第144話
「んっ? ベルトランはどこだ?」
「「「「「っ!?」」」」」
王のベルトランがいると思われる扉を開けて、リカルドがケイたちを引き連れて室内に入る。
しかし、中には魔導士たちが8人いるだけで、ベルトランの姿が見えない。
床に描かれている模様を中心にして魔力を放出している所を見ると、あれが何かを封印している魔法陣のようだ。
室内に入って来たリカルドたちを見て、魔導士たちは驚きを隠せないでいるが、その手を止めようとしない。
「みんなは続けろ!」
その魔導士たちのうち、リカルドたちに近い位置にいた2人が、魔力注入を他の者に任せてリカルドとケイたちに対峙した。
封印を解くのにまだ時間がかかるのだろう。
どうやらさっきの兵たちと同じく、時間稼ぎをするつもりだ。
「ハッ!!」「ハッ!!」
その2人の魔導士たちは、すぐさま魔力を溜めてリカルドへ魔法を放つ。
「フンッ!」
火魔法による火球と、水魔法による水球がリカルドに迫る。
しかし、リカルドはそれを難なく手で弾く。
「なっ!?」「手で弾くなんて……」
この結果に魔導士の2人は目を見開く。
リシケサ国内で、国に雇われるほどの魔導士たちだ。
決して実力は低くない。
そんな自分たちの魔法が、あっさりと弾かれるなんて思っていなかったようだ。
「……どうやら封印はとけそうにないですね」
時間も魔力量もまだまだ足りないのか、ケイがパッと見た感じ、魔法陣は半分しか反応していない。
これではまだ時間はかかるだろう。
「無駄に時間をかけて封印が解けたり、王都内の兵が城内に進入してきても面倒です。こいつらを締め上げてベルトランの居場所を吐かせましょう!」
「……そうですな」
ケイの提案に、リカルドも賛成する。
しかし、リカルドはちょっと残念そうだ。
何が封印されているか分からないが、強力な戦闘力を持つ何かということは聞いている。
リカルドとしては、強い者と戦ってみたいという気持ちがあるため、心のどこかで封印が解けるのを期待していたのだろう。
だが、今はその好奇心を満たしてあげている暇はない。
「ぐふっ!?」
“ドサッ!!”
「……速っ」「……早ッ!」
リカルドによって、あっという間に8人の魔導士たちが倒される。
ちょっとくらいケイたちも手伝いたいところだが、魔力の温存が重要なこの作戦では戦うことは控えるように言われているので、ただ見ているだけしかできない。
ケイと共に魔力温存のレイナルドとカルロスは、リカルドの戦いっぷりに同じことを言いながら違う所に着目していた。
近衛兵と魔導士たちの戦いの両方が、あまりに速く、あまりに早かったのだから、その反応は正しい。
レイナルドとカルロスは、リカルドが強いのは初見で分かっていたが、戦闘姿を見たのは初めてだ。
ここまでの戦いでその実力の一端だけ見えたのだが、それだけでとんでもない強さだということは理解した。
「……っで? 王のベルトランはどこだ?」
意識を失わないでいる魔導士の体を無理やり起こし、リカルドはベルトランの場所を聞きただそうとする。
「だ、誰が……教えるか……」
聞かれた魔導士は、当然正直に応えるつもりはない。
「……あそこか?」
「なっ!?」
しかし、ケイがある方向を指さすと、明らかに狼狽えた。
ケイが何故そう思ったかというと、魔導士たちが、それぞれほんの一瞬だけ同じ方向の壁に目を向けていたのだ。
その視線の先が気になったため、当てずっぽで試してみたのだが、どうやら上手くいったようだ。
「……ここの音が違う。隠し部屋でもあるのか?」
「フンッ! こそこそしやがって……」
魔導士たちの視線の先にはただの壁しかない。
しかし、軽く叩いて確認してみると他の壁と違う音が反響する。
そのことから、この周囲に隠し扉があるのかと探し始めたのだが、
“ドゴッ!!”
