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第114話

「父さんや兄さんにいつも言われてたっけ……」


「「「………………………」」」


 魔法を食らってボロボロになってしまった上半身の服を脱ぎ棄て、カルロスは呟く。

 高威力の魔法を受けたはずなのに、カルロスが大怪我を負っていないことに驚き、敵の3人は何も言わず呆けている。

 そんな3人のことを、カルロスは全然気にする様子はない。


「勝てる相手に様子見なんかしてんなって……」


「……なっ!? この……」


 呆けながらも聞いていたカルロスの独り言に、少し間をおいてパウリノが反応する。

 自分たちは本気で戦っているのに、カルロスにとっては様子見程度の実力しか出していないということだったからだ。

 高ランク冒険者になってからだいぶ経つが、ここまで手が出ないと思ったのは、セレドニオとライムンド以来初めてだ。

 手を抜かれていると思うとまたも腹が立つが、実力差があるのは事実なので仕方がない。


「化け物が!!」


 だからと言って負けるとは限らない。

 大怪我とは言わなくても、カルロスには怪我と火傷を負わせている。

 決して、自分たちの攻撃が通用しないという訳ではないのだ。

 そう思ったパウリノは、立ち上がると共にカルロスへ向かって行ったのだった。


「失礼な奴だな……」


 カルロスからしたら、化け物呼ばわりとは心外だ。

 父と兄に比べれば、自分はまだその領域に達しているつもりはない。

 この3人は相当強いようだが、この島以外の世界をたいして知らないカルロスからしたら、別にどうという程でもない。

 他にも敵はまだまだいるので、この3人に手こずっている訳にはいかない。

 カルロスは腰の刀を抜いて、本気を出すことにしたのだった。


「一人じゃ無理だ! 俺も行く!」


 パウリノが走り出したのを見たエウリコは、すぐに諫める言葉を叫ぶ。

 しかし、魔法攻撃となると、さっきのように誘導することはできそうにない。

 時間を稼ごうとするなら、2人がかりで攻めるべきだ。

 短い言葉でそれを伝えると、エウリコはパウリノとは違う方向から片手剣で攻めかかっていった。


「カルリト! 用意ができたらぶっ放せ!!」


「分かった!」


 近接戦闘が苦手で、完全に遠距離攻撃タイプのカルリトは、2人を囮にして、また魔法を放つべく魔力を集中し始めた。


「2人がかりか? そう言えばあまり訓練したことないな……」


 カルロスの最近の訓練相手は、父や兄だ。

 いつもあしらわれているが、この2人に比べればエウリコとパウリノの2人がかりなんて、恐ろしさなど感じない。

 そのせいか、カルロスはまだ若干のんびりしたように呟いている。

 そして、交互に剣を振って来る2人の攻撃を、柳のように刀で受け流した。


「こいつ……」


「何でエルフが……」


 攻撃している2人は、剣を振っているのにもかかわらず全く当たる気配がしない。

 全力で戦っているこちらとは違い、カルロスの方は焦っている様子はない。

 それが分かり、2人は納得できない表情になっていく。

 生きる人形と言われるような弱いはずのエルフが、どうしたらここまで強くなれるのか理解できないからだ。


「ムンッ!!」


“ボカッ!!”


「ぐっ!?」


 2人がかりになると、手数が増える分こちらから攻撃するタイミングが難しい。

 守り一辺倒のカルロスだったが、パウリノの攻撃を受け流し体勢を崩させる。

 その僅かな隙を逃さず、パウリノの頬に拳を打ち込む。


「このっ!?」


「………………」


“ドッ!!”


「がっ!?」


 パウリノを殴ったことで、カルロスは一瞬無防備になった。

 その背中側から、エウリコは剣を振りかぶる。

 一撃で大怪我させようとしたその力みが、エウリコの胴をがら空きにする。

 戦闘中でも魔力探知ができるカルロスには、その瞬間を見なくても分かる。

 そのため、カルロスはエウリコへ顔を向けることなく、肘を腹へめり込ませた。

 反撃を予想していなかったエウリコは、その攻撃を見事に受けてしまう。 


「そろそろ終わりにしようか?」


 痛みで蹲る2人を仕留めようと、カルロスは刀を向けた。


“バッ!!”


