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第24話

主人公をアンヘル・ケイではなくケイ・アンヘルに変更しました。

“ポフッ! ポフッ!”


「…………んっ…………?」


 頬に柔らかい感触を感じ、美花はゆっくりと目を開く。


「っ!」


“ピョン! ピョン!”


「? 毛玉?」


 どれくらい寝ていたのだろうか。

 寝起きでぼやける美花のすぐ側には小さな黒い毛玉がいた。

 その毛玉には目がついており、美花が目を開いたのを確認すると、驚いたように目を開いて室内から外へと飛び跳ねて行った。


「……うっ! …………ここは?」


 体が痛むのを我慢し、美花はゆっくりと上半身を起こす。

 部屋の内部を見渡すと、人が住むのに最低限の調理器具やら家具が置かれている。

 どこかの宿屋だろうか。


「……私は…………波にのまれたはず…………」


 父が命を懸けて逃してくれた。

 逃走用の船の停泊場所が知られていたということは、当初予定していた北西方向の港町を目指しても追っ手が待ち構えているかもしれない。

 捕まったら両親の故郷の日向に連れていかれる。

 別に日向が嫌いなのではない。

 むしろ、1度くらいは両親の生まれ育った国を見てみたい。

 両親の話では、今の時期は桜と呼ばれる花が咲き誇る季節だそうだ。

 母は桜が好きだと言っていた。

 城の中で人形のように生きなければならない中で、城下をピンク色に染め上げて心を落ち着かせてくれたと……。

 母のように自由に生きろという父の最期の言葉通りにするには、人族大陸の中では難しい。

 いっそのこととそのまま獣人族が住む大陸を目指した。

 地図を見る限り、順調に行けば食料などはギリギリ間に合う。

 そのはずが、何度かの悪天候で方位を失い。

 食料が尽きて空腹に耐えながら、ようやく島を発見した所で波にのまれた。

 

 それらの記憶が少しずつ戻ってきた。


“ピョン! ピョン!”


「っ!?」


 美花は慌てて側に置いてあった自分の刀を手に取り、いつでも抜けるように警戒した。

 意識がはっきりした美花のもとに、さきほどの毛玉が戻ってきた。

 さっきは気が付かなかったが、この毛玉は魔物。

 しかし、美花はそれに警戒したのではない。

 毛玉に連れられて人の気配が近付いてきたからだ。

 もしも追っ手なら、斬り殺してでも逃走する。 

 そうした思いで、美花は迫り来る人間を待ち受けた。


「……………………天…………使?」


 現れた人間の姿を見て、美花は攻撃をすることを忘れて固まってしまった。

 見たことも無いような綺麗な顔をした、男とも女ともつかない人間が姿を現したからだ。


「……? 起きた?」


 現れたのはケイ。

 呆けたような表情で美花が動かないため、どうしたのか不思議に思い首を傾げた。


「……はっ!? ……いや、あの……」


 首を傾げるその姿すら人外じみて、斬りかかるタイミングを逃した。

 少しの間をおいてようやく意識を取り戻した美花だったが、ケイに敵意がないことに気付き、今の自分の態勢にばつが悪くなりうつむいた。


「刀を納めてくれないか? って、言葉通じてる?」


「……はい。 すいません。通じてます」


 ケイの方も、この世界で初めて会う生きた人間に警戒はしていたが、美花の警戒心が自分の顔を見た瞬間一気になくなったことで安心した。

 アンヘルの経験上だと、捕獲をしようとする人間がエルフを見たら、今の美花とは反応が逆だからだ。

 言葉が通じているか尋ねたのは、美花がアンヘルの見たこともない容姿をしていたからだ。

 むしろ、ケイの方がその容姿に見覚えがある。

 黒髪黒目の人間ならばアンヘルも見たことがある……というより追いかけられたことはある。

 が、それはヒスパニック系の人間。

 美花はモンゴロイド。

 つまり、前世の日本人そのもの。

 もしかしたら言語も違うのかと思った。

 だが、美花から帰ってきた答えは、この世界で一番使われている人族大陸の言語だった。


「俺はケイ・アンヘルだ。ケイでもアンヘルでも好きな方で呼んでくれ」


「……じゃ、じゃあケイ」


 自己紹介と共に手を出したケイの手を、美花は少し照れたように握った。


「私はミカ……よろしく」


 大陸の人間同様名前の後に名字を言おうと思った美花だったが、その名字は祖父の物。

 名乗るのはその祖父と繋がりが切れていないようなので不快に思い、咄嗟にケイには名乗らないことにした。


「家名があるということは貴族か何か……ですか?」


 祖父の名字を名乗らないと決めた以上、ただの平民。

 しかし、ケイには家名があるようなので、美花は貴族なのかと思った。

 そのため、言葉使いに気をつけなければならないのかもと思い、語尾に敬語を後付けした。


「いや、貴族とかそういうのではないから普通に話していいよ」


「……うん」


 優しく言うケイの笑顔に、何故か美花は顔が少し熱くなりうつむくように頷いた。


「はっ!?」


 うつむいて美花はすぐに、言うべきことを言っていないことに気が付いた。


「言うのが遅れて申し訳ありません! この度は助けていただきありがとうございました!」


 身を正し、ケイの正面に正座をすると、感謝の言葉と共に美花は深々と頭を下げた。


「……そんな気にしなくていいよ」


 あまりにも美しい所作に、たいしたことをしていないケイの方が照れてしまった。



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[一言] 「自分は名字を名乗らいと決めた以上、ただの平民。しかし、ケイには家名があるので、美花は貴族なのかと思った。言葉使いに気をつけなければならないのかもと思い、語尾に敬語をつけた。」 は?主人公…
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