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奴隷オークション


約束通り、教会には俺を含めた四人が集まった。教会には月明かりだけが差し込み天然のライトになっている。


「はい、あんたのお望みの貴族の情報よ」


そう言って、ルルシアは俺に紙束を渡した。ざっと目を通して、俺の知識と照合する。だいたいが俺の知識通りで不足分はルルシアの情報で補完した。


「狙うのは奴隷オークションだ」


「奴隷オークション・・・」


ウィリアムは苦虫を噛み潰したようにつぶやく。


王国では奴隷は禁止されている。本来なら人身売買や奴隷オークションなどあってはならない話だ。しかし現在有力貴族や商人たちによってこれらは開かれている。奴隷がどのような扱いを受けるかは、まぁ大体の人間が想像する通り例外を除きかなり悲惨なものだ。元貴族であるウィリアムは、心当たりがあるだろう。


「そう言うと思っていたわ。問題は警備に配置されているキングゴーレムね」


キングゴーレムの強さはA級冒険者 5人分と言われている。ちなみに冒険者のランクは 6段階で A 級は上から3番目だ。裏門にはキングゴーレムが3体、表門には 商人や貴族たち郊外の傭兵や冒険者が10人。


単純計算で裏門の戦力は15人分だ。だが結論は出た。


「俺らは裏門から侵入し速やかにキングゴーレムを片付ける。そのまま会場に潜入し、俺はオークションに参加している商人や貴族の始末をウィリアムは売られている奴隷達の解放の二手に分かれる。中で騒ぎを起こせば、外の警備のやつらも参加してくるだろうがウィリアムは気にせず奴隷を解放し続け、 解放し終えたら俺に合流し可能な限り手伝ってくれ」


「待ってくれ!?」


「何だ?」


ウィリアムは焦って俺に静止を掛ける。


「キングゴーレムを3体だぞ!?。戦闘の音で表門の警備がこちらに向かってくる。この作戦は無謀だ!」


ウィリアムの言っていることはもっともだ。確かにキングゴーレムは侮っていい相手ではない。しかしそれは通常の場合だ。魔神の呪いを受け強化された俺の戦闘力なら、キングゴーレムなど恐るるに足らないだろう。確かに傍から見れば賭けの要素が強い作戦に思える。しかし闇魔法の力がゲームと同じなのであれば、全く問題はないだろう。今回の作戦は闇魔法の性能テストも兼ねている。一応逃走ルートも確保してあるし、今回の作戦を曲げる気はない。


「確かに賭けの要素が強いように思えます」


流石にナナリアもこの作戦には納得がしていないようだ。眉をひそめ批判の声を上げた。


「私は良いと思うわ」


「ルルシア!?」


ナナリアが驚愕の声を上げる。


思わぬところから助け船が来た。一応、説得する手立ては考えてきてはいたが必要なさそうだ。


「この男は最初に奇跡を起こして見せるといったわ。わつぃたちはそれに賭けた。今更とやかく言うつもりはないわ」


「ああ、その通りだ。俺たちは国を変えようとしているんだ。多少の無茶くらい承知の上だろう?」


「・・・分かった」


ウィリアムはしぶしぶといった様子で頷いてくれた。ナナリアも一応納得はしてくれたようだ。









周りは、本当に静まり返っていた。藍色の景色。風が、俺の髪をなびかせ、背の低い雑草を揺する。静けさに聞き惚れそうになる。


「さて、やろうか」


後ろにいるウィリアムに声を掛ける。すると少しこわばった声で返答が帰ってきた。


「ああ」


どうやらかなり緊張しているらしい。


「身体強化魔法をかけておけ。あっという間に終わるから」


そう言い残し、俺は裏門に向かって行く。



付加(エンチャント)『闇』(ヴェゲノム)


黒い靄のようなものが 俺の腕を覆う。身体強化をかけ、思いっきり地面を蹴りキングゴーレムとの距離を一気に詰める。接近する俺を敵だと認識したらしい。非常識な剛力にづけられた凄まじい速度で、キングゴーレムの戦槌がなぎ払われる。それからわずかに遅れビュゴウと強い風が、戦槌を追いかけ突き抜けていった。


「こえーこえー」


パタパタと入れる自分の前髪を観察しながら、俺は貯めておいたあと一歩を踏み込む。半歩にわずか余る程度の絶好の間合い。


空中に身を投げ、くるりと横に一回転してから、回転の勢いをそのままに載せた手のひらをキングゴーレムの関節部に打ち込んだ。バチンと強烈の音と共に掌底 をそのまま強引に打ち抜いた。付加魔法で キングゴーレムの装甲を撃ち抜けることを確信した俺はそのまま連続で、蹴りを放ちキングゴーレムを粉々にした。キングゴーレムの残骸を横目で見ながら、襲い来るキングゴーレムその2とその3に向かって、アッパーと回し蹴りを放つ。先ほどよりもはるかに高威力のそれは一瞬でキングゴーレムの装甲を貫き、粉々にした。


