表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
198/375

第198話

「ここまでだな?」


「ぐっ!?」


 村の近くの草原で、アウレリオとの組手も3日目。

 今日もケイの勝ちで終わりを迎える。

 少しだがケイの動きにも付いて行っているアウレリオだが、ブランクで鈍っている部分はそう簡単に治るような物ではない。

 毎日動きが良くなっているとは言っても、もう少しの間付き合わなくてはならなそうだ。


「ちょっと聞いていいか?」


「ハァ、ハァ、何をだ?」


 アウレリオとは早々に分かれるつもりでいたが、まだ少し相手をしなければならない。

 3日も顔を合わせていれば、多少仲は良くなるもの。

 なので、多少相手のことに興味が湧く。

 息を切らして座り込むアウレリオに、ケイは気になっていたことを尋ねることにした。


「奥さんはどんな病気なんだ?」


「………………」


 単刀直入に尋ねられたことで、アウレリオは少し俯いたまま固まる。

 眉間にシワが寄っているところを見ると、今にも奥さんの下に戻りたいのではないかと思える。


「言いたくないなら別にいいぞ……」


「……いや、世話になっている身だ。質問に答えよう」


 ブランクの解消となると、しばらくかかることになる。

 なので、ケイもタダで相手にしている訳ではない。

 とは言っても、旅の資金は自分で稼げるので、1日の食事代程度だ。

 そもそも、ケイにはアウレリオの相手をする謂れはない。

 アウレリオの状況に同情したのが理由で、付き合っているに過ぎない。

 そのことを、アウレリオも感謝しているので、質問に答えることにした。


「ドロレス病という名前の病気らしい……」


「ドロレス……?」


 前世の知識を合わせても聞いたこともない名前の病気に、ケイは首を傾げる。

 もしも知っている名前の病気だったら、力になってやるくらいの思いでいたのだが、知らないのではどうしようもない。


「色々な書物を調べて分かったのだが、この病にかかった女性の名前からとったそうだ」


「なるほど……」


 たしかに病気の名前を聞いた時に思ったのは、女性の名前のようだと思ったが、そういうことかとケイは納得する。

 それと同時に、奥さんを助けるためにアウレリオも色々調べたのだなとケイは思う。


「その女性も、結局は助かることなく、亡くなったと書かれていた……」


「そうか……」


 その後、症状を聞く限り、奥さんのドロレス病の症状は薬で何とか抑えている状況ではあるが、良くなる傾向が見られないでいるそうだ。


「奇跡的に薬で治った人間もいたと、ある文献に小さく書かれていたのだが、それが何を調合したのか分かっていない」


「それは困ったな……」


 魔法があるせいか、この世界の医学はなかなか成長しない。

 回復魔法が効かないような魔法は、呪いで片付けられることが多い。

 そのため、そのドロレス病も昔は何かの呪いなのではないかという話だったそうだ。

 どこかの国の医者の娘がドロレス病にかかり、懸命に看病をして症状を抑えることができたため、ようやく病なのだということが分かったらしい。

 何にしても、どんな薬で助かるのか分からなくては助けようがない。


『再生魔法をしても何度も病気にかかる……』


 アウレリオに聞いた話をもとに、ケイは考え込んだ。

 回復魔法が効かないとなると、何かしらのウィルスという可能性が考えられる。

 しかし、この世界ではウィルスという概念よりも呪いという方向に考えがちで、説明してもあまり意味がないだろう。

 結局、ドロレス病がどんな病気なのかは完全には分からないだろう。

 足にウィルスが溜まる病気なのだとしたら切断して済む話なのだが、それが何度も起きるということは、問題は足じゃないと思える。

 もしかしたら、どこかの神経系に問題があるのではないだろうか。

 とはいっても、医学の知識なんて何もないケイには治療法なんて思いつかないし、発見する方法が思いつかない。


「……どんな薬を使っているんだ?」


 対処法がないと言うなら何もできないが、症状を抑えられているということは何かしらの成分が効果を示しているということになる。

 単純に考えれば、その成分を多くした薬を処方すれば症状を回復させられるのではないか。

 そう思って、ケイはアウレリオに今奥さんが飲んでいる薬のことを尋ねることにした。


「普通の薬草に、エスペラスという貴重な植物の実を煎じた物を使っている」


「エスペラスだと……? あんなのが貴重なのか……?」


 エスペラスという言葉に、ケイは小さく呟く。

 その実はアンヘル島にも自生している植物の実だ。

 殺菌作用があると言って、島でも漢方として風邪を予防に飲用してきた。

 獣人のみんなが教えてくれた情報だ。

 一応食べられるようだったので、ケイは島に着いてすぐの時に一度食べ、すぐに吐き出した思い出がある。

 そのため、ただの不味い実という印象が強い。


「そのエスペラスも、栽培が難しいらしく、野生の実を収穫することが難しい。手に入っても品質によっては効果が薄く、進行を止められない場合がある」


『あんなの、島じゃそこかしこに生えていた気がするけど……』


 栽培も採取も難しいなんて、ケイは信じられなかった。

 アンヘル島ではエスペラスの実は放って置いてもなる物で、無くなって困るようなことはなかった。

 それだけ簡単に手に入る物であったので、貴重と言われてもピンとこない。


「エスペラスを多めに使ったことはないのか?」


「使えるわけないだろ? なかなか手に入らないのだから」


「そうか……」


 普通の薬草にエスペラスが入っているだけで症状が治まっているというのなら、エスペラスを大量に仕入れ、一気に使用してみるという手もありなのではないだろうか。

 あんな不味いの大量に飲めと言うのはかなり可哀想だし、薬でもなんでも過剰に摂取すれば良いという物ではないということも分かるが、それで治るかもしれないなら試す価値があるように思える。

 そう思ったのだが、この人族大陸ではエスペラスが育たない環境のようで、試すことすらできないようだ。


「……帰るわ」


 エスペラスの実を手に入れれば、アウレリオとも離れられるのだが、簡単に手に入れるのならアンヘル島に帰るのが手っ取り早い。

 しかし、ケイは半ば家出中の身。

 島には帰りづらい。

 エスペラスの実のことは、とりあえず宿屋に帰ってから考えようと、ケイはキョエルタの村に戻ることにした。


「また明日も頼む」


「あぁ……」


 話を聞き終わり、ブツブツ独り言を言い出したケイ。

 村へと向かうそのケイの背中に対して、アウレリオは明日も稽古の相手をしてもらう約束した。

 その言葉は耳に入ったらしく、ケイは軽く手を上げて返事をしたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