フラグ
「それで?これで俺の話を聞く気になったか?」
教会の中でシオンとルルシアは向き合って座っている。シオンの後ろにはウィリアムが、ルルシアの後ろにはナナリアがそれぞれ待機している。
「ええ、あなたは私たちにはできなかったことを成した。話は聞く価値がある・・・」
「良いだろう」
シオンは、そう言って紙の束をルルシアに渡した。
「これは?」
「中身を見ればわかる、それが何を示すのかな」
「ッ・・・・・」
ルルシアは、書類に目を通し驚愕で目を見開いた。
「これって・・・」
「この国の貴族及び商人の汚職、売国に関するデータだ。もちろん俺の知る限りだがな。だが、お前ならこのデータの持つ信憑性が分かるのでは?この国の公爵であるお前なら」
後ろに控えているナナリアも息をのんだ。それだけ貴族にとっては衝撃的なのだ。
「・・・そうね、私が知らないのもかなりいるけど確かにここに書かれているのは私の知る限り王国を腐敗させる害虫ね・・・それで?これだけの情報を持つアンタは信頼に値するっと言えばいいのかしら?」
「そうじゃない。相手の正体が分からないで信用するほど愚かではないだろう?お互いに利用し合わないかと言っている」
「利用し合う・・・」
「要は、その紙束の意味はお前に対する前金みたいなものだ。今俺が示せる俺の価値。それをどう解釈するかは自由だが・・・。俺らはこれから、この国を変える。腐敗しきったこの国を壊していくと言い換えてもいい。その為に、最も手っ取り早くこの国を変革する方法を取る。すなわち・・・」
「腐敗の原因を物理的に取り除く・・・」
「理解が速くて助かるよ。お前には、そのための手伝いをしてもらいたい。お前は、この国の情報を最も収集しやすい立場にいる。アストラル家の諜報能力はこの国では群を抜いている・・・王族をのぞいてだがな。その情報網を使って、そこに書かれた貴族の行動から生活リズムまで調べ上げ俺らに流してほしい」
「・・・私に対するメリットは?」
「分かっているだろう?お前が、望んだ景色が見られるぞ・・・視界にゴミが入らない素晴らしい景色が」
「・・・・・・・」
(ルルシアは、分かってるはずだ。あの書類に書かれた情報は並の諜報力では手に入れられないことを。それに今回の処刑の件で俺の実力は示した。理性では、俺に賭けることには肯定的だ。問題は感情だ。人間というものに冷めきっているルルシアは、誰かに期待をすることを無意識に怖がっている。こればっかりは、ごり押しだ)
「ずっと、お前は思っていたはずだ。人間なんてクズしかいないと。うんざりしていたはずだ。この国の貴族の腐敗や平民の救えなさ加減を。理解していたはずだ。ごくわずかでも、まともな人間は存在していてそいつらはこの王国では生きずらくなっていることを・・・おかしいだろう?どうなっているんだ?こいつらは、この国は何なんだと」
ルルシアは、何かに耐えるように目をつぶっている。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
(あと一押しかな?)
シオンはまくし立てる様に続ける。
「お前はそう思いつつも変えられなかった。そうだ。ただの子供に変えられはしない。公爵家の娘っでも、たった一人の少女には何も変えられはしない。だが!俺ならば、俺らならば、変えられる。それを証明してやる!!!手を取れ・・・ルルシア!!!」
シオンの叫び声で、ルルシアは閉じていた瞼を開いた。
「・・・分かったわ、あんたに賭けてあげる」
ついに、ルルシアが折れた。
あまり教会に長居もできなかった俺らは、次の待ち合わせ場所だけを伝えて別れた。現在はウィリアムと王都のはずれの比較的大きな屋敷に来ている。
「ここは、現在は無人のなっている屋敷だ。本来の持ち主であるフェレス伯爵が王都に来る際に別荘として使っている場所だが、彼は現在体調を崩して療養中だ。人が来ることもない。しばらくはここで過ごすといい」
俺が、そういうとウィリアムは、片眉を上げ怪訝そうに言った。
「なぜこんな場所を知っているのか知らないが、この際、お前の正体は気にしない。だが、腐っても伯爵家の別荘だろう。管理をしているメイドくらいいないのか?」
「ああ、それならも問題ない・・・メイドはかつてはいたんだが今はいない余計コストを抑えたいらしい」
「貴族らしからぬ意見だな」
確かに貴族というのは、見栄を張りたがる生き物だが、領地運営がうまくいかなければそれを優先させざる負えない。実際、そういった理由から無人になっている屋敷は王都には結構ある。
「まあ、貴族にもいろいろあるってことさ。さて、ルルシアにも言ったが一月後に教会で会おう」
さて、比較的順調に仲間も集めたところで次の段階に移行しよう。父上の付き添いで王都に行くという名目だったので、父上の帰還に合わせる必要があり俺は一度領地に帰ってきていた。
朝の訓練を終えて、部屋でこれからについて考えていた。ルルシアは、恐らく俺の手渡した書類に記載されていた貴族について調べなおしかつ、今王都で一番活発に動いているプライドヴェーダ家に目をつけるだろう。
