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始まり

気分転換に書きます。

俺は転生していた。といっても、つい最近思い出したのだ。前世の俺はごく普通も高校生。今世は、王国貴族、伯爵家の次男だ。


現在は12歳。記憶を取り戻したのは半年前だ。記憶を取り戻したその日に気づいた・・・この世界は、前世にやっていたゲーム、ブレイヴィストリーの世界だと。


この世界は、主人公が魔王を討伐するために仲間を集めて浴びをするというありふれた物語なのだが、綿密に編み込まれた伏線、重厚なBGMそして秀逸な文章。それがが合わさって、かなり評価が高い作品になっていた・・・極めつけは、魔王討伐後仲間であったはずの聖女の裏切りにあいそのまま続編へ行くという怒涛の展開で人気を呼んだ。

そして悲しきかな、その聖女と俺は現在進行形で一緒にいる。始まりは、二年前。



当時、屋敷で過ごしているのが何となく嫌で屋敷をこっそりと抜け出して、街をぶらついていた。街に出ると決まって、教会に行っていた。


「今日も来たぞ、神父」


「また君かね・・・貴族の息子がこんな家でまがいなことを繰り返すものではないと思うがね」


昼間のこの時間帯は基本的に人が居ない。だから、この時間は神父にとっての休憩時間。閑散としたその教会に神父は足を組み座っている。タバコを吸い、片手には聖書に見せかけた本が握られている。服は着崩しており、とても神父とは思えない。しかも、かなり年を食っているであろう男がやっている。


「相変わらずの不良神父だな」


俺は、先ほどの神父の言葉は聞かなかったことにした。


「信者の前では、しっかりしているよ」


「そういう問題ではないと思うけど」


「信者の悩みを聞いてやり、心をケアするのが神父だ」


「ちなみに神は信じてる?」


「信じているわけがないだろう…生まれてこの方神をありがたがったことなんぞない!」


「やっぱ、神父失格だろ‥‥…」


そんな会話をしながら、神父とだべり、信者がき始めたら、大通りの露店を見ながらお菓子を探す。それを繰り返していた。


ある日、街を歩いていると裏路地にうずくまっている人影を見つけてしまった。俺が歩いているのは大通りで、少し入った裏路地はそんなに治安が悪い場所ではない。だから、少し好奇心に駆られて人影に近づいた。俺の視界に入ってきたのはうずくまっている少女だ。年は俺と変わらないだろう。鮮やかな紫色の髪と、やや青みがかった灰色の瞳が特徴的な美しい少女だ。

紫色の髪は首筋のあたりで、簡素なリボンによって束ねている。

ここまでは問題はなかった。問題は着ているものにあった・・・少女も服は一見、飾り気のないワンピースだが、かなりボロボロになっており完全に面倒事の空気を漂わせており思わず避けたくなる。

しかし、そんなボロボロの服でも、少女は美しい。少女の美しさに見惚れていると、見るものを吸い込みそうな不思議な青灰色の瞳と、ばっちり目があった。


少女は俺を見て、視線を露店でさっき買った俺の手の中にある食べ物に移し、苦しそうにそうに眉をひそめた。少女は動かない。俺は少女の近くまで寄る。少女は俺の顔を下から覗き込むようにして、口を開く。


「お腹が・・・減りました」


キュ~っと、動物の鳴き声のような可愛らしい音が響いた。なんだか納得してしまった。お腹が減ってるのかと。なんてことはないただの行き倒れだった。


「食べる?」


そうして俺は持っていた食べ物を少女に渡した。


これが出会いだった。








まあ、なんやかんやで神父に引き取ってもらってこの問題は解消した。しかし、何故かかなり懐かれてしまい、今もよく遊んでいる。記憶を取り戻したあと俺が、子供と一緒に遊べるかと言われると、微妙なところだったが精神が肉体に引っ張られているらしくできなくはなくなっている。


