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第153話

「あの魔物使いに近寄って見るか……」


 これから先どうするか悩んでいたケイは、独り言のように呟く。

 このままあの魔物使いを放って置けば、恐らく東にある軍の駐留地で軍によって仕留めれるか、周辺都市から集まった大規模兵団によって仕留められるかになって来るだろう。

 王都を壊滅させたことだけでもあの魔物使いを復活させた意味がある所だが、ケイに処刑されたベルトランに変わって現国王となったサンダリオの殺害ができていないのが心残りだ。

 魔物使いの相手をしている隙に仕留めるという策も思いつくが、そんなチャンスが来る前に魔物使いが殺られてしまう可能性もある。

 そのチャンスを作るためにも、少しだけあの魔物使いに接近してみるのもいいかもしれない。


「えっ!? 危なくないか?」


 一緒に来たレイナルドからすると、そんな火中の栗を拾うようなことをするのは遠慮したい。

 ケイならば相手にできるかもしれないが、それでも多くの魔物に近付くなんて危険すぎる気がする。


「お前はここにいてくれ。俺が接近する」


 そもそも、他の誰にも何も伝えずに来ている2人。

 レイナルドに怪我されたら、後で美花に何を言われるか分かったものではない。

 なので、ケイはレイナルドを置いて一人で接近してみることにした。


「……分かった」


 もしかしたら、足手まといになるかもしれない。

 ケイにそう判断されたのだろうと、レイナルドは若干表情を曇らせる。

 しかし、それも仕方ないことかもしれない。

 まだ自分がケイやカンタルボス王国のリカルドに実力的に及んでいないことは分かっている。

 なので、レイナルドはケイの指示に従うことにした。


「じゃあ、行って来る」


 そう一言告げると、ケイはレイナルドの側から動き出したのだった。







『いたっ!』


 離れた場所から気配を殺して少しずつ接近したケイは、魔物使いの男を発見した。

 この周辺で集めた魔物はたいした魔物ではないからか、ケイの存在に気付いていないようだ。

 ケイにとっては好都合だ。


「グウゥゥ……!!」


『……会話ができそうにないな』


 木の陰に隠れつつ男のことを観察してみると、目がいっちゃってる感じで言葉なんて通じなさそうに思える。

 話ができるなら接触を試みる所だが、どうやらそれも無理そうだ。


『正気を失ってるのか? だったら……』


“パシュ!!”


 自分を封印したリシケサの兵のことだけは分かっているのか、魔物を兵に向けてけしかけている。

 正気を失っているのなら、もしかしたら衝撃を与えれば治るかもしれない。

 そう考えたケイは、小さめの魔力の球を作って魔物使いへと放り投げた。


「ガッ!?」


 ケイが放った魔力の球は、衝撃的には大したことない。

 しかし、目を覚ますには十分だったのか、魔力の球が頭に当たった魔物使いの男は、周囲をキョロキョロと見渡し始めた。


「…………あれっ!? 俺は……」


 衝撃によって正気に戻ったのか、これまで呻るだけだった男が、まともな言葉を話し出した。

 どうやら、何故ここにいるのか分かっていないように見える。


『おっ? 結構あっさり戻った……か?』


 その様子を見たケイは、密かに笑みを浮かべた。

 会話ができるなら男とのコンタクトを取ろうかと考えていると、魔物使いの様子がまたすぐに変化した。


「あ、あの国旗は……」


『なんだっ!?』


 国旗を見てまた怒りが込み上げてきたのか、魔物の男の表情が変化していった。

 すると、男の姿までも変化しだした。

 頭に触覚、虫特有の足が4本、肉体も見た感じ堅い表皮に変わっていく。

 何の虫かは分からないが、人間の姿からいくつかの虫の容姿を組み合わせたような姿へと変化した。


「ぶっ殺す!!」


『何だよあれ!?』


 魔物使いは、虫の姿をしていながら言語を放つ。

 その異様な姿に、ケイは内心焦りを覚えた。

 肉体が変化したことによって、どうやら男の戦闘力も上昇したようで、魔力は格段に増えたように見える。


「………………」


『っ!?』


 ジッとその様子を見ていたケイだったが、その観察をすぐに中止して逃げ出す羽目になった。

 肉体が変化したことによって、魔物使いの男の察知能力も上昇したのか、男の目がいきなり自分に向いたのだ。

 変化した男の能力は、察知以外も上昇しているかもしれない。

 戦力が分からないので、戦ったらケイでもどうなるか読めない。

 そうなると、隠れているだけでは危険と判断したケイは、逃走の一択しか思いつかなかった。 






「父さん!? 何だよあれっ!?」


 慌てたように戻って来たケイを見て、レイナルドの声も若干高くなる。

 それもそのはず、遠くから見ていたレイナルドにも、魔物使いの姿が変化したのが見えたからだ。


「知るかよ!」


 聞かれたケイも、初めての出来事だったため言葉がきつくなる。

 額には嫌な汗が一筋流れた。


「魔力の流れが変に見えたのは、普通の人間じゃなかったってことみたいだ……」

 

 よく考えてみたら、もっと早く分かっていたことかもしれない。

 そもそも、大昔に封印されて生きているということ自体がおかしい。

 人間の寿命は優に超えているだけで、まともじゃないのが分かる。

 昔、自分を封印した人間が付けていた国旗と同じものを、封印が解かれてすぐ側にいた人間も付けていたということに、もしかしたらケイは救われたのかもしれない。

 魔物使いの男改め、虫男はケイのことは相手にせず、リシケサの兵がいる方へと進んで行った。


「……気に入らねえな」


「……父さん?」


 まるで自分のことは眼中にないと言われたような虫男の態度に、ケイは内心怒りが湧いてきた。

 何だか舐められた気がしたからだ。

 血管を浮き上がらせているケイに、レイナルドは首を傾げる。

 そんなことで腹を立てるなんて、自分の父は結構短気なのだろうか。


「大丈夫だ。腹は立つが、仕掛ける気はねえよ」


 このまま進めば、虫男は大量の兵と戦うことになる。

 いくら虫男の戦闘力が上昇したとは言っても、たいした魔物を補充していない状態では殺されるのがオチだ。

 自分の感情に任せて危険な目に遭う必要なんてない。

 虫男がこのまま進むなら放って置けばいいのだ。

 もしかしたら、ケイがサンダリオを討つチャンスを作ってくれるかもしれない。


「このまま放置だ」


「了解」


 東の軍の駐留地まではまだ距離的に遠い。

 なので、そのチャンスもすぐにはやって来ないだろう。

 ここにいてもやることがなくなったケイとレイナルドは、虫男をそのまま放置して、また島へと帰ることにしたのだった。



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