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88.連戦、合流

 あまりの連戦にオッサンは辟易したのだ




 爆風が収まり、一度目よりも軽い風が戻ってくる。

 群れを相手にしたときよりも範囲を狭めるために、酸素と水素の量を少なめにしたからだ。


 砂埃が晴れると、そこには頭部を失ったクイーンアントの姿があった。どうやら黄虎の族長が砕いた片目に、上手く威力が集中したようだ。


「よし、これで……」


 誰かが安堵の声を上げかけたところで再び地響きが轟く。だが、今度は濁流が押し寄せてくるわけではなさそうだ。というのも音は下流から聞こえてくるからだ。


「まだ他に侵入経路があったのかい!」

「いいや、あれだけくまなく探したのだ。新たに掘った……いや、途中まで掘っていたか?」


 黄虎と黒狼の族長が眉間にしわを寄せ口々に推測をこぼす。流れ的に、最初に戦っていた群れは川の下に通路を掘ってこちらに渡ってきていたのだろう。

 ……となると挟み撃ちにするのが本来の目的だろうか?


「これは他のチームも……」


 嫌な予感に苛まれながらも、我々は新たな蟻の群れに対処すべく陣形を整えた。何にせよ、この状況を乗り切らなければ。




 グレイシアが「水流壁」で魔物の群れを抑え、私が水素と酸素を集めて金狐族が火を放つ、という一連の戦法で三度現れたソルジャーアントの大集団を危なげなく片付けた。


 体力に余裕のある者たちが侵入路をつぶしに走り、怪我をした者と後衛は治療と休息に入る。私たち探索者団も休憩させてもらうことにした。

 後半からセーブしたとはいえ、私の魔力はすでに三分の一を下回っているだろう。グレイシアも地味に魔法を連発しているため消耗は大きい。とにかく今は魔力の回復を優先したいところだ。


「みんな大丈夫?」

「ん」

「さすがに疲れたわね……」

「前衛の皆さんほどではありませんが、それなりに抜けてきた個体もいましたからね……」

「私は二回、回帰を使っただけだから大丈夫」


 グレイシアの言葉に娘たちが口々に応えた。アルジェンタムは意外と平気そうだが、他の三人はさすがに疲れが見える。

 なにせここまで大規模で長時間にわたる戦いは皆はじめてだ。私とてエルフの里での経験しかない。

 ただ、私の場合は昇級回数が多く体力も上がっているため余裕がある。警戒役は私とグランツが担うべきだろう。


「みんな集まって。『乾燥』しておこう」


 冬に濡れっぱなしは危険だから全員を集め、魔法で装備を一気に乾燥させる。

 獣人たちの一部は森まで走り、薪を拾い集めてきたようで、方々で焚き火が始められた。彼らの厚意で女性陣も火を囲む輪に加わった。


「ソウシ、ちょっといいかい」

「この後のことを決めておきたい」


 グランツと共に川の分岐点そばで警戒に当たっていると、黄虎と黒狼の族長に声をかけられた。

 話の内容は「川上に向かうかどうか」だった。

 もし他のチームも同様の襲撃に遭っていたとすれば、無事かどうかは微妙なところだ。

 とはいえ見捨てるわけにもいかない。彼らの民族性からしても、その選択はなさそうだ。

 となると自ずと取れる行動は少なくなる。


「やはり休憩の後に、最も余裕のある者を選抜して偵察に出すべきか……」

「といっても、みんな疲れてるからねえ……」


 二人とも助けに行きたい気持ちと、群れを預かる責任から軽はずみな行動はできないことの板ばさみにうめく。


 私たちが駆けつけてから一時間近く戦っていたということは、彼らはもっと長い時間戦い続けていたということでもある。

 いくら身体能力の高い獣人たちでも、これ以上の継戦は厳しいというのが本音だろう。

 しっかり休憩をとっても万全の態勢とはいえない。


「今のうちに体力的に厳しい人を黒狼の村に戻して、援軍を呼んでもらうのはどうでしょう?」

「うむ、そうだな。あとは数人で偵察しつつ安全を確保し、余力のある者が後に続くのが妥当か」

「よし、じゃあ戻す者を選んでおくとしようか」


 私の提案に族長たちが頷き、足早に獣人たちのもとに戻っていった。

 なんというか、やるべきことはわかっていたけど最後の一押しがほしかったという感じだ。助けに行きたい気持ちを抑える理由に使われたというか……。

 まあ、それで行動できるようになったのなら問題はないのだが。


 黒狼の村に戻る者が出発し、川上に向かう人数は半数ほどとなった。獣人たちと我々で十四人。その内、私とグランツ、そして黒狼の族長が先行し偵察を行う。


 正直なところ、女の子チームは村に戻る獣人たちに同行してほしかったのだが、本人たちの意思とグレイシアによる判断でこちらに残ることが決まった。


 はっきり言って確実に面倒事が待っているだろうに、なぜ彼女たちは残る気になったのか……。


「では行くか、ソウシ」

「ええ、行きましょう」


 黒狼の族長に促され、我々は川上へと向かって駆け出した。

 なんとか無事でいてくれればいいのだが……。




「戦っているな」


 グランツが警戒をあらわにした時、黒狼の族長がそうつぶやいた。

 川上へ向かって移動すること三十分ほど。どうやら獣人たちと魔物の戦いを見つけることができたようだ。


「私が残ります。族長は戻ってください」

「……そうだな。手数を考えれば、それが妥当か。ここは任せる」


 黒狼の族長は私の提案に乗り、即座に来たルートを駆け戻る。私はグランツと共にこのまま前進だ。

 幸い、ここから先は川原のすぐそばが完全に森になる。この環境ならソルジャーアントより獣人のほうが有利に動けているだろう。考えてみれば獣人族は森のエキスパートだ。木々を利用して上手くしのいでいたということか。


「ウォーン!」


 グランツが接近を報せるためか遠吠えをあげる。これで私たちがうっかり攻撃される可能性が減る。

 私は川原側から一気に近づくことを選択した。その意図を汲んだグランツが先導するように前に出る。するとすぐに川原でうごめく大量の巨大蟻が見えた。


「……水流壁!」


 もはや水辺の定番と化した魔法を発動し、森へと入り込もうとしている蟻の群れを押しとどめる。続いてこれも定番となったグランツによる、電撃を水に流しての牽制が行われた。


「思いつき魔法いってみるか……水流刃!」


 私の声にあわせ、水の壁から圧縮された水の刃が発射される。それは巨大な剃刀のような形で、見た目に違わぬ切れ味を発揮した。「水流壁」の前にいた数十体のソルジャーアントがことごとく両断され、死骸が水辺にばら撒かれる。おっそろしい効果の大きさだ。


「ソウシか!」

「よう来てくれた!」


 特異な魔法で私の到着を察したらしい声が森から聞こえてくる。おそらく灰狼と赤熊の族長だろう。どうやら彼らは無事だったようだ。


 川原周辺にいた魔物は大半が片付いた。ここからは獣人たちのフォローに回り、後続が到着するのを待つとしよう。


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