第149話
「こんなことして大丈夫かな?」
「大丈夫だろ? どうせ転移してしまうんだから」
ケイがレイナルドと共に転移したのは、リシケサ王国の王城にある地下だ。
誰かいないか不安に思いながらの転移だったが、誰もいないことに2人は一先ず安心した。
ここに来たのは、何度も迷惑をかけられて一回の襲撃で済ませるだけではスッキリしないため、ケイはもう少しこの国に憂さを晴らしたかったからだ。
やることは簡単、この城の地下に封印されている何かを、解放してしまおうというだけだ。
何が封印されているかは分からないが、解いてしまえばこの国が混乱するのは予想できる。
レイナルドが心配しているのは、封印を解いた自分たちが被害を受けるのではないかということだろう。
しかし、どうせ解いたらすぐ逃げるのだから、心配する必要はないだろう。
「俺たちが巻き込まれたらシャレにならん。変化が起きたらすぐに転移できるようにしておいてくれよ」
「了解」
レイナルドにいつでも逃げられる心の準備をしてもらい、ケイは魔法陣へと近付いていった。
「まだ消えてないな……」
魔導士たちが封印を解くために相当な量の魔力を流し込んでいたらしく、いまだに魔法陣は3分の1ほどの部分が光を放っている。
後どれほど魔力が必要か分からないが、そのおかげで多少の省エネができるだろう。
「ムンッ!!」
もしかしたら誰か下りてくるかもしれない。
さっさと封印を解いてしまおうと、ケイは魔法陣へ魔力を放出し始めた。
「思ったより早いな……」
5分もしたころ、魔法陣の全部が光り始めた。
それを確認したケイは、魔力を放出するのをやめて、魔法陣から少し離れた。
魔導士たちの魔力もあったとはいえ、些か早く感じる。
「レイ!」
「OK!」
魔法陣の全てが光り輝き、その光がジワジワと強くなりだした。
恐らく封印が解ける前兆なのだろう。
そう判断したケイは、レイナルドへ声をかける。
レイナルドもそれだけで理解したのか、転移の魔法を発動させる。
そして、封印から何が出るのかを確認せず、ケイとレイナルドは転移してその場を去っていった。
「んっ? 何だ?」
ケイたちが密かに現れ、封印を解いて居なくなった後。
王となり玉座の間で今回の襲撃による被害状況の報告を受けていサンダリオは、下から軽い振動を感じた。
地震かと思ったが、たいした揺れでもないのですぐに興味は失せた。
「サンダリオ様!!」
「何ごとだ!?」
振動を無視して話の続きをしようとしていたサンダリオの下へ、慌てた兵が1人室内へと入って来た。
その慌てっぷりから何か面倒事でも起きたのかと感じ、サンダリオは若干いら立ちを募らせる。
「ち、地下の封印が解けました!」
「ハァ? なんでだよ? あれの復活には父上が失敗しただろ?」
その兵の報告を聞いて、サンダリオは驚きの声をあげる。
この国に昔から伝わる話では、悪魔が封印されているという地下の魔法陣。
追い詰められた父のベルトランは、その封印を解こうとしていたが、結局封印が解けることはなかった。
そのうちまた魔力がなくなり、魔法陣も治まるだろうとサンダリオは放置していた。
なので、封印が解けるはずがない。
「何故だか分かりませんが、地下へと続く階段から光が漏れてきたのを確認して、異変を感じた者が何事かと下りて行ったところ、封印の魔法陣が光を放っておりました」
封印を解こうにも相当な魔力を必要とするはず。
なのに、何もしていないのに封印が解けてしまったのでは、意味が分からない。
「悪魔が封印されているという言い伝えだが、どんな悪魔なんだ?」
「あまりにも昔のことなので、我々にも分かりません」
昔から悪魔が封印されていると言われている魔法陣だが、その悪魔がどれほどの実力を持っているかは誰も分からない。
「兎も角、何としても仕留めねば……! 兵を集めろ!」
「かしこまりました!」
どんなものが封印から解き放たれたのかは分からない。
しかし、なんにせよ始末してしまうのが手取り早い。
指示を受けた兵は、すぐに部屋から出て兵たちを呼びに向かったのだった。
「……………………」
多くの兵が集結して地下へと向かうと、魔法陣があった場所には1人の男性が立っていているだけだった。
その男性はボロボロな服を着ていて、無言で部屋の一ヵ所を見ている。
「あれが悪魔だと?」
「ただのやせ細った人間でしかないではないか」
兵たちはなんとなくその男を眺めるが、その男が本当に悪魔と呼ばれていた者なのかと疑問に感じる。
誰かが言ったように、ただのやせ細った人間にしか見えないためだ。
「…………あっ……」
その痩せた男が僅かに口を開くと、声にならない声と共に魔法陣が出現した。
そして、その魔法陣からは巨大な蟻の魔物がわらわらと出現してきた。
「魔物!?」
「召喚魔法だと?」
それを見て、兵たちは慌てる。
いきなり現れた魔物たちは、呼び出した痩せた男を守るように兵たちに睨みを利かせる。
「怯むな! この程度の魔物……」
「この程……」
魔物が数体現れたくらいで、慌てる必要はない。
ただ、出現した魔物を倒してしまえば良いだけも事だ。
そう思って、1人の兵が攻めかかることを提案しようとしたのだが、すぐにそのこともためらうこととなった。
先程の魔法陣からは次々と魔物が出現し続けている。
数体ならまだしも、大量になって来ると倒すことも難しい。
あまりの数の多さに、兵たちは封印の部屋からジワジワと後退をし始めたのだった。