あそこの家は、主に王国の軍事関連の支援をしており、怪しげな魔具を作っているという噂がある。俺は、これが原作知識により、真実だと知っている。この世界には宝具と呼ばれる古の技術力で作られた魔法の道具がある。それは、適正さえあれば、魔法の使えない者でも並の魔法以上の力を行使できるというぶっ飛んだものだ・・・分かりやすく言うなら、一番性能の低い宝具でも、レベル一のスライムでもレベル40ぐらいの勇者を倒せるようになるようなものだ。一つ存在するだけで、かなりの戦力になる。
問題点と言えば、中々適性のある人間が出てこないことだ。
そこで王国や他の国はこれを人工的に作れないのかと考え、模索した。しかし、現在の技術では模倣は不可能であるという結論に達した。だが、プライドヴェーダ家は諦めなかった。執着したと言い換えられる。長きにわたる研究の末・・・そこにたどり着いた。魔法使いの脳と血液を使い宝具並みの魔具を完成させてしまったのだ。しかし、完成度は宝具に肉薄はするものの本物とはいいがたい。性能は、宝具のさえ低レベル位。故に彼らは、さらなる研究のために人身売買を行っている。
「本当に、欲深いな・・・」
「なにが?」
独り言のつもりだったのに返事が返ってきた。横を見れば、妹のセナがいつの間にかいた。椅子のひじ掛けに両手と顎を乗せて、寄りかかっている。
「何時からいたの?」
「さっきから」
「・・・ノックした?」
「した。でも返事がないから入った」
「もうちょい頑張るって選択肢はないのか?」
「ない」
悲しきかな間髪入れずにプライベートを否定された。今回は良いけど、俺のもいろいろと入られたら困る状況というのが存在する。できれば気を使ってほしいものだ。
「それより、誰が欲深いの?」
「そうだなぁ・・・人類?」
「それを言うと、兄もだけど・・・」
セナは呆れたように言ってくる。まぁ、その通りなんだけど。
「それはそうだ。分かってるよ。でも、あのくそ貴族と同じにはしないでほしいな」
あんな自分の欲望しか見えてないバカと同じにされるのは心外だ。
そういいながら膨らんだ頬を突く。プニプニと柔らかい頬の感触が指に伝わる。
それにしても餅みたいだなぁ、と思っていると、扉がノックされた。
「シオン様、セナ様。お父上がお呼びです」
専属の執事の声だ。まさかリアルに執事やメイドさんを雇うことになるとは思わなかったけど、漫画やアニメと違って、普通に年配の執事やメイドさんだ。
イケメン執事や美少女メイドとかは夢のまた夢なのだ。思わずセナと顔を見合わせた。
「父上が?分かりました。すぐ行きます」
「めずらしい」
セナが言う通り、確かにめずらしい。
「まあ、行ってみれば分かるだろ」
「「失礼します」」
「来たか」
窓から差し込む太陽の光を背に、重厚なデスクに坐すのは王国貴族、スノードロップ家当主、アルテイル・スノードロップ。俺らの父親だ。俺と同じ黒髪にセナと同じ翡翠色の眼。容姿は整っているのだが、人を殺せそうな鋭い目つきが相手に恐怖を与えてしまっている。
「何の御用ですか?」
「まずは座れ」
俺らは促されるまま、ソファに身を埋めた。俺と向かい合う形で、父上はソファに座った。
「一週間後、王都でアイリス殿下の誕生パーティーが行われるのは知っているか?」
「知りません「知っています」」
「え?セナ知ってるの?」
「結構、話題になってる。アイリス様はあんまり表に出てこない人だから」
アイリス王女。王国の第四王女。王族の中で、この国の現状を理解している人物の一人であり魔法の才能にあふれた人物。かなり容姿も端麗なのだが、王位継承権はないに等しくさらに人と話すのが好きではないためあまり表に出てこない人物だ。ゲームでも、ほとんど出て来なかった。幕間のストーリーでは出てきていたが・・・。
ただ、続編ではパッケージの表紙に描かれていた一人だ。
重要な人物なのだろう。
「お前前たちにはその王女の誕生会に参加してもらう」
「?何故俺らが?兄上は?」
いかに第四の王女の誕生会と言えども、次期当主である兄が行かないのはまずい。
「ヴァルンは、今別の用事でここの国にいない」
「別の用事?」
「この国にいない?」
俺たちは、二人そろって怪訝そうに顔を顰める。
「色々あってな・・・まあ、そんなことはどうでもいい。どちらにしろ、お前たちに拒否権はない。なに、貴族とパイプを作るいい機会だ。渋る理由はないだろう」
面倒くさい・・・この一言に尽きる。王女の誕生パーティーなど面倒くさすぎる。貴族たちのギスギスした権力争いなど見たくないし、顔も知らない王女の誕生日を祝いたくもない。確かに、貴族とのパイプは重要だし、魅力的だ。しかし、それを上回る面倒くささだ。俺ら兄妹はこういった催しは嫌いだ・・・騒ぐのは好きだが、気を使わなくてはいけない漢字の奴は嫌いなのだ。しかし、悲しきかなそんなことを吐露できるはずもなく
「・・・分かりました」
言えるのはこの言葉だけだった。
まあ、行だけなら別に王女に関わることもないだろう。