このことからだった。

 少しのにらみ合いの時間で、お互いこの戦いを長引かせることを良しとしなかった。

 ケイは八坂の他の仲間を救いに行かなければならないし、源次郎の方は八坂を一刻も早く殺したい。

 そのため、意見が一致したのか、この一合で勝負を決めることにした。

 実力的にはほぼ互角だと思っている源次郎は、接近中にケイに攻撃をされれば躱しきれないと判断した。

 それなら、攻撃を受けても我慢すればいい。

 エリートの剣術部隊といっても、その長の地位に付くまでに色々と修羅場を潜り抜けてきた。

 なので、強烈な一撃を食らうにしても、耐えられないことはないと思った。

 後は当たりどころの問題。

 そして、選んだのは今は使い物にならない右腕側。

 思った通りのケイの攻撃に、速度を落とさず急所への攻撃をずらす。

 そして、幸運にも攻撃が当たった場所は浅かった。

 そのため、速度を落とさずに済んだ源次郎は、勝利を確信してケイへと刀を振り下ろした。


「死ねーー!!」


「…………お前がな!!」


 呟きと共にケイの姿が消え失せる。

 そして、二人が交差すると、お互い動きが止まる。


「フッ!」


 そして、源次郎が笑みを浮かべた。











“ドサッ!!”


 斬り裂かれた場所から大量の出血をし、そのまま横倒しに倒れて動かなくなった。


「危ねえ、危ねえ……」


 立っているのはケイ。

 そして、銃を持っていたはずの右手にはいつの間にか刀が握られていた。

 その刀は、妻である美花の形見の刀だ。

 銃しか使わないで戦っていると、崖の上から見ていた源次郎は気付いていただろう。

 日向土産の飾りで、ケイが刀を使えるとは思っていなかっただろう。

 剣術ならば、美花と手合わせしている数が多いので、ケイも多少は刀を使える。

 当然、美花や日向の人間に比べれば落ちるかもしれないが、それでもかなりのレベルには達しているつもりだ。

 警戒していない攻撃なら、源次郎が相手でも十分通じる。

 後は、一ヵ所に魔力を集中させることで瞬間的に速度を上げれば、必然の勝利といったところだろうか。

 銃を撃ったのも、ギリギリまで銃しかないと印象付けるためのものだ。

 撃った次の瞬間、ホルスターにしまい、そのまま腰に差した美花の刀で源次郎の腹を掻っ捌いたのだった。

 勝利したとは言っても、源次郎の刀がギリギリを通った時はヒヤッとした。


「助かったぜ! 美花……」


 勝ったというのに少し寂しそうな表情に変わったケイは、勝利を得る決定打になった美花の刀に感謝の言葉をかけたのだった。



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