「近接戦闘はこの程度でいいだろう。さて、次はっと」


ちらりと後ろを見て、ウィリアムに合図を送る。そのままわき目もふらず、オークション会場に潜入した。



オークション会場に入るともうすでに始まってかなり時間が経っているらしい。かなりの盛り上がりを見せている。まず俺が騒ぎを起こして注意を引きつけなくてはならない。なるべく派手なほうがいいな。


そんなことを考えていると次の奴隷が運ばれてくる。


「次の商品はエルフ族の奴隷です」


中央に白髪のロングヘアーのエルフだ。主人公のヒロインにもエルフはいたが、このエルフはゲームで見たそのエルフよりもはるかに美しかった。


「さあ、世にも珍しきエルフの少女ですよ!!!価格は金貨500枚からです!!!」


あまりの美しさに一瞬会場の空気が停まったが、次の瞬間煩いほどの歓声とともにセリが始まる。


「500枚!」


「600枚だ」


「800枚」


「3200枚」


「3600だ」



値段がどんどんと吊り上がっていく。今観客の視線は奴隷の少女9に釘付けになっている・・・やるなら今だな。











「3700枚、3700枚で構いませんね?おめでとうございます!落札です!!!」


「いや、待ってもらおうか」


男はステージに降り立った。音を立てず、誰の目にも止まらずその男は降り立ったのだ。少女に集中していた視線は男に向けられた。思わぬ乱入者に、動揺する観客。困惑する奴隷。焦り狂う商人たち。


男だけが、、堂々と冷静にその場にいる・・・道化師の仮面をしたその男は腕をゆっくりとあげると


静かに嗤った。


「その奴隷・・・俺が買おう。金額は君たちの命すべてでどうかな?」


「な、何を・・・」


困惑する奴隷と状況を理解できない貴族たち。その中で、事態を察知し動き始めた貴族の護衛達を視界にいれ、男は言い放った。


「『闇の弾丸(バレット)』」


黒く発光する闇の弾丸が空中に展開される。その数は100を超え、殺意をもって放たれる。



「うああああああああああ」


「痛いいいいい」


「助け・・・」


「ゴハァ」


「があああああああああ」



悲鳴と怒号が会場をこだまする。血と悲鳴と死体が当たりを埋め尽くしていく。まさに地獄絵図。阿鼻叫喚だ。


舞い散る赤い花。散在する肉片。逃げ惑う貴族も周りの護衛ごと打ち抜きその悉くを沈めて見せた死神の弾丸はすぐに打ち終わり、辺りに静寂と濃厚な血の匂いを残して消えた。


当たりを埋め尽くす死体と血の海。立っているのは3、4人の貴族とその護衛だけだ。地獄があるならここなのではないだろうか?と思わせる情景だ。


「まだ、残っているとはな・・・中々、いい護衛を持っているな」


「貴様何者だ?」


金髪の貴族はあくまで冷静に男に問いかける。


「お前が知る必要はない」


残りの貴族を殺すため、身体強化を展開する男に向かって一人の護衛が向かっていた。


「主よ、お逃げください!!!」


「時間稼ぎか・・・殊勝な心掛けだな」



男に突撃する護衛、男は死体の山から拾い上げた剣を、護衛は槍を。互いに向ける。炸裂する金属音。


銀槍は折れず、怯まず、弧を描いて鮮やかに振るわれるも、身体に染みついた本能は機敏な防御と回避を両立させる。


男は半身を引いて槍の斬り上げを回避すれば、護衛その1の手元で槍は旋回し遠心力の乗った第二撃が放たれる。即座に鉄剣で打ち払い、お返しとばかりに雷のような一撃を振り下ろす。


爆砕する地面。舞き起こる粉塵を置き去りにして跳躍した護衛その1はバ横合いをすり抜けながら首元へ銀の閃光を振るった。


再び鳴り響く金属音。


「なるほど、優秀だな。だが、足りない。俺の目的をもっと意識するべきだった。それがお前の敗因だ」


「何?まさか!」


「遅い」


男の放った弾丸は貴族の腹部を打ち抜く。


「グウッ・・・クソ」


うめき声をあげる貴族。追撃を加えようと護衛その1の攻撃を躱し、貴族に迫る。


増援を呼びに行った護衛は残っているべきだった。後に、この貴族は己の判断を後悔する。


男の剣は貴族の護衛を貫く。


「何?」


「アラン・・・」


貴族を護衛がかばったただそれだけの話だ。だが、この一瞬の隙は男にとっては致命的だった。


道化の仮面が宙に舞った。









仮面が外れた。


背後から打たれた魔法に仮面が掠ったのだ。俺は貴族と増援のいない反対側に急いで顔を向けた。そして、目が合った。


エルフの少女と。


「いたぞ!!!」


「チッ、増援か。このタイミングで。最悪だ!!!」


俺は急いで腕で顔を隠す。


「『暗黒光線(ヴェゲノム)』」


エルフの少女と反対側にとびっきり強力な魔法を放った。轟音と共に人間の体が焼けこげる匂いがする。


俺は仮面をかぶり直し、エルフの少女のところまで走る。顔を見られた以上ただで返すわけにはいかなかった。


「こい!」


「え?」


目を見開き困惑する少女を視界にいれその手を取る。そして、俺は会場の外を目指して走り出した。

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