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第105話

「んっ? 大砲か?」


 望遠の魔道具を使い、ケイたちのいる島を眺める陸軍隊長のライムンドは、島の東側で何やら動く物を発見した。

 そして、更に魔力を流すことによって、その動いている物にズームした。

 すると、島の住人らしき者たちが、大砲をこちらに向けて攻撃の準備を始めているようだ。


「気が早い奴らだな……」


 同じく望遠の魔道具で見ていたセレドニオは、まだまだ開戦するには遠く離れているのに準備を始めた島民たちを見て、この数相手に随分やる気になっているなと思いながら、冷めた口調で呟いた。


「おぉ、本当にエルフがいるぞ!!」


 遠く離れた大砲の側にいる男を見て、ライムンドは興奮したような声をあげた。

 それもそのはず、その男の顔に照準を合わせて見たら、容姿の美しさに目が行くのも確かだが、明らかに耳が長く尖っている。 

 昔話で聞いたことのあるエルフの特徴そのままだ。

 もう書物の中でしか存在しないような生物が、まだ遠く離れているとは言っても、確実に存在していることが確認できたのだから。


「あぁ……、おいっ! よく見たら、ハーフもいないか?」


「マジかよ!?」


 先にライムンドが発見してしまったからか、内心高揚しているのを隠すようにセレドニオは冷静を装った。

 しかし、その態度もすぐに崩れる。

 ライムンドの言ったエルフのすぐ側には、他にも耳の尖った青年が2人いたからだ。 

 ただ、その2人の方は、エルフの男と比べて耳がそれほど長くない。

 それだけでハーフだと分かる。

 エルフの男に似た顔つきをしているからだ。

 セレドニオは、今回のために国立図書館に貯蔵されている、エルフに関する書物を全て閲覧してきた。

 そこにはハーフの特徴も書かれていた。

 エルフと人族との間に生まれた子供はハーフエルフと呼ばれ、耳が尖っていること以外は人族と大差がないと記されていた。

 まさにあそこにいる2人の青年は、書かれていた通りだ。

 昔、色々な国々が、エルフが手に入らなくなり、奴隷を使って繁殖を試みた。

 しかし何故だか成功せず、結局数を増やすことはできなかった。

 エルフも貴重だが、ハーフエルフも貴重な存在。

 2人もいれば、片方は繁殖用の実験体として使用できる。

 それを考えると、3人合わせてどれだけの価値になるか、今から気持ちが高ぶって仕方がない。

 セレドニオの言葉に、ライムンドは更にテンションが上がっていた。


「全艦に伝える! エルフ、ハーフエルフの存在を確認した! どちらも殺害は論外、確実に捕獲せよ! 捕獲者には高報酬を確約する!」


「「「「「おおぉぉーー!!」」」」」


 セレドニオが通信機を手に全艦に伝えると、船員たちは雄たけびを上げた。

 まるで、全艦から上がる船員たちの地響きのようなに、ケイたちが何故遠く離れている今から大砲の準備をしているのかは、全員気にすることなく頭から消え失せていた。







「……奴ら、何か叫んでないか?」


「何か知んないけど、気合い入っているみたい」


 自分たちエルフのことで盛り上がっていると分かる訳もなく、ケイたちは12の大砲へ球と圧縮魔力の装填をおこなっていた。

 かなり遠く離れているというのにもかかわらず、聞こえてくるような声に、改めて数の多さを感じていた。

 とは言っても、望遠の魔法で見る限り、相手の船はまだ戦闘準備に入っていないように感じる。

 レイナルドも、遠く離れた所から聞こえた変な雄たけびに、なんとなく嫌な感覚をしつつも準備を進めていった。


「レイ! カルロス! シリアコ! これ(大砲)でどれだけ沈められるかにかかっている。できる限り外すなよ!」


「「「了解 (しました)!」」」


 この大砲による超遠距離攻撃には、魔力を圧縮する技術に長けていることが重要。

 獣人たちでは魔力が少ないため外すとして、この島の住民でできる成人男性となると、ケイと息子のレイナルドとカルロス、そして島唯一の魔人族であるシリアコだけだ。

 魔人は、魔と付いてはいるが、肌の色が違うだけの人族というのが本当の所で、たまたま紫がかった魔力の多い子供が生まれ、その周囲で不運が重なったというだけで、悪しき生物というレッテルを張られることになったのだ。

 シリアコは人族の商人に奴隷として扱われていたが、その商人の船が転覆してケイの島に流れ着いた。

 そして、ケイに奴隷から解放してもらい、この島でケイの役に立つために生きることを誓った男だ。

 ケイとしては、せっかく解放されたのだから好きに生きて良いといったのだが、聞く耳を持ってもらえなかった。

 今回の戦いも、ケイが戦うと言った時、いの一番に参戦を希望したほどだ。


「「「セット完了 (しました)!」」」


 この島に流れ着いて、ケイに魔法を指導してもらったこともあり、魔力のコントロールはかなりのものになっている。

 元々、人族よりも魔力が多く備わっている魔人族。

 魔法の技術は物覚えが良い方だ。

 とは言っても、ケイたちに比べればそれほどなので、全部で12門ある大砲のうち、ケイが4門、レイナルドとカルロスが3門、残り2門がシリアコの担当だ。

 数に違いがあるが、全員が全部の大砲の準備が完了したのは同時だった。


「よしっ、撃て!!」


「「「ハッ!!」」」


“ドドドドンッ!!”


 ケイを含めた4門の大砲から爆音が鳴り響く。

 錬金強化で遠距離への発射もできるようになっている砲から、とんでもない速度で斜め上空へと巨大な弾が飛んで行った。


「撃ったら結果よりも次の発射に気を向けろ」


「「「はい!」」」


 敵は恐らく、大砲の弾が届くはずがないと思っているはず。

 対抗手段として魔力障壁を張られる前に、1隻でも沈めたい。

 狙いをつけて発射したら、結果を見ているより次の発射が優先だ。

 ケイの指示を受け、3人とも次の砲を発射する準備にすぐ入った。







「んっ? なんだ?」


 遠くで何か爆発音が聞こえて来た。

 セレドニオは音の鳴った方に目を向けた。

 すると、大砲を用意していたところから、黒い点のような物が上空へ飛び出したのが見えた。


「大砲を撃ったのか? しかし、ここまで届くわけが……」


 隣に立つライムンドも同じ方角に目を向けた。

 望遠の魔道具でエルフを確認した方角だ。

 そういえば、彼らは大砲を用意していた。

 音からして、先程のは大砲の発射音かもしれない。

 そう思ったのだが、こんな距離まで届く大砲なんて聞いたことがないし、魔道具開発のプロ集団のドワーフでも無理だろう。

 セレドニオ同様に、ライムンドも余裕の表情で大砲から発射されたであろう黒い弾の行方を眺めていた。


“ズガンッ!!”“ズガンッ!!”“ズガンッ!!”“ズガンッ!!”


「「……えっ?」」


 ここまで届かず、そのまま海に落ちると思っていた弾はドンドン大きくなってきた。

 そして、そのままセレドニオたちの船の左に並んでいる船、3隻に着弾した。

 そのうち一隻はすぐ隣の船で、2発も着弾して船体に巨大な穴が2つ開いていた。

 あまりの出来事に、2人のみならず、他の船員たちも唖然とした様子で固まっていた。



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