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第146話

「リカルド様! 城内を隈なく探したのですが、サンダリオの姿が見つかりません!」


 階段を昇りきったリカルドたちのもとに、兵の一人が報告に向かって来た。

 リカルドが連れてきたカンタルボスの兵は、300人程度。

 城内への入り口を全て固め、外からの侵入と城内からの脱出をさせないようにし、城内にいる敵兵たちを始末して回る。

 数的不利にもかかわらず、数人が軽傷しただけで王城内の制圧が済んだ。

 しかし、いくら探しても標的の1人である王子サンダリオがどこにも見つからないでいた。


「何だって?」


「っ!?」


 部下の報告を受けたリカルドは、驚きの声をあげる。

 彼らカンタルボスの兵は、しっかりと予定通りの行動した。

 逃げられる要素はなかったように思えた。

 そして、その報告が聞こえていたベルトランも、驚きと不思議に頭が支配された。

 逃げ場もなく、城内で獣人を相手にして捕まるか殺されていると思っていたのだが、彼らの話からするとどうやら違うようだ。


「どこから逃げたのでしょう?」


「私どもの調査不足が原因です」


 ケイがリカルドと共に首を傾げていると、ハコボたち諜報部の者たちが来て頭を下げた。


「分かりづらかったのですが、西の塔に脱出通路が隠されておりました」


“ピクッ!” 


