第20話
年が明けた。
ここは南半球なので、季節は春から夏になった。
「石臼ってどういう構造だ?」
錬金術は便利だが、魔力を大量に使用するので1日に1回しかできないため、かなり使い勝手が悪い。
手に入れた魔石で、大工道具を幾つも錬成したが、揃えるのに結構な日にちを要した。
その大工道具も、島に流れ着く金属が少ないため、のこぎりだけが錬成できていない。
仕方がないので風魔法で切ったりしているのだが、コントロールを間違え、切りすぎたりすることがあるので、何か金属製の物が流れ着かないか待ちわびている。
それはさておき、天ぷらが食べたいケイは、食用の油を手に入れようと、一生懸命菜種を集めた。
それはいいのだが、搾る道具がない。
無ければ作ればいい。
ということで、作ろうと思ったが、石臼の構造がいまいち分からない。
そのため、錬金術で作ろうとした場合失敗する可能性が高い。
仕方がないので、ケイは筒を作り、棒で潰す方法でできないか試すことにした。
「このまま絞っていいのかな?」
ケイは菜種油の作り方なんて見たことがない。
しかし、ごま油の作り方はテレビで見たことがある。
ごまの場合、煎ったりしてから搾っていたいた気がする。
菜種も煎ってからの方が良いのだろうかケイは悩む。
少量を試しに煎ってから潰してみた。
どうやら煎ってからの方が良いらしい。
筒に入れて潰して濾す。
結構な量を潰したが、取れたのは小さじ一杯程度で割に合わない。
しかし、待望の油を手に入れられたのが嬉しくなり、同じ作業を繰り返して小さい鍋の底から2cm程の油を作ることができた。
「1回しかできないじゃん!」
かなり懸命に菜種を集めたのに、結果がこれでケイは落ち込んだ。
天ぷらで使ったら、一回で無くなってしまいそうだ。
「ちょっとだけ揚げてみるか……」
手に入った量は少ないが、ずっと期待していたので、この島に来て初めての揚げ物を試すことにした。
魚では小さくても油に浸からない。
野草を素揚げしてみることにした。
「…………苦い」
子供の味覚だからだろうか、どれも苦みが強く感じ、テンションだだ下がりでしかなかった。
これ以上使うのはもったいないので、菜種油は他の調理で使うことにした。
「……寝ちゃいそうだ」
大工道具があれば、大工の技術があるケイなら色々作れる。
島で集めた木材を使い、サマーチェアを作った。
日除けも作り、その下の砂浜に置いたサマーチェアに座りのんびりしていると、だんだん眠くなってくる。
寝ている時でも探知ができるようになりたいところだが、そこまで魔力のコントロールは上手くなっていない。
なので、このまま眠たら危険でしかない。
最近は畑で野菜を育て、海で魚介類や海藻を手に入れ、調査がてらに西に向かっては食肉になりそうな魔物を狩って来る。
そんな、ゆったりした時間を過ごせるようになってきた。
島に流れ着いた時ガリガリだったケイの体も、毎日十分な食事ができているため、普通の健康的な体型になってきたと思う。
ゆったり座っているケイのすぐ側には、手製の竿掛け(ロッドホルダー)に竿がかけてある。
釣竿を投げ、手製の竿掛けに竿を掛け、日除けの下でサマーチェアで魚がかかるまでのんびりしている。
その様は、まるで夏休みに海を楽しむ海水浴客のようだ。
寝ることができないことだけが難点だが、贅沢な日々が送れるようになった。
西の陸地の探索を進め、どんな植物が多いだとか、どんな魔物がいるのかなどを地道に調べている。
ある日、猪型の魔物を見つけた。
この世界の肉系の魔物は、人間に狩られることが多い。
だからだろうか、めっちゃくちゃ強く進化している。
遠くから見ていたのだが、突進してスライムを爆散させているのを見た時はビビったものだ。
もしも、軽自動車並みの大きさの猪が、迫って来たとしたらトラウマになりそうだ。
以前見つけた鶏といい、まだ戦わない方がよさそうだ。
遭遇する魔物で一番多いのは、やっぱりダントツでスライムだ。
倒しても魔石だけしかメリットがないが、欲しい物があった時に錬金術を行う用に集めている。
しかし、使い道もないのに集めていても、かさ張るだけでそのうち邪魔になりそうだ。
スライムだけでなく、蛇と蛙の魔物にも良く遭遇する。
食料源になるのでちょっとうれしく、当初あった食べることへのためらいもなくなりつつある。
腕の発達した鶏(エルフの書物で調べると、腕鶏と描いてあった)にも会うが、怖いのでまだちょっかいを出したことはない。
虫系の魔物も色々いて、結構頻繁に会う。
倒して鑑定すると一応食べられるらしいが、見た目が見た目なので、魔石だけ頂いて食べることは遠慮している。
夏になり、色々な植物が青々と生えている。
ただ、雑草が多いのが残念だ。
その中でも、桃の木を発見したのは嬉しかった。
色々な虫が集まっていて気持ちが悪く、魔法で追い払わなければならず、手に入れるのに苦労した。
食べてみたのだが、手入れのされていない植物は大体美味くない。
水っぽく甘みが少なかった。
これも手入れすればもしかしたら美味い桃ができるかもしれないので、育つかどうか分からないが10粒ほど木の鉢に種を植えた。
もちろん、木の鉢は手製だ。
手にいれた桃は、水っぽいが甘みが少しあるので果肉を煮てみた。
「……美味っ!!」
水分が飛んでドロドロになったのを舐めてみたら、甘みを強く感じた。
甘みの弱いジャムと言ったところだが、久々の甘みがうれしく、ケイは思わず叫んでしまった。
もっと作ろうと、ケイは少しの期間桃集めに集中することにしたのだった。




