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第127話

「………………さ……!!」


 出血多量によって気を失う寸前、ケイは微かに何かが聞こえた気がする。

 反応しようとするが、瞼は重く開かない。

 しかし、少しずつ体が軽くなって来る気がする。

 いよいよお迎えが近付いて来たのだろうか。


「………………さん!!」


 聞いたことある声だ。

 だが頭がぼ~っとしてはっきりしない。


「父さん!!」


「っ!?」


 ようやく思い出した。

 どうにか片目が薄く開いて見えたのは、次男のカルロスだった。

 出血が激しいケイの腹を、魔法で回復させてくれていた。

 

「起きた?」


 その側では長男のレイナルドが、自身の顔の怪我を回復させていた。

 2人とも顔や体はボロボロのボコボコ、せっかくのイケメンが台無しになっている。

 レイナルドにいたっては、片腕がなくなっている。

 どうしてそうなったのか分からないが、どうやら無事に解放されたようだ。


【しゅじん! キュウ! やった!】


「……キュウ、……ナイス!」







 レイナルドたちが解放されたのは、ケイがセレドニオたちと戦っている間に、隙を見て助けてやってくれと指示を受けていた従魔のキュウによるものだ。

 他の兵を呼びに何人かいなくなったことで、磔状態のレイナルドたちを見張るものは少数しかいなくなった。


【キュウ! いく!】


 樹の上でレイナルドたちの位置を確認したキュウは、枝から飛び降り一気に目的のテントへと向かって行った。


「な、何だ?」


「ん? どうした?」


 見張りをしていた兵は、突然黒くて小さいものが視界の端に映ったたため驚きの声をあげた。

 一瞬だったため、他の仲間は気付かなかったのか、仲間の反応に首を傾げる。

 外には四方に1人ずつと、広範囲を見張る者が2人の、合計6人がいる。


“ボボボッ!!”


「おわっ!?」「何だ!?」「火が……!?」


 その内の3人目掛けて、火の球が上空から飛来した。

 それに気付いた彼らは、大慌てで回避しようとするが、躱しきれずに火の球が手足に当たって引火した。


「どうした!?」


 他の3人が攻撃を受け、他の3人も集まって来た。

 

「熱い!! 水を……!!」


 火が付いたままの3人は、同じように悲鳴を上げてのたうち回る。

 燃え盛る火を消してほしいと、寄って来た仲間に助けを求める。


「分かった!! ちょっと待て!!」


 寄って来た3人は、仲間を助けようと水の魔法を出そうと魔力を集め始める。

 しかし、魔力のコントロールが下手なのか、なかなか魔法が発動しない。

 そうこうしているうちに、火のついた3人はどんどん燃え広がり、暴れたままでいる。


“バリッ!!”


「「「がっ!?」」」


 集めた魔力がようやく水に変わり、仲間に掛けようとした寸前、その水に向かって稲妻が落ちた。

 その電撃を受けた3人は、仲間を回復することができずにそのまま倒れて動かなくなった。


「「「ギャァァー!!」」」


 燃えていた3人は、仲間がやられて水が消えてしまったことに絶望しながら、絶叫を上げながら全身が炭化していき動かなくなった。


「何だ!?」「どうした!?」


 外の仲間の絶叫に、中で休憩していた2人も慌てて外へと飛び出してきた。

 そして、外の現状を見て声が出なかった。

 外の防衛を担当していたはずの6人が、遺体となって転がっていたからだ。


「あっ?」「何だ?」


 現状に驚いている2人の上空から小さな黒い塊が落ちてきた。

 それに気付いた2人は、何が落ちてきたのかと、首を傾げながらじっと見つめていた。


【くらえ!!】


“ボボッ!!”