「オ・・・オン・・・シオン!!!」


「うお、なんだよネリア」


「あなたが何回呼んでも返事がないからです!!!」


ネリアがぐいっと顔を近づけてくる。ネリアの綺麗な顔がやけに近い。


「そ・・・それで?今日は何処に行く?」


「そうですね・・・森の泉でゆっくりしたいです!」


「そう、じゃあ、そうしよう」


「ムゥ・・・シオンも少しはやりたいことや行きたいとこなどを言ってください。私は口で言ってくれないと分からないので・・・」


ほほを膨らませ、私怒ってますとでも言いたげな顔で俺に迫る。


「特にない」


「・・・・・・」


今度は、ジト目をしてくる・・・表情が豊かなことだ。


「取り合いず、行こう。かなり時間がかかる」


そう言って、俺たちは歩き出した。


歩いて一時間ほどで、泉に到着する。泉は、かなり透明度が高くそして周りの景色もいい。まさに絶景だ。

森の中央近くにあり、人里の喧騒など感じさせない。この森は、日本では見たこともないような鳥や動物たちもいる。最初に入った時は感動したものだ。


「うわ~、凄いですね!いつ見ても。絵本の中にいるような気分になれます」


だから、そういう風にはしゃぐ気持ちもよくわかる。くるくるとその場を回り、飛び跳ねながら喜びを表現するネリアを横目に俺は作ってきた弁当を広げる。


「うわ~おいしそうです」


「取り合いず、飯にしよう」


「相変わらず、シオンの作る料理はおいしそうですね」


「ネリアも作りなよ・・・経験がものをいうよ」


「それはそうなんですけど神父様は私が作ろうとすると、自分が作るからいいって止めるんですよ。なんでなんでしょう?」


サンドイッチをつまみながら、俺に問いかけてくるネリアに「ネリアの料理がマズすぎるからだ」と突っ込みそうになったが言えなかった。


「さあ?何でだろうな・・・神父は、ネリアのことが心配なんじゃないか?」


気づつけないように最低限の情報だけでフォローをしておいた。そんなこんなで昼食を終え、ごろんっと芝生の上に寝っ転がる。青空を見ながらふと気になったことを考えた。


何故、ネリアは主人公を裏切ったのだろう。俺は、ネリアの過去をそんなに深く知っているわけではないが二年も一緒にいる俺から見ても裏切るようには見えない。残念ながら、俺は続編をプレーしきる前に死んでしまったので真相を知らないのだ。


俺の隣で、気持ちよさそうに寝っ転がっているネリアの横顔を見ながら考えに浸る。


「なあ・・・ネリア。お前は・・・ッ」


いきなり空気が重く感じた。――瞬間。先ほどまで聞こえていた、森のざわめきは消え失せていた。今の今まで鳴いていた鳥たちの歌も、動物の鳴き声も何もかもが消えうせていた。


無言。無音。まるで生物がそもそも存在していなかったかのような静寂が森を覆った。隣のネリアも確認するが声を殺すどころか呼吸すら止めているように見えた。俺らを襲ったのは、自身を覆う空気が凍結したかのような、痛いほどに冷たい『死』の感覚。平和極まりないただの森に存在する事自体が不自然な、あまりにも場違いな空気。


