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第102話

「美花!」


「あらっ? 帰って来てたの?」


 レイナルドたちをカンタルボス王国へ連れて行ってから1か月後、またカンタルボスへ行って月1の報告をしてきたケイは、姿が見えない美花を探した。

 ケイと美花は仲が良いが、年がら年中一緒にいる訳ではない。

 孫ができてから美花はそっちばかりを構っているし、ケイは駐留兵たちの戦闘訓練で忙しい。

 ケイの戦闘スタイルは自己流がほとんどなため、本当なら美花に剣術の指導をしてもらいたいところなのだが、最近は急にいなくなることがある。

 美花程の実力になれば、この島で大怪我するようなことになるとは思えないので、少しくらい姿が見えなくても放って置いているのだが、こう頻繁になってくると心配になる。

 今日もいなくなっているので、何をしているのか気になったケイは近くを探し回った。

 すると、ケイは村の家々が建つ場所から近くにある、いつもの海岸で美花の姿を確認した。


「何してるんだ? こんなところで……」


「……ちょっとね」


 交わした言葉はいつものたわいないものだが、美花の様子が少しおかしいため、ケイは訝しんだ表情で美花を見つめた。


「……分かったわよ。白状するわ」


 ケイの完全に疑っている目に、隠すのは不可能だと判断した美花は両手を上げて降参をした。

 最近は息子たちとの訓練もきつくなってきたため、もう荒事はケイと息子たちに任せている。

 だからと言って、剣術の訓練をやめるつもりはなく、孫たち相手に指導ついでの訓練をしているのだが、最近いなくなって帰って来た時の美花は、どことなくぐったりしている。

 とても剣術の訓練をしている様には思えない。


「転移魔法の練習よ」


「…………えっ? 何で?」


 答えを聞いて、ケイは首を傾げた。

 別に、美花が使えないといった覚えはない。

 しかし、習得できる期間のことを考えると、魔法の才のある息子2人の方を優先しただけだ。

 教えろと言われれば、普通に教えるつもりだ。


「ケイは大砲やら指導にと忙しいでしょ? 2人に教えているのを聞いていたし、私も使えるようになりたいから……」


「まぁ、確かにちょっと忙しいけど……」


 大量の魔力を有するのをいいことに、ケイは錬金術による大砲と砲弾の修復・製造をおこなっている。

 鉄がなかなか見つからないので、数を増やすには至っていないが、とりあえず今回きた人族の船から拾った大砲は、全部修復することができた。

 次にまた人族が攻め込んで来た時に、上陸される可能性もある。

 そのため、カンタルボス王国から来ている駐留兵たちにも期待している。

 ここの島民と違って、戦うことが仕事の彼らには悪いが、場合によってはここの島を捨てて逃げさせてもらうつもりだ。

 とは言っても、この島で一緒に過ごしてきた思いもあるので、彼らにも生き残ってもらいたい。

 そのために、ケイはいつも以上に彼らの訓練相手をおこなっている。

 その2つの仕事が忙しいので、それ以外の時間は大人しくしていたいところだが、理由が分からないが美花が転移魔法を使いたいのであれば、魔法のコツを教えるくらいはできる。


「何で使えるようになりたいんだ?」


 取りあえず、ケイは理由だけでも聞いておくことにした。


「私が使えるようになれば、村人の避難は私ができる。そうすれば、レイとカルロスは魔力を無駄にせず戦いに専念できるじゃない?」


「……なるほど。それは良いかも……」


 たしかに、ケイ1人で倒せる数なら構わないが、次は流石にちゃんと態勢を整えてくるだろう。

 そうなれば、レイナルドとカルロスがいてくれれば、かなり有利に戦えるはずだ。

 2人のどちらかに村人を転移してもらい、戻ってきて参戦してもらおうと思っていたが、それでは魔力を大量に消費した状態になってしまう。

 ハーフとはいえ、魔力が多いから戦闘力も強いのであって、魔力が少なくなった2人では、人族相手は厳しくなる。

 できれば、魔力を消費しないまま戦わせたい。

 そう考えると、美花に転移できるようになってもらうのが一番都合がいい。

 美花の発言に、ケイは納得した。


「じゃあ、俺が指導するよ」


「いいの? じゃあ、お言葉に甘えるわ」


 魔力量的には村人を連れてカンタルボスへ避難したら、美花はほとんど魔力がなくなるだろう。

 元々、美花には避難した村人の相手をしてもらうつもりだったため、参戦しないでくれるのは丁度いい。

 ケイは息子の2人より、美花の転移魔法の指導の方に力を注ぐことにした。







◆◆◆◆◆


「ただいま戻りました」


 豪華な絨毯を歩き、一人の男が玉座に座る男の前にたどり着くと、跪いて頭を下げた。


「…………セレドニオ。どうなった?」


「通信が途絶えました。どうやらやられた模様です」


 玉座に座っている所を見ると、この国の王なのだろう。

 その王に問われたセレドニオは、端的に自分の持って来た情報を告げた。


「どういうことだ?」


 王らしき男は、問いかけながら玉座の肘掛けを指でトントンと叩いている。

 思ってもいなかった結果に、イラついているのだろう。


「最後の通信では、獣人という言葉が届きました。もしかしたら獣人国のどこかが先に占拠したのかもしれません」


 ケイたちは気付かなかったようだが、攻め込んで来たリシケサ王国の船は3隻ではなく4隻だった。

 通信魔道具の届くギリギリの位置で、もう一隻停泊していたのだ。

 全指揮権を与えられたのはエルミニオという名の隊長だが、浅慮の彼とは違い、セレドニオは前回のこともあり、もしもの場合を考えていたのだ。


「おのれっ!! 獣風情が!!」


 人族至上主義が基本の人族大陸。

 この王のように、獣人は会話ができない獣でしかないと思っている者がほとんどだ。


「ただ……」


「んっ!?」


 怒りで今にも暴れ出しそうな王に、セレドニオはそれが治まるであろう一言を告げることにした。


「隊長のエルミニオの最後の言葉には、面白い言葉がありました」


「……………………」


 セレドニオの言葉に反応した王は、無言で見下ろし続きを促す。


()()()と……」


「…………フフッ、ハハハ……」


 予想外の言葉を聞いて、リシケサ王は大きな声をあげて笑い出した。

 今では絶滅したと言われているエルフ。

 隣国の同盟国であるパテル王国で最後のエルフを捕まえたと話を聞いた時、大金をつぎ込んで奴隷として手に入れようと思っていたのだが、捕まえたのが抵抗激しく殺してしまったと知らされた。

 念のためパテルは標本として保管しているらしいが、死んでしまっては何の価値もない。

 生きているエルフを手に入れられれば、色々と実験をして楽しめることを考えると、王は嗜虐的な笑みが止まらない。


「セレドニオ!」


「はっ!」


 思った通り、王の機嫌を直すことができたらしく、気味の悪い笑いを終えた王に名を呼ばれたセレドニオは返事をする。


「貴様に全指揮権を与える。全戦力を使って、エルフを生け捕りにせよ!!」


「かしこまりました」


 王の指示を受け、礼をしたセレドニオは、踵を返して玉座の間から出て行ったのだった。



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[気になる点] エルフが希少なら増やして稼ぐ輩がいるのでは?
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