「っ!?」


 先にパウリノに止めを刺しに近付いて行ったカルロスだったが、離れた場所で魔力を高めていたはずのカルリトが、音と気配を消していつの間にかカルロスの背後へと迫っていた。

 その手に集められた魔力は、さっきの火炎竜巻よりも込められているようだ。

 さっきの魔法は、2人の魔法を合成することで魔力を消費するのを抑えていた。

 しかし、今回のは2人分以上の魔法攻撃のようだ。

 こんなの撃ったら、魔力が残るのかギリギリといったところだろう。


「くらえ!!」


 失敗したら終わりといってもいい攻撃を、外したり避けられたりするわけにはいかない。

 なので、カルリトは至近距離で撃つために近付いたのだろう。

 これなら味方にも当てることがないので、容赦なく撃てる。

 カルリトは、高めた魔力を電撃に変え、カルロスへ向けてぶっ放したのだった。


「当たれ!!」


 カルリトから放たれた電撃は、超高速でカルロスへ迫っていった。

 至近距離からの電撃を、躱すことなど今更無理だ。

 黒こげになるカルロスの姿を想像し、パウリノは当たると確信した。


“ゴゴッ!!”“バチッ!!”


「「「…………なっ!?」」」


 当たると思ったカルリトの電撃は、カルロスの目の前に現れた壁によって弾かれた。

 父の血を引き、全属性の魔法が高威力で使えるレイナルドとカルロスの兄弟だが、その中でも得意な属性がある。

 以前も言ったように、カルロスは水と土。

 水に濡れた土壁を作りだし、向かってきた電撃をそのまま地面へと放電することに成功したのだ。


「そんな……これを防ぐなんて……」


 信じられない者を見るような目でカルリトは呟く。

 それもそのはず、わざわざ危険を冒して接近したというのに、カルロスには全く通用しなかったのだから。


「なかなかの魔法だが、食らう訳にはいかないんでな」


「ぐっ!? この……」


 気配を消したつもりかもしれないが、エウリコに攻撃した時のように、カルロスは探知の魔法が使える。

 常時発動しているので、カルリトが近付いて来ていたのは分かっていた。

 分かっていれば当然対策を考えておく。

 カルリトが魔法を放つ瞬間、魔力を電撃に変えるのを見たカルロスは、元々防衛のために出現させる予定だった土壁に、水魔法をミックスすることで、さらに万全の対応をすることにしたのだ。

 電撃は厄介なことに、食らうと少しの間痺れてまともに動けなくなる。

 無防備な状況で攻撃を受けたなら、いくら強くても大怪我するか、お陀仏だ。

 ほとんどの魔力を込めた魔法を防がれ、魔力切れ一歩手前のカルリトは、足元がおぼつかない状態で手に持つ杖を振り回し、カルロスへと向かって来た。


「ハッ!!」


「ごっ!?」


 敵に容赦は無用。

 小さい頃からそう教わって来たカルロスは、魔闘術すらギリギリのカルリトへ水球を放った。

 薄く張っただけの魔闘術では、当然威力を抑えることなんてできなく、自ら接近したことも悪手となったカルリトは、水球の直撃を受けて吹き飛んで行った。

 そして、地面にたたきつけられたカルリトは、気絶したのかもしくは死んだのか、うつ伏せのまま動かなくなった。


「何て威力だ!?」


「な……何なんだ!? エルフが何でこんなに強いんだ?」


 至近距離だからと言って、あれほどの強力な魔法を一瞬で放てるなんてどう考えてもおかしい。

 エルフだか、ハーフだか知らないが、目の前の男は異常だ。

 2人は何とか立ち上がるが、ほとんど戦意を喪失して腰が引けていた。


「魔法にはちょっと自信があってな……」


 どうやら2人は自分の魔法に驚いてくれているようだ。

 なので、カルロスは更に疑心暗鬼に追い込むように、わざとらしく謙遜するような言葉を放ったのだった。


「「………………」」


 それが成功したのか、もう2人は戦意を失ったのか抵抗もしそうになかった。

 なので、カルロスは苦しめることなく、一刀の下に2人を斬り殺した。

 魔法で飛んでったカルリトを念のため確認したら、息をしていなかった。

 直撃した魔法によって内臓が破裂していたようだ。



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