第104話
「マジか……?」
モイセスの報告を受け、ケイは遠方が見えるようにと岬に建てた灯台へと辿り着いた。
まだかなり遠くではあるが、見たことがある紋章が帆に描かれた大船団にケイは唖然とした。
その紋章を見る限り、今まで2度ほど来たリシケサ王国の船団だろう。
「いくら何でも多すぎる」
僅かに遅れて来たレイナルドも遠見の魔法を使って見た景色に、冷や汗を掻いている。
もしかしたら多くの敵が来るかもしれないと、父であるケイから聞いてはいたが、想像の倍以上の数に恐れを抱いているらしい。
「あれ1隻で何人くらい載ってるんだ?」
船は確かに多い。
せめて戦わなければならない人数を把握しておきたい。
船の定員についてはよく分からないので、ケイはなんとなく知っていそうなモイセスに尋ねた。
「100名前後かと……」
「合計2000~3000もの数が相手だと……」
とても60人程で戦う相手の数ではない。
完全に負け戦だ。
数を聞いたカルロスは、言葉を失い、青い顔をしている。
完全にビビっているようだ。
「カルロス! 美花にみんなと避難するように言って来てくれ」
「わ、分かった!」
取りあえず、戦う意思のない者には早々に避難してもらうのが先決だ。
結局、転移魔法はレイナルドとカルロスには使いこなせず、ケイの指導を受けた美花だけが覚えられた。
2人より魔力量が少ないので、美花の場合は島民とカンタルボスに転移したら、また転移でここに戻ってくるのは不可能だろう。
獣人が多いこの島では、女性も戦力的には十分なのだが、兵でもないのに戦う必要はない。
ケイは事前にみんなにそう言い、残るのは戦う気のある成人男性だけだと決まっていた。
なので、美花には早々にみんなと避難してもらうことにした。
「モイセス……」
「はい……」
この灯台の管理は同盟国のカンタルボスの駐留兵に任せている。
そのため、多くの兵がいる中で、ケイはその隊長に当たるモイセスに、真剣な表情で話しかけた。
モイセスの方も、ケイが何を言うのか分からないが、重苦しい雰囲気に顔が引き締まる。
「カンタルボスの兵みんなを連れて、この島から脱出してくれていいぞ」
「……見くびらんでください」
この島にも船はある。
ケイが獣人族の船を真似て作った帆船だ。
カンタルボスまで無事に着けるかまでは分からないが、駐留兵の50人くらい乗っても沈みはしないだろう。
予想される敵の数では、どう考えてもこちらの勝ち目は薄い。
美花は今いる島民以外を転移する魔力はない。
そうなると、駐留兵には船で逃げてもらうしかない。
今なら食料さえ積めば追いつかれずに逃げ切れるはずだ。
そう思ってケイは提案したのだが、それを聞いたモイセスは眉間にシワが寄った。
「我々は国に言われてきたとはいえ、この島を守る兵です。数で勝てないとはいえ、戦わずして逃げる訳にはいきません」
勝てないなら逃げるのは別に恥でもないと思うが、獣人の兵たちにはそうではないのだろうか。
モイセスだけでなく、近くにいる兵たちも同じようで、真剣な表情をしてケイを見つめている。
「……いいのか? 普通に考えれば死ぬぞ?」
「覚悟の上です!」
彼らの意識を再確認するように尋ねるが決意は固いらしく、強い口調で答えが返って来た。
その表情を見たら、ケイもこれ以上は言わないことにした。
「……でも、俺たちは、状況次第で逃げるけど?」
「え? マジっすか?」
決意が固い駐留兵たちには悪いが、ケイは島を捨てての避難も視野に入れている。
せっかく転生したのに、死んでしまったらそこで終わりだ。
殺されたのなら百歩譲って仕方がないが、生きて捕まりでもしたら、地獄のような日々を過ごすことになる。
それだけは嫌だし、子供たちや仲間にもそんな目に遭ってほしくない。
戦わずに逃げるのが嫌なのはモイセスたちと同じだが、なんとしてでもこの島を守るという気持ちはない。
その言葉を聞いたモイセスは、決意を語った手前どうするべきか悩みだした。
「だって、転移が使えるもん」
「そ、そうですな……」
転移が使えるのは美花だけではない。
というか、ケイが考えた(ある意味パクった)魔法だ。
逃げる手段があるのだから、死を前にしたら逃げるのが当然だろう。
それを止めるのはどう考えても違うので、モイセスは言葉に詰まった。
「……大丈夫だ。もしもの時は駐留兵のみんなを連れて転移してやる。だから死なない程度に頑張ってくれ」
「は、はぁ……」
命を懸けて戦うのは美徳だが、本当に命を懸けるのはかなりの決意がいる。
駐留兵の全員が全員同じように思っているとは限らない。
全力で戦って、それでだめなら逃げるのが獣の習性。
逃げないと言った手前素直に喜べないが、ケイの言葉にモイセスたちが安心したのは仕方がない。
「前にも少し話し合ったが、敵が上陸した時の戦い方をもう一度全員に伝えよう」
「は、はい!」
数が違うと言っても、戦い方次第ではどうにかできるかもしれない。
この島を知り尽くしたケイたちなら、地の利を生かした戦いができるはずだ。
最悪、全員転移で逃げるにしても、離れてしまっては置いてきぼりにするしかない。
どうやってまとまって戦うかを、あらかじめ相談する必要がある。
このまま敵船の監視をする者を最少にし、ケイとモイストはそれ以外で戦いに参加する全ての者を駐留兵たちの住む邸に集めたのだった。