「「っ!?」」


 2人の目線の高さまでその黒い塊が落ちてくると、その黒い塊から氷の槍が飛んできた。

 それが魔法だと気付いた時には、2人は胸に氷の槍が突き刺さり、崩れるように倒れて行った。


【レイ! カル!】


 キュウからしたら、主人の息子のレイナルドとカルロスは弟のような物だと思っているらしく、名前の呼び方が軽い。

 主人のケイとの付き合いは、確かに2人よりも長いのでそう思うのも仕方がないかもしれない。

 レイナルドたちも気にしていないので、これが普通になっている。


「……キュ…………ウ?」


 キュウが中に入ると、レイナルドとカルロスが磔られた状態でいるのを見つけた。

 カルロスは気を失っているようだが、レイナルドはキュウに反応した。

 どこか怪我をしているのか、話すのが辛そうだ。


【まってる! たすける!】


 念話で意思を伝えると、キュウはレイナルドの手足に巻かれている鎖に魔力を打ち込む。


「……駄………目………だ……」


【っ!?】


 レイナルドが搾り出した言葉の通り、キュウの魔力が鎖に当たると、魔力はまるで霧のように消えてしまった。

 どうやら、この鎖には魔力を無効化するような力が働いているらしい。


「……カ……ギ……」


【カギ?】


 短い言葉と共にレイナルドの視線の先を追うと、氷の槍が刺さった兵のことを見ていた。

 それで気付いたキュウは、氷の槍が刺さったまま息絶えている兵士の、ポケットの辺りをゴソゴソと探し始めた。

 この2人を燃やさなくて良かったと、内心思いながら。


【あった!】


 2人のポケットの中を探り、ようやく見つけたカギの束を咥えてキュウはレイナルドの方へ飛んで行き、鎖の錠を解き、手や足に付けられている錠もカギを使って解いていく。


【とれた!】


「…………」


 枷となる物が全て取り除かれたレイナルドは、キュウからカギの束を受け取り、すぐさま弟のカルロスの錠を解きに向かった。


【カル! おきる!】


「っ!?」


 カルロスの錠を全て取り除いたレイナルドは、容体を確認して大丈夫そうだと判断すると、そのまま横に寝かせて、自分の顎に回復魔法をかけ始めた。

 骨が折れている顎が治らないと、喋るのがかなり辛いからだ。

 そんな中、殴られて気を失っているカルロスの顔に、キュウは体当たりした。

 その衝撃で気が付いたカルロスは、上半身を起こして周囲をキョロキョロと見渡した。


「……兄さん? ……キュウ?」


【よっ!】


「……大丈夫か?」


 キュウの体当たりは、気を失っている相手におこなうには、容赦がない威力といった感じだった。

 殴られたことによる体中の痛みもそうだが、キュウの一撃の方も心配したレイナルドは、だいぶ痛みが引いた顎を動かし、カルロスに問いかける。


「……痛いけど、……大丈夫みたい」


 魔力を纏わない状態のエルフは弱い。

 とは言っても、魔物を相当倒してきたことで、普通の人族並にはなっているつもりだが、それでも殴られれば当然痛い。

 生まれて初めて無抵抗なサンドバッグになったが、カルロスは思ったより怪我をしていないようだ。

 もしかしたら、母である美花の血を濃く受け継いでいたことで、肉体の耐久力が兄より上なのかもしれない。


「キュウ! ありがとな!」


「ありがと!」


【しゅじん! しじ! だからへいき!】


 折れていた顎が治ってきて、ようやく喋るのも普通になって来た。

 そのため、レイナルドはやっとキュウに礼を言えることができた。

 気を失っていたことでよく分かっていないが、カルロスも続いて礼を言う。

 それに対し、キュウは当然というように言葉を返す。


「魔力はまだあるか?」


「ん? あぁ、戦う前にワンパンで伸されたからね」


 とりあえず顎を回復したレイナルドは、カルロスに問いかける。

 ライムンドとか言う人間に不意打ちを食らい、あっさり気を失わされたカルロスは、自嘲気味に答えを返した。


「父さんがあの2人と戦っているんだが……」


「そうか! 父さんだ!」


 兄の言葉を聞いて、カルロスは先程の疑問が解消され、話の途中であるにもかかわらず声をあげた。

 どうして無抵抗に殴られいても精神が壊れなかったのは、きっと心の中で父が助けてくれるのではないかという思いがあったからだろう。


「話を聞け!」


「あっ! ごめん」


 話の腰を折ってしまったことに気付いたカルロスは、兄の言葉に謝罪する。

 今はまだ呑気にしていられる状況ではないと、表情を引き締めたのだった。


「チラッとだけ戦っている父さんが見えたんだが、動きがあまり良くなかった。もしかしたら、父さんはみんなを転移させてここに来たのかもしれない」


「みんなって……60人近くを?」


 その話を聞いて、カルロスは目を見開く。

 そんなことをしたら、いくら魔力が膨大にある父とは言っても、あの2人に勝てるとは言い切れない。

 いや、負ける確率がかなり高い。


「キュウもいるし、俺も片腕でも魔法は使える。お前は戦うみんなの怪我の回復に力を使ってくれ」


「分かった!」


 キュウは魔法戦闘特化の従魔。

 レイナルドも回復魔法で消費をしたが、魔力はまだ残っている。

 これなら父の助けぐらいはできるかもしれない。

 そう思ったレイナルドは、キュウとカルロスを連れて、父が戦っている方角へ走り出したのだった。






 しかし、目に映ったのはやっぱり強い父の姿だった。

 魔力があまりない状況で、まさかあのような手に出るとは思わず、レイナルドは恐れ入った。

 ケイがやったのは、必要な時、必要なだけ、必要な場所にだけ魔力を纏うといった戦法だ。

 地面を蹴るなら蹴る足へ、蹴る瞬間だけ魔力を集める。

 そういった単純なことだが、相当微細な魔力コントロールが無くてはできない芸当だ。

 まさかこんな奥の手があるなんて、レイナルドも知らなかった。


「「っ!?」」【っ!?】


 しかし、この技も欠点があったようだ。

 いつもなら探知の魔法をしていて、背後からの攻撃だろうとなんてことなく反応できるが、父もこの技術に慣れていなかったからか、体をひねって躱そうとしたが、躱しきれずに攻撃を食らってしまった。

 しかし、腹から血を流しながらも父は2人を蹴り殺し、怪我が深かったのかそのまま倒れる。

 それを見たレイナルドたちは、走る足の速度を速めた。


「カルロス! 早く父さんを……!!」


「分かった!!」


【しゅじん! だいじょうぶ?】


 この中で回復魔法はカルロスが一番上手い。

 父の容態を確認したレイナルドは、すぐにカルロスに回復を任せた。

 カルロスが回復を始めたのを、キュウはケイを心配そうな目で見つめていた。

 回復魔法によって、意識の回復が見られたレイナルドは、あまりにもボコボコな顔を父に見せるのは気が引けたのか、少し回復しておくことにした。


「……それで? これからどうするの?」


 父が目を覚まし、上半身を起こしたのだが、貧血からか立つのは辛いようだ。

 恐らく敵の中で最強の2人を倒したのだから、生き残っている兵は逃げてくれるかもしれない。

 しかし、数はまだまだ多いのだから、わざわざ逃げずに手負いの3人(+1匹)を捕まえようとするかもしれない。

 これからのことをどうするか父に訪ねたカルロスだが、


「どうしようか?」


 ケイ自身、2人を救い出すことしか考えておらず、あとのことはどうするか考えていなかったのだった。



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