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第145話

「ハッ!!」


「フンッ!!」


 リカルドが地下で近衛兵たちと戦っている頃、エリアスとファウストの兄弟は、囚人兄弟のトリスタンとハシントと戦っていた。

 兄同士、弟同士で戦っているが、エリアスたちが思っていた以上にトリスタンたちには実力があるようだ。

 ただ、トリスタンたちは武器がなく、使えるのは足に付けられた鉄球くらいのもので、彼らはその鉄球を盾のように使っている。

 その鉄球でエリアスたちの攻撃を防ぎ、パンチやキックで反撃をするスタイルで戦っている。

 剣を使って戦っているエリアスたちが、その攻撃を受けることはなくいまだ無傷なのに対して、トリスタンたちは鉄球だけでは防ぎきる事ができず、ちょこちょこと切り傷を増やしている。


「「「「っ!?」」」」


「んっ? 何だこの煙!?」


 エリアスたち優勢で戦っていると、地下へと続く階段から白い煙がモクモクと沸き上がって来た。

 これにはトリスタンたちだけでなく、エリアスたちも驚いた。

 地下から上がって来たと言う事は、父であるリカルドたちに何かあったのかもしれない。

 そして、煙はドンドンと沸き上がり、ここにいる4人の姿を覆い隠した。

 誰がどこにいるかは、全く見えることができない。


 その状態で動いたのはエリアスたちだった。

 自分たちは獣人のため、鼻を使えばだれがどこにいるかは分かっている。

 しかし、人族のトリスタンたちはそうはいかない。

 何も見えなくなっているうちに仕留めてしまおうと、エリアスとファウストはトリスタンたちに襲い掛かった。


「っ!?」「……っと!?」


““ガキンッ!!””