音を立ててはいけない、声を上げば死ぬ。呼吸を止めろ。鼓動を止めろ。全力を以て身を隠せ。


本能が身体に全力で囁き掛けて、その動きを無理やりに縛り付ける。気取られた時が、最期。生き残ろうと、必死に足掻く。


俺は、それが俗に殺気と呼ばれるものが引き起こした現象だと気付いた。


そしてそれは次第にどんどん強くなっていく。


——————そしてそれはそこに居た。


目の前に現れたのは片目を眼帯で覆った銀髪のの男だった。俺はそれが誰か知っていた。


「ほう、人間がいたのか・・・たまたま通りかかっただけなのだがな」


一声・・・たった一声。本人からすれば、ただしゃべっただけ。しかしその重圧は隣のネリアの意識を刈り取った。


「ほう、そこの少女。聖女だな」


「お前は・・・まさか、そんなはず・・・」


ネリアの前に立ち、震える足を無理やり立たせる。


「勇敢だな少年・・・少しばかりうらやましいぞ」


「魔王・・・なのか?」


「ほう、勘のいい少年だ。その通り、我は、魔王。貴様ら人類に牙をむくものである」


魔王は少し驚いたように目を見開いた。そしてニヤリと笑う。


「少年、名を名乗れ」


「・・・シオン・・・スノードロップ」


声が震える。足が震える。視界が揺れる。


「ではシオン。我は貴様が気に入った。貴様に選択肢をくれてやる。今から、俺のやることを拒絶しないならそこの少女は生かしておいてやる」


「やることってのは、ネリアを殺すことじゃないのか?」


「違う、その少女には手を出さないと誓おう・・・ただし、ここでの記憶にはふたをしてもらうだろうがな」




「・・・分かった」




そう言った瞬間、俺の片眼は消滅した。




「?ああああああああああああああああああ!!!!」


痛い、痛い、痛い、痛い。熱い、熱い、熱い。まるで炎を突っ込まれたかのような感覚に俺は悶える。


「案ずるなしばらくすれば元に戻る・・・先に言っておこう。これは呪いだ。忌々しき、愚か者たちが考えた世界の法則。それは、お前に力を与える代わりにお前を変容させる。我の死と連動し完成する呪い」


「何・・・を言っているんだ」


「この世界は、150年置きに魔王という存在を生み出す。そういう風にできている。そして、数千年に一度魔神を生み出す」


「魔神・・・」


「この世界は、人々の戦争がちょうど泥沼化し始める時期に魔王を召還する。すると一時は戦争は消失する、少なくとも表面上はなくなる。圧倒的な魔王という共通の敵に一致団結して戦いを行うからだ。だが、何千年もすれば人間たちが学習し各国が団結しなくても魔王を打倒しうる力を手に入れる。さらに進化を重ねれば、人間を魔王というシステムでは抑えておけなくなる。文明は発展を続け人々は戦争を続ける・・・そうなる前にさらにねじ伏せるための力が魔神だ。魔神は、魔王が死んだとき一度人間側を亡ぼすために作られる」


「話が見えない」


そう言いつつも、何となく頭では理解していた。きっと、ネリアが主人公たちを裏切った理由はこれなのだ。


「簡単に言えば、我が死ねば貴様は魔神となり人類を滅ぼしにかかる・・・そこに貴様の意志は関係がない。その呪いは、一個人で抑えられるほど緩くない。貴様は、自分の意志関係なく愛する者も友人も敵も、戦友も何もかもを殺す殺人機械になるということだ」


「べらべら、しゃべるんだな」


「せめてもの慈悲だ」


「今俺が自害すればどうなる?」


「・・・貴様は死ねない。我が生きている間は呪いが貴様を生かす」


「お前が死んだ後なら殺されはするんだな」


「・・・昔の自分を見ているようだな。そうだな、我からの謝罪として一つ教えてやる。我が死んでから貴様が魔神になり切るまでには僅かだが時間がある。本質的な力は魔王である我と同じだ。聖属性の力ならお前を屠れるだろう」


「お前は一体何なんだ?」


「貴様と同じ、世界のバカげた法則に踊らされる道化だ。さっき、我は慈悲で貴様に情報を話したと言ったがそれは嘘だ。このくだらない法則を貴様が壊せる可能性に賭けたくなっただけだ」


そう言って、闇に飲まれるように魔王は俺の前から消えた。


一気に脱力する・・・なんだか、今まで夢を見ていたように感じる。実感がない。

同時に納得していた。恐らく、これが続編のあらすじなのだろう。聖女はこの呪いを受けていた。この世界では俺がいたから食い違いが生じ、ネリアは呪いを受けなかった。ふと、隣で気を失っているネリアを見た。俺は前世を思い出したがそれは知識のようなもので、この世界はゲームの世界という意識はなかった。はっきり言って、ネリアにはかなり気を許してしまったし、殺すなんてたまったものじゃない。それは、家族の人間も例外ではない。だから俺は、殺すぐらいなら殺されたい。どうせ、二度目の人生だしな。


その為には、魔王が言っていたわずかな時間を利用するしかない。しかし、ゲームをやっていた俺としては事情を知った主人公には性格上俺は殺せないと思う。


ならば、最初っから悪役になっておけばいいのでは?


これだ、これしかない。どうせなら、俺も楽しませてもらうぜ・・・悪役ロールプレイング!!!




 


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