「ヒッ!? ヒィィ……!!」
扉を探すのが面倒だったのか、リカルドは拳で壁に穴を開けた。
手っ取り早いとは言っても、ちょっと乱暴な開け方だ。
しかし、それが上手くいき、豪華な服を着たベルトランらしき男が驚きと共に悲鳴を上げ、隠し部屋の隅へと逃げていった。
「この野郎!!」
“バキッ!!”
近衛の兵が1人だけ残っていたらしく、隠し部屋に入って来たリカルドにすぐさま襲い掛かった。
しかし、1人ではリカルドの相手にはならず、1撃腹に攻撃を食らうと、そのまま気を失った。
「お前がベルトランだな? さぁ、こっちこいや!」
ようやく目当ての者を見つけ、手間をかけられたリカルドは、不機嫌そうな表情でベルトランへと近寄る。
同じ国王と言っても、武闘派のリカルドと、ただの血筋で即位したベルトランではかなり対照的だ。
筋骨隆々のリカルドと中年太りしたベルトラン。
種族が違うだけで、これだけ違うのかと考えさせられたケイだった。
「ヒッ! や、やめろ! 獣風情が私に触れるな!!」
「あ゛っ?」
人族はよく獣人のことをこういう風に言う傾向がある。
しかし、会話のできない獣と一緒くたにされるのを獣人は嫌う。
その言葉を面と向かって言われたリカルドは、こめかみに血管を浮かばせた。
“パンッ!!”
「がっ!?」
リカルドが力を込めたら、ベルトランの頭は簡単に吹き飛ぶだろう。
腹を立ててもそれをちゃんと理解しているのか、リカルドはビンタを食らわすだけで済ませた。
しかし、そのたった1発でベルトランの頬は真っ赤に染まり、口の中が切れたのか、ベルトランは唇から血が流れている。
「黙ってろ! これからお前の公開処刑だ!」
「……………っ……」
見苦しく暴れるベルトランも、生まれてはじめてに近い痛みを受けて、完全に怯え切っている。
大人しくなったのなら扱いやすい。
ベルトランの両腕を後に組ませ、ケイの魔法の指輪から取り出したロープで縛り上げる。
その状態になったベルトランに前を歩かせ、地下室から出て行こうとした。
「な、何故私がこんなことに……」
部屋から出る直前、ビンタで頬が腫れたベルトランが呟く。
その様子は、この日までこんなことが起こるとは思ってもいなかったような口ぶりだ。
それはそうだろう。
攻め込んでいるリカルド自身、こんな風に自分の国の王都を何の前触れもなく攻め込まれるなんてことは考えられない。
ケイが転移魔法を使えると言い出すまでは……。
だから、ベルトランの気持ちも分からなくはなかった。
「うちの島にちょっかいかけたのがいけなかったんだ」
「1回で諦めていれば許していたかもな……」
その言葉に反応したのはレイナルドとカルロスだった。
たしかに、彼らが言うように、この強襲作戦は島に迷惑を受けた仕返しだ。
最初に何の交渉もなく攻め込んで来ただけでも不愉快なのに、2度目、3度目ともなると報復したくなるのも当然だろう。
「エルフに殺られるなんて……」
生きた人形と呼ばれ、何の抵抗もできないはずのエルフ。
それが常識だったのに、そのエルフに殺されると知ったベルトランは、自分の惨めさに言葉が出てこなくなった。
「行け!!」
そんなベルトランを押して、リカルドは地下室から出ていく。
「……………………」
最後に地下室を出たのはケイだった。
地下室からでる直前、魔導士たちが解こうとしていた封印の魔法陣が視界に映る。
魔法陣はいまだに半分だけ光ったままだ。
何故かその光が気になったが、どうせそのうち放出した魔力も拡散して、光も消えてしまうだろう。
なので、ケイは何も言わずにリカルドの後を追ったのだった。