「「っ!?」」


 煙の中を静かに動き、襲い掛かったエリアスたちの剣を、トリスタンたちは鉄球で防ぐ。

 それは、視界が煙で見えなくなっているのにも関わらず、さっきまでと大差ない動きだ。

 静かに襲い掛かった攻撃に対してそのように反応するということは、ちゃんとエリアスたちのいる場所が分かっているということだ。


「何だ? この状態なら戦えないとでも思ったのか?」


「俺たちはそんな雑魚じゃねえっての……」


 攻撃を止められたことに驚いているエリアスたちの心情を、囚人兄弟は煙で顔を見えないにもかかわらず言い当てた。

 どうやら思った通り、2人はエリアスたちの動きがわかっているようだ。


「でも、エリート騎士は、俺たちみたいに魔物と戦うことが少ないから探知ができないのが多いんじゃなかったっけ?」


「そういえばそうだな……」


 ハシントの言葉にトリスタンは納得する。

 盗賊でつかまった2人だが、そうなる前は冒険者として活動していた。

 警備などで戦う事がある騎士たちの稽古は、対人に対しての稽古が多いため、決まった型を訓練することが多く柔軟な発想ができない。

 視界を遮られた時にどう戦うかなどという訓練なんてやったりしないのではないだろうか。

 逆に強い魔物を狩る方が金になる冒険者は、様々な魔物の多様な攻撃に対応するために、どうしてもバリエーション豊富な戦い方が求められる。

 なので、2人も探知が自然と鍛えられたのは必然だった。


「……思っていたより面倒だな」


「兄上には策がありますか?」


 トリスタンの攻撃はパワー重視。

 遅いわけではないが、エリアスには当たらない。

 1撃でも食らえば痛手を負うかもしれないが、武器が鉄球だけでは食らうことはだろう。

 攻防を繰り広げながらふと思うのは、本来の武器を持った状態の彼らと戦いたかったということだが、今はそんな状況ではない。

 一方、ファウストとハシントの戦いは速度勝負のようだが、ファウストの方が全ての能力が僅かばかり上を行っている。

 共通して言えることは、負けないが勝つには時間がかかるということだ。

 どうやって攻撃を当てようか考えているエリアスに対し、ファウストには何か策があるような口ぶりだ。


「あることにはあるが……」


 エリアスにも実践で試してみたい技術が一応ある。

 しかし、まだ練習段階で実践で試したことがない。

 できればもっと完成した段階で試してみたいのだが、2人ほどの実力になると互角の相手などなかなか巡り合うことはないため、今が使いどころだ。


「やってみるか……」


 他に策が見つからないことだし、実戦で試せるのはこの機会しかないかもしれない。

 そう思ったエリアスは、この策を試してみることにした。


「行くぞファウスト!」「了解!」


 攻防を繰り広げている間に、煙も薄くなってきて、視界も少しづつ回復してきている。

 僅かにトリスタンたちの影が見えている状況で、エリアスたちは気合いと共に床を蹴った。


「「っ!?」」


 先ほどまでよりも上がった速度でエリアスたちが動く。

 その速度に、トリスタンたちは驚きで目を見開く。

 残像のように動くエリアスたちの移動に、何とか探知だけは反応するが、体の方が間に合わない。


「がっ!?」「ぐわっ!?」


 トリスタンとハシントが相手に懐に入られたと分かった瞬間、鉄球を投げつけるようにして攻撃をしてきた。

 しかし、そんな攻撃が速度の上がった2人に通じる訳もなく、エリアスたちはあっさりと躱して剣を振った。

 それによって、腹を裂かれたトリスタンとハシントは、大量の出血をして床へと倒れ伏したのだった。


「……兄上も同じことを考えていたのですね?」


「そうみたいだな……」


 エリアスたちがやったことは、父のリカルドがケイと戦った時にやった技術だ。

 ケイもセレドニオとライムンドに追い込まれた時に真似をしたが、必要なとき必要な分の魔力を瞬間的に纏うという魔闘術の1つだ。

 獣人は魔力が少なく、戦う時には使い道がなかった。

 しかし、リカルドはケイが魔力を使いこなすことによって、自分と同等の戦闘力を見に付けたことに感化された。

 少ないとは言っても、魔力を使えば獣人も強化できるのではないか

という思いつきを、いきなり本番でやってしまうのが父であるリカルドのすごいところだ。

 エルフのケイにとっては諸刃の剣だが、獣人にとっては使いこなせた方が良い技術かもしれないと、エリアスたちは思った。

 この技術をケイが使った場合、魔力を纏っていない場所に攻撃を食らえば大ダメージを受ける。

 だが、獣人の彼らからすると、生身が頑丈なため失敗して攻撃を受けても、ダメージによる大怪我をすることは少ない。

 失敗した時のリスクが低いということだ。

 これによって、2人の戦闘の幅が広がったのたが、これはれっきとした魔闘術の一種。

 使いこなすには相当な才能がないとできない。

 天才の子は天才とは限らないのが世の常だが、どうやらエリアスたちはリカルドの才を受け継いだようだ。


「お前も練習してたのか?」


「結構ね……」


 エリアスたちは、お互いが同じように練習しているとは知らなかった。

 ファウストが使えたのは、アンヘル島に行ったときにカルロスに魔闘術を指導してもらったからだ。

 それに対し、エリアスは独学で成功させる所まで持ってきていた。

 誰にも教わることなくここまでの技術を会得していたエリアスに、兄にはやっぱり勝てないなと思ったファウストだった。






「ようっ! こっちも片付いていたか……」


「「父上!?」」


 トリスタンたちを倒し、少し休憩をしていたエリアスたちのところへ、地下へ向かう階段からリカルドたちが上がって来た。

 こんな事なら、少し待ってリカルドに参戦して貰えば簡単に済んでいたかもしれない。

 ちょっと無茶をする必要もなかった。

 まぁ、リカルドが数的優位で敵と戦うということを良しとするかは分からなかったが。


「城下の見晴らしが良いところへこいつを連れて行く。始末が終わったらさっさとずらかるぞ」


「「はい!」」


 紐を結ばれ逃げられない状態のベルトランを指さして、リカルドは今後のことを話し始める。

 当初の予定通りに進んでいるらしく、リカルドの言葉にエリアスたちは返事をする。


「城内に散ったサンダリオを探している兵を集めろ!!」


「「はい!」」


 予定通りではないところとなると、この国の王子のサンダリオの姿が見つからないことだが、もしかしたら城内を探しに行かせた者たちが捕まえているかもしれないし、どこからか脱出してしまったのかもしれない。

 どちらにしても、時間はもうあまりない。

 ベルトランの処刑をした後、転移で逃走するため、カンタルボスの兵たちには集まってもらっていた方が手っ取り早い。

 息子たちに連れてきた兵の招集を任せ、リカルドはケイたちと共に城の上部へと向かって行った。



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