 その話を聞いて、ベルトランは密かに反応した。

 王族しか知らない隠し通路が西の塔にはある。

 旧来から仕えている貴族家たちであれば、もしかしたら知っている者もいるかもしれないが、それも極小数。

 王城を襲撃するような大胆なことをする者たちが、潜ませた諜報員が調べていれば、その貴族から隠し通路の情報を入手している可能性がある。

 そう思い、サンダリオが言っていた敵が出口で待ち構えているということを信じたのだが、リカルドたちの話を聞いている限り、その通路のことは知られていなかったらしい。


「恐らくそこから逃げ出したのかと思います」


 ベルトランが1人思考の世界に入っていることに気付かず、ハコボはそのまま報告を続けた。


「ハハ……」


「……何がおかしい?」


 報告が終わると、ベルトランはどことなく乾いた笑い声をあげる。

 それを聞いたリカルドは、自分の息子が上手く逃げたことに喜んでいるのかと思ったが、なんとなく違うようだ。


「ハハハ……」


「な、何だ? 頭でもおかしくなったのか?」


 ベルトランは声を出して笑っているが、目が笑っていない。

 それを見て、ケイは迫る死に狂ったのではないかと思った。

 しかし、ベルトランは違うことで笑っていたのだ。

 サンダリオが嘘をつき、隠し通路から逃げようとするベルトランを止めたということは、父である自分を城から出さないようにして、自分1人そこから逃げ出すためだろう。

 自分が助かるためなら、父の命すらも簡単に利用する。

 息子がここまで腐っているとは思わず、自分の見る目のなさに全身の力が抜けた。

 それによって何もかもが馬鹿らしく思え、空っぽになったベルトランからは笑うことしか出来なかったのである。







「おぉ、随分集まって来ているな……」


 建国祭の開会宣言を行う予定のバルコニーに、ベルトランは数時間ぶりに戻って来た形になる。

 そのバルコニーからは城の周りが良く見える。

 目の前に広がるその景色に、ケイは感嘆の声をあげる。

 そこには、城壁を囲むように大量の兵が配置されていたからだ。

 どうやら王都の兵が集結し、今にも城内へ攻め込める状態のようだ。


〔薄汚い獣どもよ! 我が父上を解放しろ! 今なら命までは許してやってもいい!〕


 ベルトランを連れてバルコニーへ姿を現したリカルドやケイたちを見て、集まった兵を引き連れた豪華な衣装を着た者が拡声の魔法を使って話しかけてきた。

 城を包囲しているからか、逃げ場がないケイやリカルドたちに対して上から物を言って来る。


「あいつがサンダリオか? 上手く逃げやがったな……」


 先程「父上」といったところから、どうやら奴がサンダリオのようだ。

 たいして魔力を使わないため、ケイが望遠の魔法でサンダリオの顔を見ると、真剣な顔をしているように見えて、サンダリオはなんとなくにやけているように見える。


〔これより獣人王国カンダルボスが同盟国、エルフの国アンヘル王国への侵略行為をおこなったリシケサ王国のトップであるベルトラン・デ・リシケサの処刑をおこなう!!〕


「エルフの国……?」


 サンダリオが発した言葉を無視するように、ケイに拡声の魔法をかけてもらったリカルドが話し始める。

 そして、その言葉の内容に、城を囲んでいる大勢の兵たちが疑問の声を呟く。

 エルフの国などという物が、いつの間に出来上がったのか分からなかったからだ。


〔そんなことをしてみろ! この包囲された状況で逃げ切れると思うなよ!〕


 リカルドの言葉に、サンダリオは怒りの声をあげる。

 たしかに、エルフの捕獲に大量の兵を送ったが、こちらはこちらで大量の兵を失った。

 しかも、そのうえ王城の強襲。

 この上、王の殺害までされたとなっては、周辺国からしたらいい笑い話だ。


「ではケイ殿、遠慮なく殺っちゃってください!」


「わかりました……」


 リカルドは完全にサンダリオの言葉を無視する。

 サンダリオが言うように、普通なら逃げ道はないように思えるだろう。

 しかし、ケイたちにはこの状態からでも逃げる手段はある。

 というより、今、レイナルドとカルロスが出した転移魔法によって、獣人たちは移動を開始し始めている。

 簡単に殺せとリカルドは言うが、無抵抗な状態の人間を始末しなければならないというのはケイからしたら初めてで、なんとなく気が引ける。


〔我はエルフの国、アンヘル王国国王ケイ・デ・アンヘルだ! この場にてリシケサ国王ベルトランの処刑を執行する!〕


 事前に打ち合わせしていた台詞を叫び、腰に付けたホルスターから、ケイは銃を抜き高らかに掲げる。

 そして、その銃口を、抜け殻のようになっているベルトランのこめかみへと押し付ける。


“パンッ!!”


「っ!?」「陛下!!」


 気が引けたが、所詮こいつは自分たちを殺せと指示を出した張本人で、生かしておいたらまたいつ兵を仕向けてくるか分からない。

 そう思うとすんなり引き金が引け、ベルトランの処刑をあっさりと執行できた。

 頭を撃ち抜かれ、崩れるように倒れたベルトランを見て、城を包囲している者たちは慌て驚く。

 包囲状態に加え、生き物を殺害できないはずのエルフが執行人。

 多くの者たちがハッタリだと思っていたのだが、本当に執行したことが信じられなかった。


「おのれ生き人形に獣どもめ……、父上の弔い合戦だ!! 奴らを一人残らず殺せ!!」


「「「「「オォォーー!!」」」」」


 父の死を見て、サンダリオが怒りの声をあげる。

 それによって兵たちの士気も上がった。

 そして、出撃の指示を受けた兵たちは、大声を上げて城内へ侵入しようと走り出したのだった。


「さぁ、逃げましょう」


「えぇ」


 処刑が終わればもう用はない。

 これでエルフは昔のように無抵抗な種族ではなく、獣人の国と同盟を結んだ危険な国だと認識されることだろう。

 サンダリオも仕留め、王族の壊滅までできればもっと良かったが、作戦に失敗はつきものだ。

 敵兵が城内に入ってくる前にトンズラさせてもらおう。

 リカルドと短く話し合うと、ケイはすぐに転移の扉を開きカンタルボス兵たちを転移させていく。

 数がまあまあ多いので、全員が扉を抜けるのは少し時間がかかったが、獣人兵たちが速やかに行動してくれたことにより、敵に転移魔法を見られる前に間に合った。

 そして、最後にケイが扉を通り抜けると、城からエルフと獣人の者たちは跡形もなく消え去ったのだった。



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