第171話
「魔物の出現?」
「えぇ……」
入港できずにいたため、船から岸へと跳んだケイとリカルド。
ドワーフ国内がどこか慌ただしい雰囲気が流れていたため、情報を得るために王城を目指した。
リカルドのお陰もあり、王城にたどり着いた2人は、すんなりと中へと案内してもらうことができた。
そして現在目の前にいるのは、この国の宰相のゴンサロというドワーフだった。
島に入った時からそこかしこにいるドワーフを見てきたが、やはりイメージ通りの体型をした者たちだった。
大人でも150~160cm位の身長で、全体的に太い体はずんぐりした体型をしている。
男性も女性も体型的には同じようで、男性の場合は髭を蓄えているのが特徴になっているようだ。
手先が器用だという話だが、見た目からだと本当かどうか信じられない気もしてしまう。
ケイたちが今話している宰相のゴンサロも体型とかは同じで、彼が違うのは顔と服装くらいだろう。
「恥ずかしながら、状況は上手くいっていおらず、多くの兵が怪我をして撤退を余儀なくされている模様です」
「なるほど……、それでみんな避難準備をしているのか……」
魔物に圧されているなんてことを国民に知らせれば、パニックになってしまうという可能性もある。
しかし、知らされていない状況では、逃げる機会すらなく魔物に蹂躙されてしまうかもしれない。
この国の住人は、どうやらこう言った時の対処法を訓練しているのか、慌てているようでもパニックには陥っていない様子だった。
「お2人には申し訳なく思っております。わざわざ来ていただいたのに……」
この国に来たのも、会いたいと言ったドワーフ王の希望に合わせて来たと言うのに、入国もまともにできない状況になっている。
そのことに対し、宰相のゴンサロは申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「マカリオ殿は大丈夫なのですかな?」
リカルドが言ったマカリオとは、この国の王の名前だ。
エルフのケイに会ってみたいと言っていた張本人なのだが、この非常事態に出陣しているのだろうか。
「マカリオ様は……体調が優れず、床に臥せっている状態です」
「何っ!? 大丈夫なのですかな?」
「えぇ、熱が高いですが、状態は安定しています」
現場に出て、指揮を執っていると思ったのだが、マカリオはそれとは関係なく体調不良で動けないでいるそうだ。
人の倍近い寿命のドワーフ族。
しかし、マカリオはもう250近い年齢になっている。
なので、いつ体調を崩してもおかしくはないとは言え、不運は重なるものだ。
「そういえば、最近会った時も顔色がいまいち良くなかったな……」
年齢的にはいつお迎えが来てもおかしくない。
程度の差があるが、ここ数年体調を崩すことが何回かあったと聞いている。
今回も、年齢による抵抗力の低下からの発熱かもしれない。
「ゴンサロ様!!」
「どうした!?」
ケイたちと話している最中ではあるが、差し迫った状況のため、ゴンサロは報告に来た兵のことを優先することにした。
ケイたちも状況を理解したので、別に失礼だとかは思わない。
その兵の報告を黙って聞いているつもりだ。
「それが……」
報告に来た兵は、リカルドがいることに若干戸惑いながらも、ゴンサロに状況を話し出した。
何度倒しても補充される魔物。
それによって、じり貧になり、全軍が撤退して来たということを説明した。
「何!? 全兵撤退だと?」
「はい……」
ドワーフ族は、人間よりも全体的に太い肉体をしている。
その肉体から繰り出される攻撃は、威力が高い。
しかも、鍛冶の能力も高いことから、使用している武器もかなりの業物だったりする。
ほとんどの兵は、大抵の魔物相手に後れを取るようなことはない。
なのに、その兵たちが撤退を余儀なくされるなんて、よっぽどの敵なのだろう。
「マカリオ殿がいない状況で、誰が指揮を執っているのですかな?」
王であるマカリオは、魔道具開発の天才と言われ、この国の発展に寄与した人間だ。
魔道具だけでなく、魔物の襲来に対しても兵を率いて退けたことも何度かあった。
彼がいることで、ドワーフたちは一枚岩となって前へ進むことができてきたのだ。
そのよりどころがない状況で戦うとなると、もしかしたら連携が上手くいっていないのかもしれない。
そのため、リカルドは指揮を取っている者が誰だかを尋ねたのだった。
「王子であるセベリノ様です」
「セベリノ殿か……」
マカリオの息子のセベリノ。
父が天才なだけに、かなりのプレッシャーを受けて育ってきている。
しかし、彼は父には勝てずとも懸命に自身を高める努力をし続けてきた。
それを認めている人間も少なからずいる。
ただ、やはり父であるマカリオに比べれば見劣りする。
「ゴンサロ殿。我々が助力に向かおう」
「「っ!?」」
リカルドの提案に、ケイとゴンサロは目を見開く。
ゴンサロは、自国のことでもないのに、リカルドほどの男に助けをもらえるということで、ケイの場合は我々ということは自分まで数に入っているということにだ。
「しかし、お客人を危険な目に遭わせるわけには……」
「何、危なくなったらちゃんと引かせてもらうつもりだ」
ゴンサロが2人のことを心配しているが、他国のために命を懸けるつもりはリカルドにはない。
当然ケイにもだ。
2人とも危険だと分かれば、遠慮なく撤退をさせてもらうつもりだ。
「勝手に決めてしまったが宜しいか? ケイ殿」
「えぇ……、構いませんよ」
事後承諾のような状況でリカルドはケイに言って来る。
元々はドワーフ王国とのつながりを持つことができればいいと思っていたケイ。
なので、手伝うのは構わない。
ただ、勝手に決められて、この状況では断りづらい。
内心仕方なく、ケイはリカルドと共に魔物の退治を手伝うことにした。




