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第178話

「リカルド殿! ケイ殿!」


 2体の魔族を倒してドワーフの王城へ戻ると、セベリノがケイたちを待ち受けていた。

 魔族がいたことと、それを倒してきたということはもう伝わっているらしく、かなり嬉しそうな表情をしている。

 王子であるということ考えなければ、駆け寄ってきそうなほどだ。


「この度はご助力ありがとうございました!」


「なんの!」


「どういたしまして」


 セベリノは、感謝の言葉と共に2人に頭を下げる。

 ドワーフたちだけだったら2体の魔族の存在に全然気付けず、もっと甚大な被害が広がっていたかもしれない。

 それを考えると、セベリノからすれば頭を下げるくらいでは足りないくらいだ。


「魔族がいなくなり、数が増えることがなくなったため、残りの魔物は我々自身で始末します」


 魔物が何度倒しても増えてくる原因が分からず、いつまでも戦い続けなければならなかった時とは違い、魔族という元凶に苦しめられていたということが分かった今、もう迷いなく戦うことができる。

 元々、ドワーフは大抵の魔物と戦えるだけの力を持っている種族。

 ここから先はケイたちに迷惑をかける訳にはいかない。


「城の者に案内をさせますので、お二人はお寛ぎ下さい」


「了解した」


「ありがとうございます」


 残っているアンデッドの魔物たちと、これまで倒してきた魔物の残骸を放置しておく訳にはいかない。

 残骸に魔素が集まって、新しいアンデッドの魔物ができてしまっては二度手間になってしまう。

 それらの始末をしなくては市民も安心できないだろうし、ケイたちの相手もまともにできない。

 後始末にいっている間、城内で待っていてもらうおうと、セベリノは近くにいたメイドに指示を出し、ケイたちを案内させたのだった。






 セベリノもトップとして戦場に向かっているなか、ケイたちが城内でのんびりと過ごしていると、美花たちとリカルドの護衛たちが案内されてきた。

 魔物の脅威も去ったことで船をようやく停泊させることができ、入国をすることができたそうだ。

 美花たちも加わってしばらくすると、後始末が終わったセベリノが城内へ戻ってきた。


「この度はまことにありがとうございました。御二人のご助力がなければどれ程の損害を受けていたか分かりません」


「お気になさらず」


「困ったときはお互い様と言いますから」


 護衛や美花のことを紹介し終えると、セベリノは改めてケイたちに頭を下げて礼を述べてきた。

 リカルドにちょっと痣ができたくらいで、たいして苦戦をしたつもりはないが、それはそれとして、ケイとリカルドはありがたくセベリノの礼を受け入れた。


「魔物のことでお騒がせしましたが、我が国へお越しいただいたこと感謝いたします。父に代わって感謝申し上げます」


 ケイたちがこの国に来た元々の目的は、ドワーフ王国の国王であるマカリオに会うためだ。

 そのマカリオは、体調不良で床に伏して安静にしている状況なため、会うことはできそうにない。

 それでも、王子のセベリノに恩を売れただけでも、ケイたちは良しとするところだ。


「今回お越しいただいたお礼という訳ではないですが、何かお望みの魔道具を差し上げようと思うのですが……」


「……宜しいのですか?」


 セベリノの言葉に、ケイが反応する。

 魔道具は物によっては相当な金額をする。

 それをポンとくれると言うのだから、思わず確認をしてしまった。


「大丈夫です。父からも了承は得ております」


 大金の魔道具をタダでくれるとなると、いくらこの国の王子のセベリノでも独断でどうにかできるとは思えない。


 セベリノが魔物の後始末に出ている時に、宰相のゴンサロにこの国のことをチョコチョコ聞いていたのだが、この国の王位は世襲制らしく、マカリオの子供はセベリノだけらしい。

 なので、セベリノは跡継ぎに決定しているのだが、だからと言って魔道具を好き勝手出来るような権利を有していない。

 天才マカリオのアイディアによって、多くの魔道具が開発され、ドワーフ王国は発展してきた経緯がある。

 魔道具がこの国の生命線でもあるので、好き勝手にしようものなら、市民から大ひんしゅくを受けること間違いなしだ。 

 そのためにも確認したのだが、ちゃんと了承を得ていると聞いて安心した。


「……私はこの武器が気になった」


 この話題が出ることが分かっていたように、リカルドは話し始めた。

 そして、セベリノから借りていたハンマーを取り出したのだった。


「なかなかしっくりくる武器がなかったので、これを機に何か欲しくなった」


 戦っている時にも感じていたが、このハンマーは珍しくしっくりくる武器だった。

 大抵がリカルドのパワーに耐えきれず、あっという間に壊れてしまうのだが、これは全然平気そうだ。

 戦いのバリエーションを増やすにも、耐えきれる武器がなければ話にならない。

 その一つとして、この武器を手に入れることにしたようだ。


「その武器でよければどうぞお持ちください。作った者としては、自分の武器がリカルド殿ほどの武術者に気に入って貰えて嬉しいです」


 このハンマーを作ったのは、セベリノだ。

 父のように色々な分野で功績を残している訳ではなく、セベリノは一番得意だと思った鍛冶技術の習得に力を入れた。

 マカリオが特別なだけで、これまでのドワーフ王は鍛冶の方が得意な者が多かった。

 色々な分野で父には勝てなくても、この分野では歴代の王と同等の能力を有しているという自信があっため、セベリノはなんとか性格が捻じ曲がること無く済んでいるのかもしれない。

 獣人の国の中でもかなり上位の戦闘力の持ち主であるリカルドに認められる武器を作ったということに、鍛冶師としてセベリノの内心は喜びで満ち溢れていた。


「ケイ殿は何が宜しいですか?」


「ん~……、そうですね……」


 突然言われても、どんなものがあるのかも分からない。

 アンヘル島に必要な物が何なのか、もしくは自分に必要な物を選んだ方が良いのだろうか。

 そう考えると、何を選んでいいかなかなか思いつかない。


「……容量の多い魔法の指輪なんて良いんじゃない?」


 ケイがどんな魔道具にするかを悩んでいるのを見て、美花が一つの提案をしてきた。


「……魔法の指輪?」


 美花の提案に、ケイは考え込んだ。

 ケイが今している魔法の指輪は、前世の記憶が戻る前のアンヘルの時に渡されたものだ。

 迫害を受け続けたエルフが、長い年月少ない資金を集めて手に入れた貴重なもので、アンヘルの記憶が残るケイにとっても、無人島生活で大変世話になった代物だ。

 しかし、何とか手に入れられた思い入れのある品でも、容量が少ないという欠点がある。

 ケイたちの住むアンヘル島は、まだまだこれから発展して行く島で、島民はこれからどんどん増えていくだろう。

 そうなると、食料のことなどが心配になって来る。

 転移魔法で、リカルドのカンタルボス王国へ行って調達するという手もあるが、カンタルボスも毎年豊作で居続けるという保証はない。

 美花の言う通り、確かに色々と溜め込むためにも容量の多い魔法の指輪が選択としては正しいかもしれない。


「そうだな。セベリノ殿、容量の多い魔法の指輪を頂けないだろうか?」


 魔法の指輪は容量が多ければ多い程、高額な金額になる魔道具。

 そういった意味でも、そんな貴重なものをタダで手に入れることができ、不謹慎ではあるが、ケイは今回倒した魔族たちに内心感謝した。


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