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第179話

誤字報告をしてくださった方、ありがとうございます。

改めて間違いの多さに申し訳なく思っています。

「こちらが今この国で一番容量が多い魔法の指輪です」


 そう言って、セベリノは指輪が入った小さなケースをケイに見せた。

 魔族の襲撃を防いだ謝礼として、ケイが求めた魔道具だ。

 魔法の指輪はセベリノの父であり、このドワーフ王国の国王であるマカリオが幼少期に作り上げた代物だ。

 これによって、ドワーフの国が鍛冶だけの国ではないということを世界に知らしめることになった。

 最初は僅かな容量しか収納できなかったが、モノづくりのスペシャリストであるドワーフたちの手によって、次第に収納できる量が増えた物が作れるようになっていった。

 魔法の指輪を求めた理由は、ケイたちの島民の食料確保に使うためだ。


「途中で入れる物がなくなってしまったので、容量の限界は分かっておりませんが、最低でも数千人分の食料は余裕で入りますよ」


 記録に挑戦だか何だか知らないが、酒に酔った者たちが調子に乗って作り出したのがこの魔法の指輪で、出来たスペックを調べた所、近場にあった物がすっからかんになるほどの容量があった。

 あまりにもとんでもないものが出来たので、作った者たちは王家に献上してきたとのことだ。

 元々、ドワーフにとって魔法の指輪は、仕事道具と好きな酒が十分な量入れておければ良いだけで、それ以上に容量を大きくする必要がない。

 調子に乗って作ったはいいが、ただの宝の持ち腐れになるだけだ。

 ならば、王族に献上して、使ってもらった方が良いと思ったのかもしれない。

 魔法の指輪に関しては、研究によってどれほどの魔力や魔石が必要なのかというのは分かっている。

 なので、素材と人数さえそろえば、これと同じような物はまた作ることができるため、この指輪をケイに渡したとしても問題ないらしい。


「そんなに……ですか?」


「えぇ」


 ケイたちの住むアンヘル島の住民は、駐留しているカンタルボスの兵を合わせても100人にも満たない。

 いきなり千単位と言われてもピンとこないが、それだけの人数を養えるだけの食料が入れられるのであれば、これほど助かる物はない。


「しかも、状態保全の機能も付与しているので、賞味期限を2~3倍近く延ばすことが可能になります」


「えっ!?」


 そんな機能まで付いているなんて、とてもありがたい。

 保存食を作って大量に入れておくつもりだったが、そんな機能付きなら保存食でなくても大丈夫そうだ。

 その日できた野菜を放り込んでおけばいい。

 ラノベのように魔法の指輪があるのはいいが、この世界のは少々不便だ。

 魔法の指輪内に収納した物の品と数が、画面表示されるとかいったようなことはないため、入れた物と数をきちんとメモしておかないと、忘れて腐らせてしまうということだ。

 この指輪なら、それもあまり気にしなくて良さそうだ。


「ありがとうございます。助かります」


「これで、食糧問題が起きたとしても大丈夫そうね!」


 書いたメモも中に入れておけばいいのだから問題ないかもしれないが、そのメモも分厚くなってしまいそうだ。

 とはいえ、美花が言ったように、これで島にとって一番恐ろしい食糧問題が解決したも同然だ。

 セベリノへ頭を軽く下げ、ケイは感謝した。


「喜んで頂けて何よりです」


 これほどの魔法の指輪を作ることなどこれから先あるかどうか分からないが、いつでも作れるような物で喜んでもらえたのであれば、セベリノの方としてもあげる甲斐がある。


「そして、こちらもお譲りしようと……」


「んっ……? こちらは?」


 たしかに、魔法の指輪が欲しいとは言ったが、当然一つだけのつもりでいた。

 そのため、セベリノから先程の指輪と見た目が同じ指輪を渡されて、ケイは困惑する。

 この指輪を渡される意味が分からないため、ケイはセベリノへもう1つ渡される理由を尋ねた。


「こちらは、容量は先程のよりもかなり少ないですが、同じ機能の付与された魔法の指輪です」


「はぁ……?」


 説明を受けても、何故もらえるのかが分からない。

 そのため、ケイはいまいちハッキリしない返事になる。


「こちらはどなたか(・・・・)にお渡しください」


「…………なるほど」


 チラッと美花を見つつ「どなたか(・・・・)」と言ったことで、ケイはようやくセベリノの意図が分かった。

 つまりは、美花へのプレセントとしてとおそろいの指輪を譲ってくれたということだろう。

 男性が女性に指輪を渡すのは求婚を意味し、セベリノが美花に直接渡すのは外聞的によろしくない。

 しかし、セベリノがケイに譲った物を、ケイが他の人間に渡そうが特に問題はない。


「しかし、さすがにこれはいただき過ぎでは?」


 魔族の襲撃を防いだことを感謝されての譲渡とは言っても、ここまでされると何だか気が引ける。

 一緒に戦ったリカルドへは武器を譲ったが、性能の差はあるとは言っても、ケイだけ2つももらってはリカルドへもなんとなく悪い。


「…………実は、こちらはケイ殿には折り入って頼み事がありまして……」


「頼み事……ですか?」


 セベリノの言葉に、ケイはちょっと安心した。

 「タダより怖い物はない」という言葉が頭をよぎり、何かあるかのと思ったが、頼み事と言われたことで、2つもらえる理由が分かったためだ。


「膨大な魔力の量で知られるエルフがこの国に訪問するという話を聞き、魔道具制作班が協力をしてもらえないかと言って来てまして……」


 魔道具を制作するには、錬金術を使用することが多い。

 そして、錬金術はやたらと魔力を使用しなければならない。

 そんな時、魔法に愛された種族とも言われるエルフのケイが来訪すると聞いて、魔道具製作班が協力を求めてきたそうだ。

 ケイが協力してしてくれれば、成功の確率が上がるだろうと考えた魔道具制作班が頼んでくるのも仕方がないことだ。


「…………それに協力をしろと?」


「いえ……、決して強制ではないです」


 美花とおそろいの指輪というのは欲しいところだが、ケイとしては別に容量の多い方がもらえるだけでも全然構わない。

 錬金術で魔力をガンガン使うとなると、相当疲労することになりそうだ。

 なんとなく気が乗らないため、ケイもどうしようか悩む。


「……いいですよ」


「おぉ! ありがとうございます!」


 魔法の指輪は、多くあっても困らない。

 そう考えると、貰えるなら貰っておきたい。

 それに、興味がある魔道具開発に関われるのであれば、ノウハウを見れるチャンスだ。

 そのため、ケイはセベリノの頼みを聞くことにしたのだった。



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